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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
浅野善一

奈良県)「奈良観光、3時間で可能」と海外案内書―は確かか 06年県報告書の記述独り歩き 有力書は当時「2日望ましい」

ロンリープラネット「ジャパン」

外国人観光客動向実態調査の前年2005年に発行されたロンリープラネット「ジャパン」第9版

 ロンリープラネット「ジャパン」第9版、奈良市地域の案内の冒頭部分
Nara is so small that it’s quite possible to pack the most worthwhile sights into one full day. It’s preferable to spend at least two days here, but this will depend on how much time you have for the Kansai region. Those with time to spare should allow a day for Nara-kōen; and another day for the sights in western and southwestern Nara. If you only have one day in Nara, spend it walking around Nara-kōen; you would only exhaust yourself if you tried to fit in some of the more distant sights as well.
【奈良は規模が小さいので見るべき価値のある名所の見物を1日に収めることができる。関西での時間がどれくらいあるかによるが、2日かけるのがより望ましい。1日を奈良公園に、もう1日を西部と南西部の名所(薬師寺や唐招提寺、法隆寺などのこと)に当てるべきだろう。1日しかないときは無理をしないで奈良公園を巡って過ごそう=記者訳による概要】

 「奈良観光は3時間あれば可能」と海外の旅行案内書では紹介されている―。見るべき所が少なく通過型の観光地ととらえられていることを危惧させるものだが、奈良市長が先ごろ会合で課題として披露し、新聞報道などで広まった、この案内書の存在は確かなのか。市長が根拠にしたのは、県が2006年にまとめた外国人観光客動向実態調査報告書の記述。報告書が名前を挙げた有力な案内書の当時の版を「奈良の声」が確認したところ、「2日かけるのが望ましい」となっていた。県によると、当該の記述は新聞記事からの引用で、案内書そのものは確かめなかったという。不確かな評価が独り歩きすることになった。

新聞記事引用、原書確かめず

 市奈良町にぎわい課によると、仲川元庸市長はことし5月15日、市役所であった元林院復興懇話会でこの海外の旅行案内書の話題を披露した。市は奈良町の花街「元林院」周辺を再興し、奈良の夜の魅力を創造する計画を進めている。全国紙2紙は同計画や懇話会の様子を伝える記事の中で、「海外のガイドブックの中には、『奈良の観光は3時間で十分』と紹介しているものも」などと触れた。

 また、経済専門の週刊誌は同月31日号のリニア中央新幹線特集で、中間駅の誘致運動を展開する奈良の現在の課題を挙げる際に、「『奈良は3時間ほど観光すれば十分』。海外のガイドブックにはこのような記載があるという」と書いた。

 外国人観光客動向実態調査は06年9~11月、本県を訪れた外国人観光客に聞き取りする方法で行われた。報告書は、訪問が県北部の一定の地域に限定されているため、通過型観光が主流で、県内宿泊率が低いとする結果をまとめ、07年3月発表。母国での旅行情報入手方法に関する分析結果で、「欧米などで広く読まれている旅行ガイドブック(ロンリープラネットなど)は、奈良観光について3時間程度あれば可能と紹介している」と指摘した。

 ロンリープラネット(会社所在地オーストラリアなど)が発行する日本の旅行案内書は、2年に1度更新されている。県立図書情報館などの県内公立図書館や県内外の大学図書館が過去の版のいずれかを所蔵しており、利用できる。「奈良の声」は03~13年発行の8~13版を確認した。 

 調査前年の05年に発行されたロンリープラネット「ジャパン」第9版は、奈良市地域の観光について案内の冒頭で、1日でも可能としながらも、2日かけるのが望ましいとし、1日は奈良公園、もう1日は薬師寺や唐招提寺、法隆寺のある南西部に当てることを勧めている。1つ前の03年の第8版も同一の記述。また、次の07年の第10版から最も新しい13年の第13版までの各版もほぼ同様の記述になっている。県南部の観光地については、奈良市地域とは別に項目を設けている。

 06年の調査にはなかったが、12年の同様の調査では「渡航前に日本の情報を得るのに役立ったもの」について具体名を尋ねている(複数回答)。ガイドブックではロンリープラネットが圧倒的に多く、561人の回答者のうち162人に上った。このほかミシュランが12人、その他が175人だった。少なくとも、外国人観光客に最も影響力のある旅行案内書は「2日かけるのが望ましい」と勧めていたことが分かる。

 県観光プロモーション課によると、引用元の新聞記事は残っておらず、当時の担当者はどの新聞にどのように書いてあったか具体的なことは覚えていないと話しているという。

 市奈良町にぎわい課は「市としては奈良は1日、2日かけて観光する価値があるとPRさせていただいている」とした。

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