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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

視点)水道の将来を1票差で決めてよいか 一体化の賛否、3分の2の「特別多数」の可能性

一体化に参加する前提で内部留保28億円を元の水道会計に戻す議案を削除するよう求めた議案を1票差で否決した大和郡山市議会=2023年3月13日、大和郡山市役所

一体化に参加する前提で内部留保28億円を元の水道会計に戻す議案を削除するよう求めた議案を1票差で否決した大和郡山市議会=2023年3月13日、大和郡山市役所

 戦後の奈良県内の水道事業で最大級の変化となる県域水道一体化。荒井正吾知事の肝入りで「奈良モデル」の一環として始まり、簡易水道を除いた県内28市町村の参加を目指したが、奈良市と葛城市が不参加。残る26市町村の議会は関係議案を賛成多数で可決する見通しだが、大和郡山市議会のように賛否が拮抗する自治体もある。命の水の将来を1票差で決めてよいのか。多数決の在り方を探ってみた。

 一体化の協議から離脱した奈良市と葛城市に共通するのは、安定した自己水源や低廉な水道料金、良好な経営。これは生駒市や大和郡山市などの水道にも当てはまる。

 給水人口が最大の奈良市が一体化不参加を表明したのは2022年10月。仲川げん市長は「県最終提案の追加財政支援などでは市民の利益につながらない」と判断した。「市長の決定はどうなるか、不参加表明の直前まで分からなかった」と担当職員は話す。

 その年の夏。水道に詳しい同市の保守系市議からこんな意見を聞いた。

 「知事は水道の大型統合を成し遂げ全国の一番乗りをしたいんですよ。でもね、市民みんなの水道の将来を、市議会の1票差の議決で決まるようなことだけは何としても避けたい。できれば熟議の末の全会一致で。それが難しいなら、せめて特別多数の3分の2の票決で決めるようなルールを作りたい」

 そして次のように言い添えた。

 「住民投票になることだけは避けたいと、県当局は考えていると思います」

 隣の大和郡山市の議会(定数20)。一体化の関連の協議会設置などに関する3つの議案を巡って1票差による議決がこの3月の定例会で現実に起きてしまった。議会事務局によると賛成10、反対9と拮抗した。

 これで終わりではなく「本当の論議はこれから」と話す市議会有力保守系会派の議員もいる。今後、市町村議会で諮られる水道企業団の規約、議員定数など重要議案の採決によっては、一体化への参加方針を覆すことが可能という見方だ。

 他県を例に取れば、石川県金沢市には、「公の施設」の廃止を市議会の3分の2の特別多数の同意で決める条例がある。地方自治法に根拠があり、具体的な施設を条例で定めることを要件としている。

 このままでは単純多数決、市町村議会の1票差でも水道の将来が決まってしまう奈良県の一体化事業に応用することは可能だろうか。

 一体化に反対する市民運動が起きている生駒市の水道担当者に意見を聞いた。

 「確かに水道の施設は地方自治法でいう『公の施設』に該当する。しかし対象とする施設を条例で定める必要があり、そもそもそうした条例がうちにはない。一体化への参加では、水道施設の所有権が移転することになり、施設の廃止とはいえない。仮に企業団参加後に、一体化で廃止する予定の山崎浄水場だけを残しても市として使いようがない。現実的ではないでしょう」

 県域水道一体化には、県主導の財政シミュレーションをどう評価するのかなど、真っ向から対立点がある。各地の市議会を傍聴した住民によっては、どちらの意見も一理あると思ったのではないか。一体化のデメリットを想定し、県民と共に探ろうとする姿勢は県政にない。情報公開の在り方にも課題を残し、財政シミュレーションの数値が一部、不開示になったままだ。情報提供をもっと充実すれば、新たな論点が発見される余地を多いに残す。 関連記事へ

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