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発行者/奈良市・浅野善一
浅野詠子

市民参加の間伐に公費支援の壁 「巻き枯らしの助成は不可」と県 林野庁は公認の例も

人工林を荒廃から守ろうと、皮むき間伐に汗を流す人々

人工林を荒廃から守ろうと、皮むき間伐に汗を流す人々=2010年8月30日、奈良市大慈仙町

 手入れがされず荒れ放題になった人工林の森を救おうと、樹皮をむくだけで手軽にできる「皮むき間伐」に、奈良市民らが取り組んでいる。樹液の流れを断って、立ち枯れさせる間伐は、古くから「巻き枯らし」と呼ばれ、広葉樹林などで実践例がある。近年では花粉症対策の間伐促進にと試みる自治体も現れ、林野庁も里山などの人工林で公認した前例がある。一方、奈良県は公費助成の対象とてしは認めていない。木が倒れるまでに要する時間が著しく長く、補助金制度にそぐわないなどの側面があるからだ。周辺を取材した。

 先月30日、奈良市大慈仙町のヒノキ林に、市内の親子連れら15人が訪れて皮むき間伐を実施。約50本もの樹皮をはいだ。市民グループ「自然や文化にふれ感性を拓(ひら)く会」(さかいみ穂こ代表)が主催し、森づくりに詳しい奈良ストップ温暖化の会副理事長・井上雅由さんが指導した。木の根元付近の幹周りにのこぎりを入れ、竹べらを差し込むと、樹皮は簡単にはがれていく。

 井上さんは、日本の森林率が世界第2位でありながら、木材自給率がわずか20%の現状を問題視し、間伐材の幅広い利用を提唱。歩道や自転車道の舗装材をはじめ、駅舎やバス停での活用、寺院の修復など県産材の多様な用途を探っている。

 「京都議定書における二酸化炭素の吸収源としての森づくりは、地産地消に結び付けていくことが肝心」と井上さん。初めて間伐に挑戦した坂井さんは「森に入ったら、子どもたち同士がすっかり仲良しになった。山林の所有者にも感謝したい」と森林でのボランティア活動の意義を実感する。

 林野庁の造林間伐対策室の話しでは、広葉樹林の「巻き枯らし」は古くからあり、薪炭(しんたん)林に移行する際の樹種転換や、シイタケ栽培の導入に伴う伐採を省力化する手段として行われていた。人工林で巻き枯らし間伐が行われるのは比較的新しい動きだが、福井県の人が考案した「鋸谷(おがや)式間伐」が各地で普及する契機になったといわれる。

 首都圏では、4人に1人が苦しむとされる花粉症の対策として、東京都が多摩地域から発生するスギ花粉の量を10年で2割削減する計画を立てたが、作業の手間がかからない巻き枯らし間伐のモデル事業を2006年度に予算化した。

 しかし、伝統的な林業地域では、こうした間伐に慎重な意見は少なくない。岐阜県は「巻き枯らしの木は、穿孔(せんこう)虫の温床になる」として木材価値が低下する研究結果を公表。人工美林の吉野林業地帯を有する奈良県も「病害虫が周囲の山にまん延する恐れがある」と懸念する。

 奈良県内で年間、人工林の間伐や除伐、下草刈りなどの手入れに投入される公費は約7億円。主な内訳は、国庫補助金や県の法定外目的税・森林環境税を原資にした支出。国の補助金は、明治政府からの流れをくむ造林間伐などに充て、県税は放置林の間伐に充当するが、県は巻き枯らしの手法を認めていない。

 県森林整備課の熊沢弘治郎課長補佐は「巻き枯らしの手法は、木が倒れるまで2年以上かかり、長くて5年かかるものがある。よって公費助成の伐採が行われたのかどうか検査をすることが困難。また、すべての木が枯れるわけではなく、枯れても70~80%程度なので、間伐の未実施にも補助金が支払われる恐れがあり、制度になじまない。倒木が放置されて危険なケースもある」と話す。県の基準では、切り倒し間伐が唯一公認の手法ということだ。

 一方、国が巻き枯らし間伐を認めた前例はある。林野庁造林間伐対策室によると、安全面などの配慮を十分に行う条件で、2006年度から実施した「里山エリア再生交付金」事業の地域創造型森林整備の間伐手法の一つとして認めていた。その後、政府の事業仕分けにより、今年度から同交付金は廃止になっている。

 戦後の拡大造林政策で、スギやヒノキの植林が奨励されたものの、その後に放置され、荒廃が著しい日本の人工林。巻き枯らし間伐の手法は、国や県などの見解から判断すると、商品性の高い木材の産地で導入するには慎重な検討が必要になるが、奈良市や生駒市内などの里山で市民が森に親しむボランティア活動として行う場合は、公的な支援を行う余地がありそうだ。

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