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浅野善一

議長職、任期1年申し合わせるも手放さず 奈良県河合町議会 拘束力ない短期交代の慣例、思惑に左右されやすく

奈良県河合町役場=2024年6月7日、同町池部1丁目

奈良県河合町役場=2024年6月7日、同町池部1丁目

 奈良県河合町議会で議長が任期1年の申し合わせに従わず議長職を手放さないでいる。一方で、この申し合わせは非公開だった。地方自治法が定める正副議長の任期は議員の任期(4年)。これに従わない短期交代の申し合わせや慣例は珍しくないが、法的拘束力がないため議員の思惑に左右されやすく、住民への説明も不足している。

 地方自治法103条は議会の正副議長の選出、任期について「議員の中から議長および副議長1人を選挙しなければならない」「任期は、議員の任期による」と定めている。議会の会議規則などで正規に議長の任期を定めれば違法となることから、申し合わせなどにより本人が自ら辞職する形を取っている。このため、本人が辞職を拒めば続投を止められない。

 取材した河合町議会議員によると、任期について申し合わせをしたのは、昨年4月の統一地方選での議員選挙後初めてとなる同年5月12日の臨時会で、正副議長を選出した際。「奈良の声」が入手した申し合わせ文書によると、現議員の任期4年間は正副議長の在任期間を1年とし、正副議長は毎年5月の臨時会で辞職願いを提出、選挙を実施するというもの。全議員12人が同意、署名した。非公開で会議録を残さない全議員懇談会で申し合わせた。

 辞職せず議長にとどまっているのは昨年5月の臨時会選挙で1期目の議長に選ばれた疋田俊文議員(無所属)。今年も5月の臨時会が迫った4月18日の全議員懇談会で正副議長選実施について確認が行われ、5月1日の立候補届け締め切り日までに、議長選では再選を目指す疋田議長と長谷川伸一議員(無所属)が届け出た。

 ところが5月10日開催予定の臨時会2日前の8日になって、疋田議長ら6議員が署名入りの文書で、申し合わせに同意したことを撤回すると表明した。撤回に当たって、協議のための全議員懇談会開催の要請はなかった。これにより臨時会当日、疋田議長から辞職願いは提出されず、議長選挙も行われなかった。

 取材した議員によると、選挙になれば、疋田議長と長谷川議員の票は同数になる公算が大きかった。その場合、当選者はくじ引きで決めることになる。

 「奈良の声」が入手した撤回表明の文書によると、撤回理由は「申し合わせによる正副議長の短期交代制は、(正副議長の任期を定めた)地方自治法(103条)の趣旨からして適当ではない」というものだった。一方、副議長については、撤回文書にも署名した梅野美智代副議長(無所属)が辞職願いを提出し選挙が行われた。

 「奈良の声」は6月7日、疋田議長に取材した。これまで地方自治法に対する認識はなかったのか、撤回に当たってはあらためて全議員懇談会で協議する必要があったのではないかと問うた。議長は「1年交代は法にそぐわない。後で気付いた。申し合わせに同意、署名したことが間違っていた」と釈明した。疋田議長は5期目のベテラン議員。この間、複数回、議長も務めている。

 唐突な撤回表明に対し、常盤繁範議員(無所属)らは臨時会当日、正副議長の選挙を求める決議案を提出。賛成多数で可決されたが、疋田議長が辞職しなかったため、さらに議長辞職勧告決議案を提出。これも賛成多数で可決されたが、疋田議長は議長にとどまっている。

 同町議会では、この申し合わせ以前も正副議長の任期1年が慣例となっていた。常盤議員は1年ごとの議長改選の長所について「1年に1回、議会を統理する議長の資質や品位を問う機会になる。長期になると1人の議員に権限が集中する」と説明する。短期交代の短所として考えられる点としては、臨時会開催のための労力の問題などを挙げたほか、「1年では経験を積めない」とも述べたが、今回の疋田議長の姿勢に対しては「約束は守るべき」と強調した。

 一方、申し合わせの在り方については、常盤議員は「議員の私的申し合わせの公開は難しい」としながらも、「議会が何をしているのか住民に分かりにくい」と反省点や情報公開の必要性にも言及。ルールを公開すれば「衆人環視になる」と述べて、住民の監視の目が働くとの見解を示した。

 「奈良の声」は、河合町に隣接する7町、斑鳩、安堵、川西、三宅、上牧、王寺、広陵の各議会事務局に確認した。いずれの議会にも正副議長の任期を1年または2年とする申し合わせや慣例があった。

 これら7町の議会を傍聴するかその会議録を確認するかすれば、1年または2年ごとに任期を終えた正副議長が辞職願いを提出し、選挙で新しい正副議長を選出していることは分かる。しかし、地方自治法が定める任期に従わず、あえて短期交代制を取り入れていることについて、考え方や見解を議会のホームページに掲載しているところはなかった。

 ただ、斑鳩町議会は、正副議長の任期について2012年7月の議会運営委員会で議論していて、その会議録をホームページから閲覧できる。会議録によると、法律通り4年とするか1年または2年で交代するか議論し、従来通り2年でとの結論を出している。同議会は現在も任期を2年としている。

 全国では、静岡県三島市議会が議長任期の在り方について昨年10月から今年3月にかけて議会運営委員会で検討した結果をホームページで公開している。任期を1年とするか2年とするかそれぞれの長所、短所を検討し、「原則は2年制とするが、1年で辞職することも認める」との結論に至ったことを報告している。

 全国町村議会議長会の第69回「町村議会実態調査結果の概要」によると、2023年7月1日現在で、全国926町村のうち議長の任期を法律通り4年としているのは494で、2年は376、1年は39。また、全国市議会議長会の2023年度「市議会の活動に関する実態調査結果」によると、2022年現在で、全国638市のうち任期を4年としているのは10で、2年は447、1年は181となっている。

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