奈良県奈良市の平城宮跡(特別史跡)の国営公園化整備に伴う国土交通省近畿地方整備局国営飛鳥歴史公園事務所の治水関連の工事で林地約1000平方メートル伐採されたが、同林地はツグミやシジュウカラ、ヤマガラなど多くの野鳥が訪れる常緑樹林だったことが、日本野鳥の会奈良支部長・川瀬浩さんの指摘で分かった。川瀬さんは「残してほしかった」と落胆している。時間を掛けて形成された環境が一瞬にして変化した。
同事務所は1月、雨水を一時的に貯留する調整池の築造工事に着手したが、予定地にある湿地の自然環境への影響などを懸念する「平城宮跡を守る会」(寮美千子代表)が5日、工事現場の視察会を開き、川瀬さんも参加した。
伐採現場は、レンカク池と呼ばれる奈良文化財研究所が戦後に築造した池の北にある林地で、県道谷田奈良線に面している。植樹されたシラカシなどが数十年かけて育ち、野鳥が飛来して観察を楽しめる場所になっていた。川瀬さんの話では、付近では奈良県版レッドリスト絶滅危惧種のトラフズク(フクロウ科)や同希少種のアリスイ(キツツキ科)などの珍しい野鳥が確認されている。
この日、「守る会」の要請で工事現場を案内をした同事務所の伊勢達男副所長によると、伐採は調整池を造るにあたり、関連する水路を拡幅する工事のため実施したという。工事をする水路はレンカク池につながり、同池に貯まる水は調整池などに流す計画。
平城宮跡は菰川の流域にあたる。奈良県河川課によると、同事務所による第一次朝堂院跡の舗装計画などに伴い、1年前に同事務所と治水対策を協議。同課は、大和川水系における市街化調整区域の開発基準に従い、1時間に69ミリの豪雨(50年に1度の確率)を想定した下流の洪水軽減策を講じるよう指導した。これにより同事務所は、第一次大極殿前広場の西側にある二つの湿地の周囲に計約2300立方メートルの土を盛って堤防を築き、調整池を造る。
視察会には約30人が参加し、築堤によるアシの生育環境の減少を懸念する意見や、関連の工事で同所をねぐらにしているツバメや奈良県版レッドリスト希少種のカヤネズミなどの野生動物に悪影響だとする声が相次いだ。
宮中心部の建物復元など宮跡の整備方針をまとめた奈良文化財研究所の平城遺跡博物館基本構想案は1977年にできたが、98年には河川法が改正され、治水や利水に加え、環境が法の目的となり、住民の意見を反映する手続きなどを盛り込んだ。法改正を踏まえて奈良県が2002年に策定した河川整備計画は、平城宮跡を開発されていない畑地として菰川流域の流下能力をとらえていた。
荒井正吾・奈良県知事の要望を受け、同事務所が進めようとしている平城宮跡の国営公園整備事業は、草地や樹木が減少するが、それによる治水対策として実施する調整池の築造が環境にどう影響するのか、論議を呼びそうだ。