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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
浅野善一

奈良県)奈良市、生活保護の通院交通費5年遡及 男性の申請を一転却下 厚労省が支給認めず

 奈良市が市内の生活保護利用者の男性(80)に対し、本来認められるべき通院交通費の申請に応じなかったのは誤りだったとして、5年前に遡及(そきゅう)して交通費を支給すると通知していた問題で、市がその後一転して、男性の申請を却下していたことが関係者への取材で5日、分かった。市によると、支給に当たって厚生労働省に照会したところ、2カ月を超えてさかのぼることはできないとの回答だったという。男性は、市を相手取って処分の取り消しと損害賠償を求める訴訟を起こすことも念頭に、不服申し立てを行う予定。

 市保護課によると、3月27日付で男性に通院交通費の支給申請を却下する通知を交付した。

 生活保護には生活、住宅、教育、医療など8種類の扶助がある。通院交通費は医療扶助の一つで、医療機関を利用したときに必要最小限の交通費を支給する。支給に当たっては、利用者の事前申請を受けて、主治医の意見を確認、必要性を判断する。

 男性によると、通院は2007年ごろ生活保護の利用を始めた当初からしていた。男性を担当する同課のケースワーカーに、交通費の支給を受けられないかしばしば尋ねたが、返事は「出せない」だった。市が支給を認めたのは13年10月だった。

 男性はそれまでの交通費についてもさかのぼって支給するよう求めた。同課は昨年7月、男性に対し、通院回数を確認できるレセプト(診療報酬請求明細書)が保存されている過去5年間について支給すると、文書で通知した。男性は申請書を提出して、支給を待っていた。

 森本則彦・市保護第一課長(当時)は昨年10月、記者の取材に対し、「男性の申請を以前は断っていたが、その判断はおかしいということになった。交通費は支給しなければならないが、徹底されていなかった」と非を認めていた。

 市がいったんは5年前にさかのぼって通院交通費を支給すると決定したよりどころになったのは、10年の厚労省の通知だった。男性を支援している市民団体「奈良県生活と健康を守る会連合会」が同通知を市に示した。

 通院交通費をめぐっては07年、北海道で不正受給事件が発覚。厚労省はこれを受け、08年4月、支給基準に「へき地」や「高額」の条件を設けるなどした。しかし、認められるべき交通費が支給されなくなったと批判が出たため、同省は基準からこうした条件をなくすなどし、10年3月、あらためて都道府県などに通知した。

 このため、同通知に伴う事務連絡では、通院交通費が支給の対象であることを文書で利用者に周知するよう求め、支給基準を改めた08年4月から文書による周知が行われるまでの間に生じた交通費については、事後申請による支給を認めても差し支えないとした。

 奈良市はことし6月まで文書による周知を行っていなかった。

 市保護課は、昨年11月やことし2月の「守る会」との懇談で、厚労省からの回答について説明した。同省は、生活保護制度において、事後申請による保護費の遡及支給が認められるのは2カ月前までであるとしたという。ただ、支給基準を改正した10年当時であれば、08年までの過去2年間について遡及して支給することが可能だったと説明したという。

 また同課は、厚労省への照会が男性への支給決定の通知の後になったことについて「後手になった。不手際だった」と釈明した。

 男性は、市が申請を却下したことについて「事後申請でさかのぼれるのは2カ月前までというが、通院交通費について問い合わせても、出せないと言って申請を認めなかったのは奈良市。責任は原因を作った市にある。人をばかにしている。思い切り抗議したい」と話している。

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