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果たされなかった説明責任~奈良県域水道一体化を考える

県域水道一体化を考える

 奈良県は2017年10月、県営水道と28市町村水道を統合する構想を打ち上げた。「統合効果は800億円」と県は公表したが、算定方法に誤りがあった。県は額を下方修正したが、県民に何の説明もなかった。統合後の水道料金を巡っては、県は廉価な統一料金の試算を示した。「奈良の声」は、算定の根拠に関心を持った。例えば、水道管はいつ敷設されたのか、その年度が不明な管路が県内に相当あり、統合に参加する市町村合計で計800キロに及ぶことなどを突き止め、料金試算に疑問を投げ掛けた。

 県の構想は、あり余る大滝ダム(川上村)の水を主な水道水源とし、統合による効果額をはじくために各市が設置する主要な浄水場5カ所(当初の構想では11カ所)の廃止を促した。

 これにより、奈良盆地の市街地周辺から水道水源が減り、代わって、遠い吉野川上流の同ダムへの依存度が高まる。ダムは建設に50年の歳月を費やし、500世帯を立ち退かせた。また、貯水に起因した地滑りを起こして離散した集落もある。貯水池の堆砂量は増え続け、将来はダム老朽化に伴う維持管理コストの上昇が懸念される。

 水道一体化は、累積赤字に悩む市町村の弱小水道にとっては大きなメリットがある。また、それなりに給水人口があり、比較的経営が安定している各市の水道も広域化に理解を示し、前知事の呼び掛けを受けてはせ参じた。将来の給水人口の減少をにらみ、県がけん引してくれる広域化構想は魅力だったに違いない。

 国、県から手厚い助成金が見込まれるが、裏を返せば、参加する市町村は議会の了解を得ようとする思惑が先行しがちで、住民説明会を開いたのはわずか2市にとどまった。この事実をもってしても、水道の自治は形骸化してきた。

 奈良市と葛城市は水道一体化の協議から離脱した。2市の共通点は、自己水源が豊富であり、統合反対の住民運動も繰り広げられた。これら不参加の2市に対し、県は用水供給単価(旧県営水道)の値上げを決めた。単独経営する市町村水道や山村の簡易水道の消費者は同じ県民であり、県内すべての水道が健全経営できるよう助力するのが県の使命のはずだ。

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