2014年8月21日 浅野詠子

医療観察法、退院のハードル高く 「帰住先なく留めおく」ケースも 日本精神神経学会調査

 傷害や殺人などの他害行為の容疑で、不起訴や無罪になった精神病患者を強制収容する医療観察法の入院処遇をめぐり、症状が改善していたり、同法の専用病棟になじみにくい障害であっても、「地域に受け皿がない」などの理由で、退院の申し立てを裁判所が棄却する決定が相当数あることが、日本精神神経学会の調査から分かった。調査の対象になった、こうした棄却決定16件(6医療機関)のうち、裁判所の判断が「正当である」と答えた専用病棟は、わずか2件にとどまっている。

 同学会の法委員会(富田三樹生委員長)に所属する太田順一郎・岡山市こころの健康センター所長ら6人の精神科医が調査や考察を担当した。本年3月、「医療観察法の運用に関する指定入院医療機関向け調査および厚生労働省向け調査の報告」としてまとめ、「精神神経学雑誌」(第116巻・第6号)に掲載した。東京都内や奈良県内など全国28カ所の国立、府県立病棟にアンケート調査し、20の専用病棟が回答した。

 医療観察法における退院の可否は、裁判官と医師(精神保健審判員)の2人の合議により裁判所が決定する。同学会の調査によると、病院側が患者の退院を申し立てていながら、地裁が認めなかった16件のケースのうち、最も多かった棄却の理由は「生活環境調整が不十分」で、8件に上った。16件の棄却に対し「正当である」と答えた専用病棟は2件だった。この2件は、退院の申し立てを行った後、患者の病状が悪化したという。

 裁判所の棄却に対し、「不当だ」と明確に回答したケースは5件あった。「疾病性に疑問がある者を適切な帰住地がないとの理由から留めおくことは人権上問題がある」という声や「不当であると思うが、帰住先がなかったため、仕方がないとも思う」とのコメントがあった。

 また、人身を拘束する根拠とされた精神鑑定の内容が誤っており、当初の審判では統合失調症と診断された患者が、実際には妄想性パーソナリティー障害だったケースもあった。移送先の専用病棟は投薬を中止し、精神症状は安定していたとされるが、処遇終了の退院を裁判所は認めなかった。医師の審判員が「他害のリスクがある」と主張し、強制通院命令が言い渡されたという。

 一方で、「重篤な精神障害を持つ患者に対し、重点的に医療を行う仕組みが国内にはまだない」などの理由を挙げて、退院申し立てを裁判所が棄却することに一定の理解を示す回答もあった。

 法施行から5年を経た2010年の段階で国は、運用の状況を国会に報告した。しかし実態はよく分からず、同学会は今回の調査を実施した。厚生労働省に対しては、処遇を終えた人のその後の実態についてなど17項目の質問をしたが、回答は3項目にとどまった。強制治療を受けた患者の自殺、病死、行方不明者についての回答も得られなかった。調査報告書は「より実態を把握できるようなデータの公表が望まれる」としている。

◇視点 精神障害者が地域で暮らす上で大切な訪問看護や地域医療、グループホームなどの福祉資源は偏在しており、国政や地方自治の課題と言える。臨床的には病状の改善が得られ、退院できるはずの人々が、「帰るところがない」などの理由で長期に収容されている。

 医療観察法は入院期限に上限がなく、患者の平均在院日数は長期化している。憲法上、正当な理由のない人身の拘束は許されないが、まして国は国連障害者の権利条約を批准しており、不透明な刑期なき収容は国際的にも通用しなくなる。

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