ニュース「奈良の声」のロゴ

地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

ニュース「奈良の声」が受賞 ジャーナリズムXアワード

最新ニュースをメールで受け取る【無料】

浅野善一

追跡)リニア駅誘致 奈良、大和郡山競う2市長の「一致結束」表明 その後どうなった?

共同要望後、デザインが変更された奈良市のリニア駅誘致キャンペーンの看板。宣伝文句が「リニア新駅を奈良市に」から「リニアを奈良へ」に改められた=2023年12月28日、奈良市の近鉄奈良駅前行基広場

共同要望後、デザインが変更された奈良市のリニア駅誘致キャンペーンの看板。宣伝文句が「リニア新駅を奈良市に」から「リニアを奈良へ」に改められた=2023年12月28日、奈良市の近鉄奈良駅前行基広場

 リニア中央新幹線の「奈良市付近」駅の誘致を競ってきた奈良、大和郡山の隣接2市の市長が一転、知事への連名の共同要望書で「一致結束して取り組む」と表明してから2年。県内候補地では先月、JR東海によるボーリング調査が始まったが、振り返ると、この間、県民が両市の結束を示す取り組みを目にする機会はなかった。

 共同要望書が荒井正吾知事(当時)に提出されたのは2022年2月。公表したのは両市長ではなく知事だった。共同要望はもともと、荒井前知事から仲川げん奈良市長への提案がきっかけだった。

 仲川市長は同年8月の「奈良の声」の取材に対し、次のように答えている。「(前知事から)自治体同士が綱引きをしているような、ばらばら感があり、JR東海に対してもネガティブな印象になっている。オール奈良でウエルカムという雰囲気を出した方が良いとの話があり、賛同した」

 共同要望の目的は候補地の一本化ではなく、京都が駅誘致に名乗りを上げるなどしている中で、奈良県のどこであってもまずは県内への駅誘致の実現に向け、両市の結束をアピールしようというものだった。しかし、それは突然のことでもあった。両市長がそれぞれ関わる地元の駅誘致促進団体への報告が、事後となったことからうかがえた。

 県が共同要望の実現に向け調整役を務めたことも、「奈良の声」が県や両市への開示請求で2022年7月に入手した共同要望に関する文書から分かっている。例えば、要望書の文面を考えたのは県リニア推進・地域交通対策課だった。また、両市がそれぞれ独自に作っていた誘致キャンペーンの看板には「奈良市に」「大和郡山へ」などの表現が使われていたが、これに対し同課は「奈良市付近」にとどめた統一デザインの看板を提案していた。

 共同要望は新聞やテレビが一斉に報じるなど反響があった。ただ、その後の実際の取り組みはどうだったのか。

 仲川市長が会長を務めるリニア中央新幹線奈良駅設置推進会議は共同要望から2カ月後の2022年4月、年1度の会合を開いた。採択された決議は、駅の候補地をそれまでのように「奈良市」と明記するのを控え、「奈良市付近駅」にとどめた。決議を踏まえた例年の知事への要望書提出も行わなかった。

 一方、奈良市の南に隣接する大和郡山市を駅の候補地に推す上田清・同市長や市以南の市町村長らでつくる「『奈良県にリニアを!』の会」(会長・亀田忠彦橿原市長)も同年8月、年1度の総会を開いた。こちらも採択された提言書は「大和郡山市」と明記するのを控え、県南部を含む県全体への波及効果のある場所との表現にとどめた。知事への提言書提出も行わなかった。

 こうした個別の対応はあった。しかし、両市が共同で進めた取り組みは「なかった」(大和郡山市企画政策課)。

 統一看板も県が提案した通りにはなっていない。奈良市は、市観光戦略課によると、近鉄奈良駅前の行基広場など市内3カ所に設置している看板のデザインを変更。県の意をくんで「リニア新駅を奈良市に」との宣伝文句を「リニアを奈良へ」に改めた。

 一方、大和郡山市は現在も「リニア駅は、ど真ん中駅、大和郡山へ」を宣伝文句にした従来の看板を掲示している。「大和郡山へ」の文字を消すことは目標そのものの喪失につながりかねず、受け容れにくい。同市企画政策課は「県全体を考えることは大事だが、市民らでつくる期成同盟会や『奈良県にリニアを!』の会に応援してもらっている。一足飛びにはいかない」と述べた。

 両市は今、あらためてそれぞれの地元への駅誘致実現に向けアピールを強めている。「『奈良県にリニアを!』の会」は昨年11月29日、山下真知事に単独で提言書を提出した。提言書は前年と同様、駅の候補地を「大和郡山市」と明記することは控えたが、新しくなった知事に同会の思いを伝えた。

 一方、奈良市の仲川市長は昨年12月26日の定例会見で駅の候補地について見解を述べた。市長は、到達時間や建設コストから見たルートの直進性の担保や利便性の点から、奈良市の優位性を強調。大和郡山市の候補地については「乗降の目的のない所に駅をつくっても通過駅になるだけ。求心力のある所に駅をつくって、県南部の観光に足を伸ばしていく方が現実的」との見方を示した。

 奈良市は年度内に市リニア中央新幹線奈良駅設置推進会議を開催する予定。市観光戦略課は「『奈良県にリニアを!』の会」が単独で知事に提言書を提出したことについても、共同要望との関係から「議題になるだろう」とする。

 県内の駅候補地は3カ所。奈良市がJR平城山駅付近とJR新駅付近(同市八条・大安寺地区)、大和郡山市が近鉄橿原線とJR関西線が交差する付近(同市本庄町)。県リニア推進・地域交通対策課によると、大和郡山市では、昨年12月初めにJR東海によるボーリング調査が始まっている。奈良市の2カ所についても調査場所を調整中という。

 リニア中央新幹線の名古屋・大阪間の開業は、計画では2037年と決定されている。しかし、静岡県が南アルプスのトンネル工事による環境への影響を懸念。JR東海のニュースリリースによると、同社は同工事着手の見通しが立たないとして、品川・名古屋間の工事完了時期を「2027年」から「2027年以降」に変更する申請を国土交通大臣に行い、昨年12月28日に認可された。

読者の声