奈良県:基金損失めぐる住民訴訟、市町村事務組合の弁護士着手金735万円に懸念 費用高額化、提訴ためらわせる恐れ
奈良県市町村総合事務組合の20億円の基金損失をめぐる住民訴訟(昨年3月、記者が奈良地裁に提訴)で、被告である組合の弁護士着手金が735万円に上ることが分かった。奈良市を被告とした現在進行中の住民訴訟の8倍に近い。住民訴訟を提起したことで、相手の地方公共団体が高額の弁護士費用を払わなければならないとすれば、住民は提訴をためらうようになるのではないか。着手金の高額化によって、そうしたことが懸念される。
奈良市が被告の訴訟は94万5000円
同訴訟は、退職手当基金の運用で20億6590万円の損失が生じたことに対し、組合が当時の組合管理者らへの損害賠償請求を怠っていることは違法、との判決を求めたもの。組合は提訴を受けて弁護士2人に訴訟業務を委託した。今月17日の組合議会定例会で着手金735万円(消費税込み)の補正予算が承認された。
日本弁護士連合会の「弁護士の報酬に関する規程」は、弁護士は各自で報酬基準を作成しなければならないとしている。着手金は、一般的に依頼者が確保しようとする経済的利益の額を基準に事案の難易や時間、労力などを考慮して決定される。通常、経済的利益の額に一定の利率を掛けるなどして算定される。
記者は、組合の弁護士が昨年4月、組合に提出した弁護士費用計算説明書を、組合構成市町村への開示請求で入手した。
同説明書や関係者の話によると、同訴訟の経済的利益の額は損害賠償請求額の20億6590万円とされた。報酬基準に基づいて算定される着手金は、同請求額に2%を掛け369万円を足した4500万8000円とされた。
さらに算定に当たっては、損失の原因となった、複雑な仕組債の解明などを必要とする上、訴訟の長期化も予想されるとして、弁護士の労力、時間も多大になることが想定されるとした。また、組合が地方公共団体であることやその業務が公務であることなどを考慮して、最終的に同金額の約20%に当たる945万円(消費税込み)を着手金として相当した。
補正予算で承認された額が同説明書の額と異なるのは、組合が当初の額は高すぎるとして難色を示したためとみられる。
一方、奈良市の住民訴訟は、市が計画した西ふれあい広場について、市土地開発公社に不必要な土地を高額で先行取得させたのは違法として、市に対し、当時の市長らに土地の取得費など21億5503万円について損害賠償請求するよう求めたもの。昨年6月、市市民オンブズマンが奈良地裁に提訴した。
同訴訟についても、弁護士が市に提出した弁護士報酬見積書を市に開示請求して入手した。弁護士着手金は経済的利益の額を800万円として算定、94万5000円(消費税込み)とした。
二つの住民訴訟の着手金は、算定の基礎となる損害賠償請求の額がいずれも20億円余りでほぼ同じであるにもかかわらず、大きく違った。原因は、訴訟の経済的利益の額をいくらとみるかという点にあった。
経済的利益、住民訴訟は算定不能の考え方
住民訴訟の場合、地方公共団体が損害を受けているにもかかわらず、その回復を怠っていることは違法であるとして、住民全体の利益のため訴えを起こすものであることから、原告の経済的利益は算定不能とする考え方がある。
こうした考え方は、住民が訴えを起こしたときに裁判所に納める手数料の算定に倣っている。民事訴訟費用法では、手数料は訴えで主張する利益の額に応じて増えていくが、財産権上の請求でない訴えについては同利益の額を一律に160万円とみなして算定する。住民訴訟は通常、財産権上の請求でない訴えとして扱われる。
実際、記者が同訴訟で裁判所に納めた手数料も、同利益を160万円とみなして算定した場合の1万3000円だった。奈良市の住民訴訟の手数料も、市民オンブズマンによると1万3000円だった。
市町村総合事務組合の弁護士費用計算説明書は、訴訟の経済的利益の額がいくらになるかについて、訴訟では損害賠償請求権の存否が争われることになるとし、経済的利益の額は同請求額と同一とした。一方、奈良市の訴訟では、市行政経営課によると、経済的利益の額は算定不能の場合の800万円とされたという。
同組合に対する住民訴訟で原告訴訟代理人を務める弁護士によると、各弁護士が作成している報酬基準では多くの場合、経済的利益の額が算定不能のときの同利益の額は800万円とすると定めているという。
住民訴訟の着手金の額は、一般的な算定ではいくらになるか。経済的利益を算定不能として、日本弁護士連合会の旧報酬基準規程(2004年廃止)に準拠した一般的な報酬基準で計算すると、経済的利益800万円に5%を掛け9万円を足した49万円となる。
県市町村総合事務組合は高額となった弁護士着手金について「各方面に調査、相談した結果、当時の管理者ら多数の組合関係者に多大な経済的影響が及ぶ危険性があり、また、弁護士の労力、時間、法的能力を考慮して、妥当との結論に至った」としている。【続報へ】