奈良女子大講師の室崎さんが災害時の仮設住宅調査、バリアフリーに遠い実態明らかに
災害救助法に基づき被災地に設置された応急仮設住宅が障害者や高齢者に暮らしにくい構造になっている実態について、奈良女子大学生活環境学部講師の室崎千重さんが29日、奈良市北魚屋東町の同大学で開かれた「サークル90福祉塾」(代表、リングフォーファー・マンフレッド大阪産業大学教授)のシンポジウムで講演した。
室崎さんは、東日本大震災や紀伊半島大水害など各地の被災地における仮設住宅の実態を調査しており、この日の演題は「仮設住宅のバリアフリー~地域での高齢者の生活を支え環境づくり」。法定が標準とする1戸当たり平均29.7平方メートル(9坪)の規格が「とても狭い」と問題視した。ある被災地では、ダウン症の15歳の生徒とその兄弟、父母の計4人が9坪の仮設で暮らしていたが、狭すぎて暮らしにくくなり、兄弟が親類の家に身を寄せることになったという。
厚生労働省は、2011年6月、仮設住宅のバリアフリー化への対応を促す通知を関係機関に発している。段差や手すりなしの構造が当たり前だった阪神大震災(1995年)当時の仮設住宅と比べると、浴室やトイレの段差などは解消されつつある。断熱材や二重ガラスなどの採用も推奨されている。
しかし室崎さんの調査によると、浴槽の脇に洗面台を設置している仮設住宅が現在も多く見られるという。洗面台が障害者や高齢者らの入浴介助をするなどの際に障害になっている。改善するには、トイレと浴槽が一体のユニットバスに設計変更する方法もあるが、そうすると家族の誰かが入浴中のときはトイレが使用しにくくなってしまう。
東北などの被災地は、仮設住宅の生活が法定の2年を超えて長期化しており、「憲法が保障する健康で文化的な暮らしとはほど遠い」と室崎さん。
一方、被災地の自治体が仮設住宅のコミュニティー作りを工夫する事例もある。復興に向かうと、友人同士になった高齢者の人々がばらばらに散っていくことになる。その寂しさが新たなストレスを生んでいるという。人を支えるということが、いかに息の長い政策を必要とするのかを物語る。
会場では、11年の紀伊半島大水害で奈良県十津川村が設置した木造の仮設住宅の映像も紹介された。地元産材や県産材を用いて施工され、プレハブの仮設住宅とは異なる柔らかな質感が参加者らの目を引いた。出入り口の床はデッキ構造で各戸がつながり、戸外に洗濯機を置くこともできた。しかし、室崎さんがスロープで行った車いす走行の実験では、勾配が急なため障害者らが自走するのは困難なことも分かった。
災害救助法に基づき仮設住宅に支出できる公費は、9坪当たり約240万円。バリアフリー化を図るには現実的な金額でなく、追加工事の発生などにより、東日本大震災における岩手、宮城、福島の3県では、600万円代から700万円代にコストが上昇していた。
地域によっては、役割を終えた自治体の木造仮設住宅が、解体後に希望者に払い下げられた事例もあり、喜ばれたという。設計次第ではコンパクトな住まいが好まれ、離れとして再利用されるなどの明るい話題も室崎さんは提供した。
大災害が続いた日本の仮設住宅のあり方は、まさに統一地方選の課題であろう。