医療観察法、施行後8年で対象者の自殺36人

2013年7月25日 浅野詠子

 精神疾患がもとで心のコントロールができずに傷害などの行為に及び、刑法上の責任を問われずに不起訴や無罪になった人を長期間にわたって強制的に入通院させる心神喪失者等医療観察法が施行されて今月で丸8年になるが、制度の対象になった人のうち、少なくとも36人が自殺していたことが法務省、厚生労働省に対し記者が行った情報公開請求の過程で分かった。

 両省とも「自殺に関する文書は不存在」としていたが、口頭で自殺件数を明らかにした。法務省保護局総務課の精神保健観察企画官室は、法施行後の2005年7月15日から本年3月末日までの間、「通院処遇中に自殺したと推定されるものは28件」と回答。厚労省の医療観察法医療提供体制整備推進室は法施行後、今月24日までの間、「入院中の自殺は8件」と回答した。「どこの医療機関に該当するかは個人情報に当たり公表しない」と話した。

 法施行後、放火や殺人、傷害などの容疑で送検され、不起訴処分や無罪になり、医療観察法の申し立てを受けた人は、昨年12月末現在で2339人。うち1462人が入院、386人が通院の決定を裁判所で受けた。

 自殺と精神疾患との関連は強いとされるが、医療観察法の対象になった人の自殺率は、一般の精神科医療にかかっている人の比率より高いとする専門家らの見方が出ている。医療観察法病棟は、医師や看護師の数が一般の精神科医療の3倍と、手厚い医療を誇っている。しかし退院後は、特別な治療や福祉が全ての対象者に保障されているわけではない。

 これについて、岩手県立中部病院精神科医長の石丸正吾さんは「退院後の治療の継続性が失われやすく、病状の悪化を招いたり、自殺の可能性を高める一因となることも考えられる」との見解を2011年、精神医学雑誌「スキゾフレニア フロンティア」に寄稿している。医療観察法の通院指定医療機関の医師は「入院中に自分の起こした事件の内省を迫る心理プログラムも逆効果では」と話す。

 これに対し、日本司法精神医学会の中島豊爾理事長は「一般の精神科患者の自殺率と重大な他害行為を起こした医療観察法の対象患者との自殺率を単純に比較することは疑問だ」としている。ただ「医療観察法の入院機関は、それぞれの実力に大きな落差がある。これはもっと公表されて良いことだ」とも話した。

 専用病棟は東京都、大阪府、奈良県大和郡山市内などに28カ所(計約700床)。退院した人は最長で5年間の精神保健観察に付され、全国の法務局にある保護観察所の社会復帰調整官(精神保健福祉士)が担当する。

 法案の段階では精神障害者に対する保安処分の側面に批判が集中し、現行の法令は、身柄を拘束した人の社会復帰を進める目的を掲げているだけに、対象者の自殺という結末は、表看板と著しく懸け離れた現象といえ、施策のあり方が問われそうだ。

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