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ジャーナリスト浅野詠子

用水供給単価、当初4割近い引き上げ提案 奈良県水道一体化不参加対象 「市民は水道選べない」と反対意見

料金体系などを了承した県広域水道企業団設立準備協議会=2024年3月6日、奈良市内

用水供給単価引き上げなどを了承した県広域水道企業団設立準備協議会=2024年3月6日、奈良市内

 奈良県広域水道企業団設立準備協議会(会長・山下真知事、26市町村と県営水道)は今年3月、県域水道一体化に不参加の奈良市と葛城市に対する用水供給(卸売り)の単価を、現行の1立方メートル当たり130円から6円引き上げ136円とする方針を了承したが、県の当初の提案は1立方メートル当たり178円へと4割近い引き上げを行うものだったことが分かった。一部の市は「市民は水道を選べない」と反対した。

 県情報公開条例に基づき「奈良の声」記者が開示請求した2022年4月の一体化協議・財政運営部会の会議録などから判明。荒井正吾前知事時代は、簡易水道を除く28市町村すべてが統合案に従うことを前提に計画を進め、用水供給事業の別会計を設けることは優先課題ではなかった。

 会議録によると、この部会で県は、広域水道企業団(2025年事業開始予定)が家庭に届ける水道の料金と同じ水準にしてはどうかと178円を提案。厚生労働省に照会したところ「水道法上、不適切ということはない」との回答を得られたとした。

 香芝市上下水道部は「算定方法の決定はなかなか難しいが、参加団体と不参加団体の間に差が生じることは仕方ない」との見解を述べた。

 了承されれば5年ごとに用水供給単価は値上げされ、2050年には241円になる試算だった。

 これに対し橿原市上下水道部は「市民は水道事業を選ぶことができない。企業団に入らないからといって急激に値上げすれば水道料金が値上がりし市民生活に影響が及ぶ。企業団だからといって値上げしてもいいという判断基準はやめた方がいい」と反対した。

 この2022年4月の時点で大和郡山市は、一体化への覚書締結に参加していなかった(同年末に参加表明)。奈良市は会議の不参加が目立つようになり、葛城市では複数の自治会長が参加反対の意見を表明するなど、一体化を巡っては予断を許さない状況にあった。

 山下新知事の下、翌2023年9月の一体化・財政運営作業部会で、県水道局は「決算値を反映した将来見通しを基に具体的な単価案を提示したい」と述べた。

 この部会で天理市上下水道局は「(不参加を決めた)奈良市や葛城市に対し過度な負担を押し付けたり、参加団体が離脱しないようにペナルティー的に過度に高く設定したりすることはないように」と求めた。

 県は同年11月の同部会で、1立方メートル当たり6円値上げの136円を提示した。この案が今年3月、関係市町村長出席の下で開かれた準備協議会で了承された。

 この日の準備協議会では、大淀町上下水道部が「1円単位で決める必要があるのか。138円(県提示案の2段階従量制、廃案)であれば、140円でやればよい」と提案する場面もあった。

 同町の水道は100%自己水源。離脱した奈良市や葛城市が県営水道から長年にわたり用水を購入し、県営水道の内部留保金(2022年度208億9913万円)に貢献してきたのとは違う。

 直営の継続を選択した不参加2市に対し、用水を値上げする考えの中に、報復的な意図はなかったのか。今回の値上げ案は、賛否が拮抗する大和郡山市議会において、一体化参加を後押しする要因を一つ増やすことにもなった。

県営水道県域水道一体化準備室の話

 県広域水道企業団に参加する市町村域への水道料金も、参加しない団体(奈良市、葛城市)への用水供給単価も、いずれも統合後5年間の収支を合理的に見込んだ上で、料金収入として確保すべき必要な水準を算定しているものであり、協議不参加の市町村に対する報復の意図は一切ない。

 近年の物価上昇により維持管理費が増加しているほか、施設の老朽化対策などの投資需要は今後増大していくものであり、こうした費用に対する必要な収益を確保していく観点から妥当な設定であると考えている。大和郡山市議会の賛成を促す狙いがあるのか、の質問については、上記の回答の通り合理的に算定したものであり、お尋ねの意図はない。

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県域水道一体化を考える

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