2014年7月10日 浅野善一

奈良県)奈良市・旧都跡村役場、建て替えか保存か 入札告示の5日前、議題に

◇奈良市の旧都跡村役場建て替えの理由

@地域から建て替えの要望があった A改修保存し、残す形態や部材なども選びながら、地域ふれあい会館としての利便性を確保するための見込み額は1億3000万円を超える。一方で既存施設を解体し、地域ふれあい会館を新設した場合の見込み額は8920万円 B隣接する都跡幼稚園を認定こども園に改築するに当たり、佐紀幼稚園が閉園になることから、園児送迎用の駐車場を増やす必要があった C北側市道の幅員を、園児や通学する生徒の安全を確保するため広げる必要がある。県道大和郡山斑鳩線拡幅に伴い、現施設を後退させる必要がある Dこれまでなかった調理機能を設けることで配食サービスなどが可能となる E今後の地域自治協議会設立に向け、100人収容できる会議室の確保や事務室の充実、さらに駐輪場の確保などの要望があった F災害時に対応するため、調理室やソーラーシステムなどの要望があった

 地域の集会施設への建て替えのため取り壊される奈良市施設の旧都跡村役場。歴史遺産、文化財としての評価がありながら、市に建て替えを要望してきた地元自治連合会が建て替えか保存かを議題にしたのは、市が建て替え工事の入札を告示する5日前だった。直前に住民の一人が保存を訴えたことを受けて急きょ取り上げたが、入札を目前にして方向は変わりようがなかった。市民全体の財産という視点に立てば、市の対応には、保存した場合の意義についても検討し、市民に説明するという手続きが欠けていたのではないか。

 旧都跡村役場は1933年に建てられた近代和風様式の木造建物で、庁舎と議事堂の2棟から成る。都跡村が奈良市に編入された後は市連絡所や公民館施設として地域住民に利用されてきた。都跡地区自治連合会(加盟37自治会)は老朽化や使い勝手の問題を理由に、2006年から集会施設への建て替えを要望していた。市は旧役場を取り壊し、地域ふれあい会館を建てる。入札に対する開札は8月4日、9月をめどに取り壊しを終え、11月に着工、来年4月の完成を予定している。ふれあい会館は市が小学校区単位で整備を進めている。

 一方、県教育委員会が11年3月に刊行した調査報告書「奈良県の近代和風建築」は旧都跡村役場について、「最小規模の庁舎と議事堂が、ほぼ当初のままセットで残っている点で、貴重な存在」と評価した。

 建て替えを決めた市の説明は「地域の皆さまと総合的に検討した結果」。同自治連合会の藤田正博会長は「保存も十分考えた」とする。実際どのような検討を経たのか。

住民が取り壊し反対申し入れ

 旧都跡村役場の2軒南隣に住む会社経営、畑山庫一さん(47)が取り壊しを知ったのはことし2月。地元、四条大路5丁目自治会の回覧で市の建て替え説明会の案内があった。畑山さんは5月に入り、同自治会長(80)に取り壊し反対を申し入れた。

 同自治会長は同月28日の都跡地区自治連合会の定例会でこの申し入れを諮ってもらった。定例会に先立って開かれた午前中の幹事会、午後の定例会いずれも採決で全員が建て替えに賛成した。同自治会長によると、「今さら」という空気だったという。市は、5日後の6月2日に建て替え工事の入札告示を予定していた。

 畑山さんによると、同自治連合会で建て替えか保存かが議題になったのはこのときが初めて。畑山さんは「建て替え決定までの過程の議論に参加していない。意見を聞いてもらっていない」と不満を語る。

 旧都跡村役場がある四条大路5丁目自治会の自治会長は11年度から会長を務めている。自治会内で住民に建て替えか保存かについて聞くことはなかったという。会長に就任する以前の06年から自治連合会として取り組んできた建て替え要望は了解事項の扱いだった。同自治会長は、取り壊しは仕方がないとの考えだが、「保存が必要というなら、市がこういう価値があるから待ってくれというべきではなかったか」とする。

 5月2日付で仲川元庸市長あてに旧都跡村役場の保存活用を求める要望書を提出した日本建築家協会近畿支部奈良地域会(森田昌司会長)が同月30日、市の立ち会いの下、現場を見学した。同地域会の会員には地元の建築家もいた。この建築家が建て替えを知ったのは5月26日付の新聞報道だった。建築家は06年に民生委員を務めるなど地域との接点も持っていたが、建て替えの要望が出ていることを耳にすることはなかったという。新聞報道後、近所の人に聞いてみたが、同様に建て替えは初耳と答えたという。

 同自治連合会が市に集会施設への建て替えを最初に要望したのは、市が各地区の自治連合会を対象に開いていた06年度の地域要望を聞く会において。同年10月、当時の藤原昭市長あてに要望書を提出した。以後07年、08年、11年と継続して要望してきた。

08年の自治連合会長「保存」の新聞談話

 08年12月18日付の奈良新聞連載「わがまちの近代化遺産」で旧都跡村役場が取り上げられた。当時、都跡地区自治連合会長だった男性(82)は記事の中で「平城京の跡にある昭和初期に建てられた旧役場建物であり、このまま永久保存してほしい」と談話を寄せている。一方で、男性は07年9月に建て替えの要望書を提出したときの自治連合会長でもある。

 男性の真意はどこにあるのか。「今思えば、なぜ保存の声を上げなかったのかと思う」と悔やむ。当時、自治連合会で建て替えか保存かを議題にしたことはなかったという。

 一方、現職の藤田会長は「論議もした。行政と話をした結果、最終的には取り壊してふれあい会館をつくってもらうことになった」とする。ただ、市地域活動推進課によると、自治連合会から市に対しては保存の要望はなかったという。また、市の立場も「地元から建て替えの要望があるのに保存しろとは言えない」(澤野井保・市市民活動部参事)というものだった。自治連合会との間で建て替えか保存かについて協議したことを記録した市の文書も存在しない。

 市議会も同様。建て替えの費用が計上された市の14年度予算が提案されたことし3月の市議会定例会で、取り壊しに触れる議員はいなかった。都跡地区自治連合会は12年3月、市議会に「都跡地域ふれあい会館の早期建設を求める請願書」を提出した。請願の紹介議員となった森田一成議員は「慣れ親しんだ建物が無くなるのは残念。県がもっとハイレベルの評価をしてくれていたら、あれは残った。外側は昔のままだが、議事堂の中の造りがそのまま残っているとかであれば取り壊しにならなかったと聞いている」とする。

 旧都跡村役場と同じ年に建てられ、同様に県教委の調査報告書に取り上げられた生駒市の旧生駒町役場は10年、国の登録有形文化財に登録されている。奈良市教育委員会文化財課は「報告書に掲載されたこと自体がそうした価値があることを示しているといって差し支えない」とする。

 報告書は、1次調査で収集した県内約2400の物件の中から選定した91件を対象に2次調査を実施、その結果をまとめた。2次調査は奈良文化財研究所の建築の専門家らが当たった。旧都跡村役場については、報告書の基となった第2次調査表の段階の評価では「今後も活用しながら保存されたい建物である」との記述もあった。

 森田議員が言う、保存に値しないというような検討結果は見当たらない。市民が確かめることができるものとして存在しなければ、取り壊しが検討の末の判断とは言えない。

情報、市民に共有されず

 県全域の近代和風建築の調査は県教委の報告書が初めてだった。しかし、同教委文化財保存課は11年3月に報告書が刊行された際、記者発表をしていない。その上、非売品で製作部数は300部と少なく、県立図書情報館や県内の市町村立図書館に配布されたものの、それだけでは一般の人の目に触れにくかった。

 奈良市は12年から、佐賀県武雄市と連携して「近代建築物語〜奈良・武雄の古館(こかん)追想」事業に取り組んでいる。「近代遺産をはじめとする地域に埋もれた資源を再発掘し、魅力ある観光地づくりを目指す」というもの。旧都跡村役場がまさに該当しそうな事業。しかし、市観光戦略課は「旧都跡村役場は地域活動推進課が所管する。耐震構造に問題があり、床の傷みもひどく、建物全体の老朽化が進んでおり、やむを得ず建て替えると聞いている。この件について、特に観光戦略課で検討していることはない」とした。

 12年7月の「奈良しみんだより」が市内の近代建築を紹介する特集記事を載せた。16件を紹介したが、旧都跡村役場はなかった。

 奈良市には09年7月に施行された市民参画・協働まちづくり条例がある。条例の基本理念には「奈良の文化を未来に引き継ぎ、個性豊かなまちづくりを行う」とある。そのために、13条の「市政への参画の機会」は、市の意思形成段階から行政情報を提供し、市民らからの意見を受け止めるとともに、市民らが市政に参画できるための仕組みを整備する、としている。

 しかしながら、旧都跡村役場をめぐっては、市民や地元住民の間に建て替えが検討されていることや歴史遺産、文化財としての評価があることが広く共有されていたとは言い難い。

 澤野井参事は地元自治連合会の要望を重視したことについて、「自治連合会は地域の代表。平成18(2006)年度の市の地域要望を聞く会のときからの流れがある。議会に請願書も提出されていた」とこれまでの経緯を挙げ、都跡地区での地域自治協議会発足を踏まえて「住民がまちづくりについて考える拠点は重要であり、活動拠点が必要。何より大切なのは、施設を指定管理者として地域の自治連合会に管理運営してもらわなければならないということ」とする。

 祖父が都跡連絡所に勤めていたともいう畑山さんは「ことしになって文化財的価値について知った。価値をみんな知らない。建て替えありきで話が進んだのは残念」と話す。地域の資源を残し、生かすこともまちづくりであることを考えれば、熟議や合意形成という点で市に課題を残した。

 旧都跡村役場の保存について、日本建築家協会近畿支部奈良地域会は提出した要望書で「部分的修理で克服できる問題であり、耐震性向上の問題も近年の建築の学術的進展で比較的容易に補強が可能」との見解を示している。

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