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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

視点)井戸豊富な奈良町 市調査で判明 観光活用見送りも防災面で期待

清水が湧き出た逸話が豊富な清水通りかいわい=2020年10月26日、奈良市高畑町

清水が湧き出た逸話が豊富な清水通りかいわい=2020年10月26日、奈良市高畑町

古井戸のある風景=2020年9月、奈良市多門町

古井戸のある風景=2020年9月、奈良市多門町

 奈良市は7年前、市内の172世帯を訪問し、井戸水利用の実態について調査をした。県内の水事情は今後、県が進める県域水道一体化計画により激変することになる。市民の独自の水源を調査したこの記録から何か学ぶべきことはないか。記者は、市情報公開条例を利用して入手した調査の詳細を確かめた。

 調査は市の旧観光振興課が「奈良町プロジェクト」と名付け、約700万円の経費をかけて実施した。当初の目的であった井戸水の観光への活用は実現に至っていない。井戸所有者の約3割が観光活用に協力できないと回答したためという。

 調査では、主に奈良町と呼ばれる旧市内一帯および奈良きたまちと称される近鉄奈良駅北部の民家計5996世帯にアンケート票を配布した。904世帯から回答があった。うち384世帯が「井戸がある」と答えた。

 井戸がある家のうち、飲み水として利用している家は14世帯、散水程度に利用している家は200世帯あった。

 調査を受け入れてよいと回答した172世帯を、委託業者が訪問、計198基の井戸(うち社寺9カ所計19基)についてカルテを作成した。うち75.8%に当たる150世帯が「水が枯れることはない」と答えた。一つ一つは小さくても豊かな水源が点在することをうかがわせる。

 掘削した時期はいつかという質問に対しては、江戸時代41基、明治時代22基、大正時代31基だった。江戸時代より前に掘削したと伝えられる井戸が7基あった。平成の時代に入ってから、井戸を掘削して庭の散水や掃除洗濯に利用する民家が2軒あった。

 これら現地を調査した172世帯を地区別に見ると、高畑町が最も多く19世帯に上る。古くから清水通りと呼ばれた地域があり、文字通り、清らかな水がこんこんと湧き出ていた。いまも清酒の蔵元が2軒あり、醤油醸造を営んだ元豪商の屋敷も残る。

 市街地の紀寺町、西木辻町などにも現役の井戸がある家が7世帯、法蓮町、油留木町などには5世帯あった。井戸の深さについては「分からない」と回答した家が多いが、5メートルから10メートルが42基、5メートル以下が40基だった。

 県域水道一体化構想では、奈良盆地における市町村の地下水浄水場やため池を利用した水道が廃止となり、吉野川水系の巨大ダムからの導水を盛んにして主水源にする。こうした大きな転換期を踏まえ、改めて市の井戸水調査を読むと、災害時のライフラインとしての地下水の大切さが見えてくる。

 市の調査によると、災害時のトイレや洗濯、火災時の放水に備えるため、町ぐるみで井戸を残している事例があった。また、災害時に自宅の井戸を提供してもよいと回答した世帯が124世帯あった。折しも、市危機管理課が「災害時生活用水協力井戸」の制度を開始したところで、これら124世帯すべての承諾を得て、同課に情報提供が行われた。

 市危機管理課によると「災害時生活用水協力井戸」には約250世帯が登録。「奈良町プロジェクトで確認された井戸124基を含む」といい、同課は希望する人に井戸の水質検査も行っている。

 調査資料は市奈良町にぎわい課が引き継いだ。課長補佐の宮崎正裕さんは「この記録は宝物です」と話す。宮崎さんは東日本大震災のとき、宮城県多賀城市の文化財修復支援のために1年間、派遣された経験がある。この井戸水調査の記録を何年間保存していくのか、市はまだ決定していないが「防災の観点から特に大切に保管したい」と力を込める。

 18世紀に建築された家で暮らす主婦は「自宅に井戸は2つあり、うち1つはいまも使っており、散水などに利用している」と話す。市の井戸水調査で、井戸のそばに人が集えるようにする「現代版井戸端会議」を提案する人もいた。コミュニティーの絆が防災のイロハであることは言うまでもない。

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