緊急提言)投票、外科医になったつもりで 衆議院選挙の選択肢/客員コラムニスト川上文雄
第50回衆議院選挙の公示を受け、掲示板に張り出された候補者のポスター=2024年10月15日、奈良市登大路町、浅野善一撮影
選挙では、有権者は主権者として投票する。主権者にふさわしい姿をイメージしながら投票したいものです。たとえば、外科医になったつもりで投票する。今回の衆議院選挙では、立憲民主党が「政権交代こそ、最大の政治改革」のスローガンを前面に立てたことで、政権交代が大きな焦点になっています。外科医ならどうするか。
選択肢は2つ。日本政治の病状は深刻と診断して「手術=政権交代」。それほど深刻ではないと診断して「経過観察=自公連立政権の継続」を選択する。
主権者のイメージ、もう1つ考えられます。議員は医師(政党は医師団)。投票は良医を選ぶ行為。私たちの病気を治し健康を回復してくれる(=困っていることを解決してくれる)医師です。投票先を決めるとき、候補者・政党の選挙公約リストを見ながら自分の利益になる項目を探す、というのは良医選びに似ている。
以上2つは主権者として投票するときの両面。どちらも捨てがたいけれど、今回の選挙は「政権交代」が焦点なので「外科医の診断」を優先させたい。選挙の大きな焦点を「政権交代するか、しないか」と見定めて投票する。
キーワードの「政権交代」について、以下のように考えました。
自民党「裏金議員」の公認問題で、石破茂氏には自民党総裁選中の明解な発言(国民世論向け)と当選後のあいまいな姿勢(自民党内向け)があって、政治改革への本気度が疑われ始めていました。結局「裏金議員」の一部を非公認、「比例代表重複立候補なし」で行くことに決めました。しかし、立憲民主党の選挙スローガンは「政権交代こそ、最大の政治改革」。これで攻められたら石破政権も対抗して「石破政権(自公連立政権)安定で、政治改革」で行くしかないでしょう。
ただし、石破政権の「政治改革」の内容はあいまいで、自民党選挙公約を見ると、政策活動費「将来的廃止も念頭に」で止めてある。政治改革をどうするか、有権者に問われています。政権交代の外科手術か、自公政権継続の経過観察(今後の自浄努力に期待して見守る)か。
ところで、今回の解散・総選挙を「石破政権を信任するかどうかの選挙」と考えていいものか、疑問があります。なにしろ、政権成立後8日で解散。選挙の結果、何もやっていない内閣が信任されるにしても、信任されないで(退陣させて)政権交代というのも、どこか違和感があります。すっきりさせるためには、石破政権以前を含めてもっと長期の自公連立政権を視野に入れて政権交代を考えたほうがよいと思います。
2012年、民主党政権(野田佳彦首相)から第2次安倍政権(自公連立)へ交代。その後2人の自民党首相を経て2024年の石破政権(自公連立)がある。「政権交代こそ、最大の政治改革」というのであれば、この期間全体を問題にしたほうがいい。
有権者が自分自身でこの期間を振り返る選挙。自分個人にとって、何が一番ひどいことだったか。そして、自分は直接の当事者ではないけれど、本当にひどい(苦しんだ人たちがいる)という事例を思い浮かべる。実質賃金(可処分所得)の長期的下落。所得格差の拡大(非正規で働く人たちの困難)。農業に従事している人たちの困難。政治の何が問題で今の私たちの生活の困難があるのか。どうしたら、政治の力を強化して困難を克服できるか。
政治改革は政治とカネの問題(裏金議員のこと、政策活動費の廃止のこと)とか、旧統一教会問題とかにとどまりません。そのほかにも国民生活を豊かにするのか疑わしい「公共」事業、大型開発プロジェクト、巨大イベント(2022東京オリンピックなど)。業者と議員・行政の長の癒着を生んできた。これは「裏金」問題発生の背景と言われています。簡単な外科手術ですみそうもない。
裏金議員が立候補していない選挙区であっても、投票を通じて主権者としての自分の思いを表現できます。
かわかみ・ふみお=奈良教育大学元教員、奈良市の神功(じんぐう)地区に1995年から在住