ニュース「奈良の声」のロゴ

地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

最新ニュースをメールで受け取る【無料】

コラム)山林地域のメガソーラーお断り/政治と憲法の風景・川上文雄…23

2021年4月末ごろの山の様子。地元ハイカーが撮影。「平群のメガソーラーを考える会」ブログに掲載。48ヘクタール全体がこのような状態になってしまった

2021年4月末ごろの山の様子。地元ハイカーが撮影。「平群のメガソーラーを考える会」ブログに掲載。48ヘクタール全体がこのような状態になってしまった

 出力1000キロワット=1メガワット以上の太陽光発電をメガソーラーといいます。筆者の住む奈良県でも、平群町の山林地域で建設が進行中です。用地の広さは48ヘクタールで甲子園球場12.5個分。緑ゆたかな山林はすでに皆伐され、一帯は土色の無残な姿に。しかも深い谷の部分を建設残土で埋めている。ますます急斜面になった用地に6万枚の太陽光パネルという計画です。この土地を豪雨が襲ったら…。昨年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害(死者20人以上)を思い出すだけで十分です。広範囲の平群町住民が、大水害による生活破壊・生命の危険に直面しています。

 また、メガソーラーは日本中のすべての人に関わる問題でもあります。災害が発生すれば復旧・復興のために莫大なお金を費やすことになる。自然破壊のメガソーラーが引き起こした災害に貴重な税金を使う。もっと別のことに使えたはずのお金です。日本全国いたるところで建設が急速に進行中です。

 昨年の1月以来、平群町の人たちは「平群のメガソーラーを考える会」を結成して反対運動をおこなっています。運動の詳細を伝えるブログは事態が深刻であることを伝えています。ブログの今後に注目しつつ、これまで学んだことをお伝えします。

生命と生活の最前線で働く

京都府南山城村のメガソーラー開発地の様子(「平群のメガソーラーを考える会」ブログより)

京都府南山城村のメガソーラー開発地の様子(「平群のメガソーラーを考える会」ブログより)

元の様子。左側の山を削った(同ブログより)

元の様子。左側の山を削った(同ブログより)

 生命を育み・守り、生活を支える山間部の森林。以下の機能を持っています。(1) 生命を育む。多様な生物が栄養を交換して、生命が循環(2)きれいな大気。きれいな水(水を浄化。浄化された水は伏流水に)(3)災害を防ぐ(地盤を安定させる)、気候を安定させる緩衝機能(2020年9月14日ブログより)。メガソーラーが森林を破壊して、以上の機能が失われます。

 森林は人々の生命と生活の最前線。遠くに暮らす人たちが恩恵を受ける。その最前線で働いているのが、各地で反対運動をしている人たちです。その点で、医師・看護師、生活物資を運ぶ運転手など、コロナ禍のなか、生命と生活の根幹にかかわる仕事をする人たちと似ている。どちらもエッセンシャル・ワーカーです。

 奈良県境に近い京都府南山城村のメガソーラー。80ヘクタールの用地を視察した平群町の人の声です。「根こそぎ木を切られ、削られた山の無残な姿にショックを受けて帰ってきました。…流れている川まで工事して流れを変えてしまう。蛍の飛ぶ美しい里山だったそうです。残念でなりません」(2021年2月14日ブログより)。現場からの声に耳を傾けたいと思います。

外から来て奪い去る

 外部から地域に来た開発会社が建設するメガソーラーは、利益を外部に持ち去って、その分だけ地域を貧しくする。また、その電力を使う人たちにも損を与える。そのことに、FIT制(固定価格買取制度)が一役買っています。

 この制度について「平群のメガソーラーを考える会」発行のニュース3号(2020年7月28日ブログに掲載)に以下の解説があります。「(FITとは)国が再生可能エネルギーを普及させるため、電力会社に発電を高額で20年間買取るよう義務づけたもの。電力会社は高く買取った分を、電気利用者へ再エネ発電賦課金として徴収します。企業(メガソーラーほか)の儲けは私たちが払うのです」。2019年度の数値で見ると「1世帯平均885円、平群町8000世帯で年間8496万円、20年間で16憶9920万円」。

 以上の数値について補足が必要です。(1)平群のメガソーラー発電だけでなく、平群以外の地域の山林破壊メガソーラーが関西電力に売った電気も含まれる(2)ソーラー発電以外の再生エネルギーの分も含まれる。

 とはいえ、誰が利益をえて、誰が損をするかは、このニュースにあるとおりです。メガソーラーのある地域の人たちは災害の危険のなかで生活しながら、一般の利用者として「再エネ発電賦課金」を払っている。メガソーラーに無縁な地域の住民も、危険メガソーラー発電会社のために「賦課金」を払うという「損」をこうむる。そして、どちらの地域の人も、災害対策にかかる膨大な費用を税金というかたちで負担する。

 一方、売電する会社としては、大きな利潤を効率よく得たいのであれば「大規模な施設を山間部に」と考えて当然です。そのように誘導してしまうのが現在のFIT制度。地域の自然を破壊する「再エネ」にまで賦課金を与えてしまうところが問題です。

条例制定で生活環境守る

 住民の立場にたって積極的に対応している地方自治体があります(以下2021年2月28日ブログより)。山梨県は「発電施設が…生活環境を脅かす事例」があるとして、「森林伐採を伴う開発や、急傾斜地への設置は原則として禁止する」条例を制定する方針を固めました。また、メガソーラー乱立によって災害が起きた岩手県遠野市は、1ヘクタール以上の太陽光発電事業は許可しないなど、厳しい内容に条例を改正しました。

動き弱い奈良県庁

 以上の事例とは対照的に、奈良県の動きはとても弱い。有効な条例はまだ制定されていない。なんとか昨年の6月22日、奈良県は工事停止命令を出しました。理由は、会社が県に提出した工事許可の申請書類の不備でした。根拠薄弱、ねつぞう・偽装のデータをもとに作成されていたのです。しかし「許可取消」はしていません。

 2020年3月8日、平群町の住民約1000人が、土砂災害の危険性が高まるなどとして、工事差し止め請求の訴訟を奈良地裁に起こしました。しかし、裁判に勝っても、奈良県が許可取り消しをしても、その後会社が建設を断念しても、緑の森林がもどるわけでなく、災害の危険性は消えません。条例制定を含めて、その後どうするのか。奈良県庁の責任は重大です。県議会も早急に対応すべきです。

【追記】

 メガソーラーが問題になる以前から、山林開発を規制する条例などを積み上げてきたのが三重県です。そのせいでしょうか、三重県を避けて、接する奈良県北東部の山添村でメガソーラー建設をもくろむ会社があります。山添村でも反対運動が組織されています。また昨年12月には「メガソーラーを考える奈良の会」も結成されました。

(おおむね月1回更新予定)

川上文雄

かわかみ・ふみお=客員コラムニスト、元奈良教育大学教員

読者との対話