|
回廊、2階建て住宅に匹敵 復元、眺望狭める平城宮跡 大極殿の周り1キロ囲む
国土交通省による国営公園事業が進む奈良市佐紀町の平城宮跡(特別史跡)で、大極殿を囲んでいた築地回廊が復元される。高さは2階建て住宅に匹敵し、延長は1キロに及ぶ。宮跡のどこからでも、草原の向こうに若草山や生駒山、また遠くは大峰山脈など、四方の山並みを眺望できる環境、人々が慣れ親しんできたそうした風景は大きく変わることが予想される。着工は2014年度。住民らの合意はあるだろうか。 国営公園事業の整備の方向は、平城宮跡の発掘調査を行っている奈良国立文化財研究所(現在は独立行政法人)の案を基に、1978年に文化庁が策定した平城遺跡博物館基本構想資料がよりどころになっている。整備を推進したい荒井正吾知事の運動によって2008年、国営公園となり、整備の主体は文化庁から事業予算が期待できる国交省に代わった。 整備の柱は、朱雀門(1998年文化庁が復元)から第一次朝堂院を経て、第一次大極殿院に至る宮の中心施設の復元。〝奈良時代を今に感じる〟空間を創出する―を目標としている。 築地回廊は大極殿院の施設の一部で、これまでの発掘調査で、大極殿(2010年文化庁が復元)を南北317メートル、東西177メートルにわたって囲んでいたことが明らかになっている。奈良文化財研究所の資料によると、高さは建物部分が7メートル、基壇部分が1メートルと推定され、地表からだと8メートルに及ぶ。住宅でいうと2階建てが「8メートル前後」(行政の建築確認業務担当者)。幅は13メートルあり、築地塀を挟んで院の内側と外側に通路がある。大極殿正面の回廊に付随していた重層の南門と門の両脇にあった東西両楼閣も復元する。 奈良県が2010年の平城遷都1300年祭の際に設けた修景柵の位置が回廊のあった所に当たる。 同省国営飛鳥歴史公園事務所平城分室によると、事業費は数百億円が見込まれ、完成までに10―20年を要するという。完全に復元するには、回廊の北側に当たる県道谷田奈良線の移設も必要になる。 眺望への影響は、高さ2.15メートルの修景柵を目安に考えることができる。回廊はこれの4倍近い高さになる。平城宮跡の東方には若草山や麓の東大寺大仏殿、西方には生駒山や矢田丘陵、南方には大峰山脈がある。宮跡の中心部に回廊ができると、こうした眺望が狭められる場所が出てくる。修景柵さえなかったときは、宮跡中心部で見通しを遮る建築物はほとんどなかった。 国営平城宮跡歴史公園基本計画は眺望景観の保全を掲げている。宮跡東側の緑地や西側の緑地、第一次朝堂院付近、第二次大極殿院付近などを視点場として挙げ、そこからの眺望を確保するとしている。しかし、復元する回廊による影響は検討外。平城分室は、回廊の眺望への影響について「周囲の山並みがどのような見え方をするか検討するが、復元から外れて回廊を低くくすることはない」とする。 景観行政団体としての権限を持つ地元奈良市は本年度、奈良らしさが際立つ一方で課題もある眺望景観を、市眺望景観保全活用計画にまとめた。重点的に保全・活用に取り組む眺望景観15件のうちの一つに、「平城宮跡から東大寺大仏殿、若草山等の山並みへの眺望」を選定した。この中で「平城宮跡の国営公園としての整備にあたっては、眺望景観への配慮が望まれる」とした。 市景観課は「保全すべき奈良らしい眺望景観は歴史的建造物とセットで考えている」とし、回廊について「ビルなどであれば問題だが、歴史的建造物であり、支障はない。復元されれば逆に眺望景観の魅力向上が図られる」との見解。 同公園基本計画や第一次大極殿院建造物復元整備計画などは、同公園事務所のホームページ上で公表されている。国営平城宮跡歴史公園事業概要というパンフレットも作成されている。築地回廊の完成予想図も掲載されている。しかし、両計画は設計前ということもあり、規模を示す情報は乏しく、眺望との関わりが分かる情報はない。住民らが構想、計画段階で眺望への影響を想像することは困難といえる。 平城宮跡の国営公園事業をめぐっては、大極殿院の正面に隣接する朝堂院広場の草地を土系舗装する整備に対し、市民グループ「平城宮跡を守る会」(寮美千子代表)が緑地の減少や木簡など地中の遺物への影響を懸念して、工事中止を訴えている。 |
関連記事テーマ
ご寄付のお願い
ニュース「奈良の声」は、市民の皆さんの目となり、身近な問題を掘り下げる取材に努めています。活動へのご支援をお願いいたします。
振込先は次の二つがあります。 ニュース「奈良の声」をフォロー
当サイトについて
当局からの発表に依存しなくても伝えられるニュースがあります。そうした考えのもと当サイトを開設しました。(2010年5月12日)
|
|