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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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コラム)安倍政治への別れ/政治と憲法の風景・川上文雄…31

筆者のアートコレクションから村山太一(むらやま・たいち、1977年生まれ)「無題」。東京都在住、アトリエ・ポレポレ所属

筆者のアートコレクションから村山太一(むらやま・たいち、1977年生まれ)「無題」。東京都在住、アトリエ・ポレポレ所属

 参議院選挙の応援演説のさなか凶弾に命を落とした安倍元首相。3度目の総理大臣就任の可能性を視野に入れながら活動していた最中でした。衝撃的な事件のあと、驚くべき事実が明らかになりました。自民党議員と統一教会の深い関係。安倍氏がほぼ一人で作り上げたものです。

 また、統一教会については、2015年に「世界平和統一家庭連合」と名称変更した後も、信者の不安を煽(あお)って過度に高額な献金を集めていて、極貧家庭(破産)や家庭崩壊の事例など、被害が続いていることが分かってきました。

 以上をつなげると、安倍政治の負の部分が見えてきます。

 「選挙に強い安倍」のイメージができていました。政権に返り咲いた2012年の衆議院選挙から始まって、安倍氏は国政選挙において連戦連勝でした。統一教会が重要な役割を果たしていました。安倍氏からの要請で実現した統一教会の選挙協力のおかげで、少なからぬ数の自民党候補者が当選する。

 権力強化のために統一教会との持ちつ持たれつの関係を維持したかった安倍氏は、被害者の過酷な実情を知ることができる首相という地位にありながら、その声を真剣に聞くことはなかった。いまだ救済されていない被害者たちの存在は、安倍政治が残した負の遺産の1つです。

 負の遺産は権力行使に関わることにもあります。選挙に圧勝し続けることで権力基盤を強化した、恐いものなしの安倍首相。森友学園(国有地払い下げ)、加計学園(獣医学部設置)のことで、野党から権力濫用・法律違反を追及されたけれど、どこ吹く風とばかり、虚偽答弁などで乗り切りました。政治を深く傷つけた。その過程で財務省職員・赤木俊夫さんの自死もあった。

 2つの負の遺産をどのようにして清算するか、について考えます。

負債も計算する

 一般的な遺産相続での基本ルールは「負債(借金)も計算に入れる」です。負の遺産を踏み倒すことはできない。統一教会との関係が判明した国会議員が「今後は関係を断つ」と言っても不十分です。統一教会の選挙協力のおかげで当選した議員など、濃い関係にある議員の責任はとりわけ重大です。当選の恩恵はそのまま引き継いで(議員辞職せずに)、負の遺産=借金は無視していいのかと言われてしまうでしょう。

 遺産相続の基本ルールを政治の世界に当てはめれば「過去に向き合う」「過去のできごとに責任をもつ」ということになります。

過去にもどってやり直す

 過去に向き合うといっても、どの時点までさかのぼるのか。負の遺産を清算するという観点から見て、とても重要な時期があります。その時期にもどってやり直す。

 筆者が注目するのは、統一教会の名称変更の時期です。2015年に現在の「世界平和統一家庭連合」に変更することを所管の文化庁が認証した。それにより、旧名称時代の反社会的な負のイメージを払いのけ、団体としての基本的性格を維持したまま、生き延びることができた。実際、献金の強要、その他の不正行為を続けることができた。

 それまでの文化庁の基本姿勢は「実体が変わらないのに、名称を変えることはできない」でした。霊感商法で多くの被害者を出し、損害賠償請求を認める判決も出ていた。しかし、当時の安倍首相の積極的な要請があり、その意向にそって文部科学大臣(安倍派の有力議員)が名称変更を決定した可能性が強く疑われています。事実関係をていねいに解明することは負の遺産を清算するために重要な仕事ですが、これは事柄の性質上100%はっきり証明することは困難です。

 しかし、証明できないとしても、実際のその後の経過を見れば、安倍氏(自民党)と統一教会の持ちつ持たれつの深い関係が強固になったことは間違いありません。

 被害をそれ以上増やさない、それまでの被害を救済する。しかし、そのためにすべきことをやれなかったのが2015年という時点(そしてそれ以降)です。統一教会の反社会性の問題点に取り組んでいたこの時点にもどって、当時の問題意識を共有して、必要な法律の制定・改正などに着手する。あるいは「カルト被害対策室」を作る、特命大臣を任命する。いろいろ考えられます。

民主主義をとりもどす

 もう1つ、負の遺産を清算する。それは、安倍政治により被った政治への傷を治して民主主義の政治をとりもどすことです。これについても、過去にもどってやり直すべきことがあります。森友学園への国有地払い下げに関する文書改ざんを強要された赤木俊夫さんの自死は、安倍政治がもたらした「政治への深い傷」の象徴です。赤木さんの苦悩の時期にもどって問い直す。

 これは、すでに妻の赤木雅子さんがおこなってきたことです。雅子さんは、俊夫さんを含めた当事者たちの関わりの真実の姿を知りたいと願って損害賠償の訴訟を起こしました。しかし、国側は争わずに損害賠償を受け入れることで裁判を終わらせました。裁判のやり直しを求めたいところです。しかし、同じ内容で裁判はできない。

 それに代わるものは何か。1つは映画(映像作品)を作ることでしょうか。以前「新聞記者」という映画で赤木さんがとりあげられましたが、そうでなく「公務員」というタイトルで。裁判で証言できなかった関係者も登場してほしいです。

 もう1つは、今の政権がやらないというのであれば、政権交代で新政権が真相を解明すること。しかし、必要な文書はすでに破棄などされているかもしれない。そうであれば(そうでなくても)情報公開法や公文書管理法を改正する。それで民主主義をとりもどす。

 安倍政治への別れは始まったばかり。いや、始まったと思ったら、中途半端に終わってしまった。そんなことがないようにしなければなりません。

【追記】

 祖父の岸信介氏、父の安倍晋太郎氏を引きつぐかたちで、安倍晋三氏が長年かけて築き上げた自民党と統一教会の濃密な関係。銃撃事件後、初めてそのことを知るようになるにつけて、思い出すことがあります。30年近く前、筆者は40歳代なかば。オウム真理教のサティアンと呼ばれる施設の隠れていた実態が露わになった時の驚きにどこか似ている。こんなふうになっていたなんて、まったく気づかなかった。銃撃事件の前と後の落差が筆者には衝撃的です。政治の風景の激変です。

(おおむね月1回更新予定)

川上文雄

かわかみ・ふみお=客員コラムニスト、元奈良教育大学教員

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