視点)奈良県域水道一体化と市町村水道施設台帳の一部未整備
県域水道一体化に向け覚書を交わした荒井正吾知事と27市町村長=生駒市ホームページから
改正水道法が要請する地方公共団体の水道施設台帳整備の法定期限が来月末日に迫った。台帳は水道施設の維持管理や計画的な施設更新に欠かせない存在だ。簡易水道の村を除く奈良県内28市町村の水道事業については、各市町村が国、県に対し書面で整備状況などを回答しており、それによると90%以上の市町村で台帳の整備が完了したとみられる。
厚生労働省水道課によると、台帳の書式に規定はないが、管路調書や施設平面図など基本となる台帳の作成方法が自治体に例示されている。同省が望ましいとする台帳の電子化について「奈良の声」が県内市町村に聞き取りをしたところ、複数の市町村が課題を残し、達成状況に差異が生じていることが分かった。注目を集める県域水道一体化構想に参加するところも、単独経営を選ぶところも、議会の厳しい目が台帳のさらなる改善を促すことになるだろう。
昨年1月、県と27市町村が県域水道一体化に向けて交わした覚書を巡っては、単独経営より一体化を選択した方が有利とする料金試算を県が示した。しかし、この試算の時点において、少なくとも大和高田市など4市町村の水道施設台帳が未整備の状態にあった。
つまり、一体化の相手方となる市町村の水道資産の情報が相互に十分把握できていなかっただけでなく、自分の姿、カルテが十分に分からないまま、料金試算に加わった市町村があったのだ。
水道の実務に詳しいある自治体の職員によると「覚書時点の試算は、一体化を選択した方が料金が有利だと市町村長にアピールし、覚書を交わしてもらうことが最大の狙いで大ざっぱなものだった」と話す。
この料金試算が行われたのは2020年11月。内部留保資金について荒井正吾知事との考え方の相違などから覚書の調印を見送った大和郡山市も、一体化の料金試算に参加していた。この時点では市は水道施設台帳の整備について周辺の県北部の市にやや遅れをとっていた。
法定の期限をにらみ大和郡山市は今年3月末の整備完了を目標にしていたが、今年7月31日をもって台帳の整備を完了した。担当者は「管路の情報は電子化していたが、浄水場や配水池などの設備の図面(平面図、断面図)が古く、改めて現地調査し、測量なども行い修正した。大掛かりな作業になった」と話す。
同市のように、地中に埋設されている管路の材質区分などの情報整備には早くから取り組んだ自負を持つものの、浄水場、配水池などの情報整備には「遅れをとった」と話す市町村が複数ある。三郷町は昨年10月に水道施設台帳の整備が完了。大和高田市は「本年9月30日法定の期限には図面関係も整い整備済みになる」と話す。五條市も法定期限に間に合うよう取り組んでいるという。
県域水道一体化の効果が800億円に上ることを県が公表したのは2018年のことである。この時点においては、覚書の料金試算のとき以上に、市町村の水道施設台帳整備は課題を残していた。800億円の根拠の中心を成すとされたものは、市町村浄水場の廃止を目玉とする資産の統廃合であり、数値の根拠となる台帳が未整備であったことは、一体化の効果額が粗い数字だったことを裏付ける。
その前年に当たる2017年、県水道局が実施した市町村ヒアリングにおいてある市の担当者は「一部の古い施設について建設当初の資料がないため管理できていない部分がある」と答えていた。
県はその後、効果額を修正し、現在は効果額の宣伝そのものを取りやめている。また、料金試算については昨年12月、やり直した。しかし、今度は算定の根拠となる情報を不開示とし、水道消費者の県民を知る権利から遠ざける手法に手を染めている。広域化の国庫補助金を最大限に獲得するための企業団設立の目標年(2025年度)が優先され、県民に対する丁寧な説明が遅れる傾向が見られる。 関連記事へ