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地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
浅野善一

県市町村事務組合の退職手当基金損失問題 平群など負担金支出の4町、12月議会で当局ただす

 奈良県市町村総合事務組合(管理者、更谷慈禧・十津川村長)が退職手当基金の運用で、高リスクが指摘されている仕組債を購入し、2011年に20億円の損失を出した問題が、組合構成市町村のこの12月定例議会の一般質問で取り上げられた。各議会で議員は、損失の発生に関してこれまで議会に報告がなかったことや、詳細な経緯が明らかにされていないことなどについて、当局にただした。

 退職手当の負担金を支出している市町村で、負担金の使われ方を点検するのに必要な情報を、市町村当局が議会に伝えてこなかった実態が浮かんだ。

 同組合は、県内29市町村などで構成される一部事務組合で、各市町村などが支出する負担金を財源として、同市町村職員などの退職手当支給事務を行っている。基金は、負担金収入の余剰金を積み立てたもので、財源が不足したときの備えとしている。組合は当時、基金の運用手段として仕組債を購入していたが、11年、退職手当の支給増に伴い財源が不足、それまでに購入した約55億円分を売却した。34億円余りにしかならず、差損が生じた。

 地方自治法などは、地方公共団体の基金について確実かつ効率的に運用しなければならないと定めている。

 「奈良の声」はこの損失発生の事実をつかみ、12年6月15日、記事を掲載した。同組合をめぐっては最近になって、基金損失をはじめ幾つかの問題について新聞報道があった。

 日本共産党県委員会が同問題を組合構成市町村のこの12月定例議会で取り上げるとしたことから、記者は各議会事務局に質問があったかどうかを問い合わせた。平群、三郷、斑鳩、広陵4町の同党議員が質問したことを確認できた。

「議会に報告なかった」と批判

 平群町議会では、山口昌亮議員が基金で売却差損が発生したことについて、町は議会に全く報告しなかったと批判した。同議員によると、町に「損失は知っていたのか」とただしたところ、町総務防災課長が「組合から報告は受けていた」と認めた。岩崎万勉町長は「説明しなかったのは反省している」と答弁したという。

 山口議員は、町が加入している広域団体について、町議会はチェックする機会がないとする。市町村総合事務組合議会の場合、構成市町村の首長か議長しか議員になれない。町に対し、今後、こうした広域団体の予算書や決算書、会議録を町議会に提出するよう求めたという。

「損害受けた住民に経緯明らかに」

 斑鳩町議会では、木澤正男議員が問題の経緯について町に説明を求めた。同議員によると、町の答弁は、市町村の財政が厳しいことから、組合は負担金を引き上げてこなかったが、財源が足りなくなり、仕組債を売却したというものだった。損失については、それまでの運用の利息の範囲内に収まっているとする、組合の見解に沿った答弁をしたという。

 木澤議員も、町から議会への報告はこれまで一切なかったとし、基金の運用は適正だったのか、組合は仕組債の購入をどういう形で決めたのか、リスクのある債券の購入は合法だったのか、もっと追及する必要があるとする。また、損害を受けた住民に対し、詳細な経緯を明らかにすべきと訴える。

 広陵町議会では、八尾春雄議員が「町の説明は受けていない」とした上で、「町は組合の説明を了解したのか」などとただした。同議員によると、山村吉由町長は「売却の判断については、組合議会の全員協議会で管理者と事務局から説明があり、全員が了解した上で、組合議会において予算案として承認されている。それを受け、構成市町村で組織する市長会、町村会、町村議会議長会においても、詳細な説明がなされたと解している」と答弁したという。

 八尾議員はさらに「仕組債は流通性のないハイリスク、ハイリターンの危ない債券。公金は利息が低くても安定した運用をすべきでは」と質問。町総務部長は「個人であればこんな危険な運用はしなかっただろう」と述べたという。同議員は、今後もこの問題について追及するとしている。

運用の詳細な資料提出求める

 三郷町議会では、久保安正議員が問題に対する町の認識、問題への対処について問うた。同議員によると、町総務部長は「基金運用で差損が生じることのないよう万全を図っていただかなければならない。今後は、組合の運営に対し、これまで以上に関心を寄せ、改善を要する事項があれば申し出を行うなど健全運営の遂行に努めてまいりたい」と答弁したという。

 久保議員はさらに、基金の運用方法を決めていた組合事務局担当者から組合議会や組合管理者への報告・承認はどうなっていたのか、担当者への処分はあったのか、などについて問うた。仕組債の運用経過に関する詳細な資料を議会に提出するよう求めたともいう。

 組合構成市町村の議会で同問題が取り上げられたことはこれまでにもあった。報道がきっかけとなり、上牧町議会の12年12月定例議会などで、民主党の木内利雄議員(当時)が町の考えをただした。また、宇陀市議会と大淀町議会のいずれも13年3月定例議会で、無所属議員が基金運用の不透明さや違法性を指摘した。

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