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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
浅野善一

奈良県市町村組合の弁護士報酬「支払い慎重に」 基金損失めぐる住民訴訟 高額着手金の監査請求結果で意見

 奈良県市町村総合事務組合(管理者、東川裕・御所市長)の基金損失をめぐる住民訴訟(2014年5月、奈良地裁は請求を却下または棄却)で、組合が依頼した弁護士の着手金が735万円に上ったことに対し、不当に高額であるとして、損害賠償請求などの措置を講じるよう勧告することを求めた住民監査請求(同年9月30日付)について、同組合監査委員は11月30日までに監査結果を公表した。

 請求は棄却したが、付記した意見で「違法とすべき事由は見当たらないが、かなり高額との印象は否定できない。弁護士との成功報酬支払いの協議では慎重な交渉を行うべき」と指摘した。成功報酬は通常、着手金よりさらに大きな額になる。

 住民訴訟提起、住民監査請求いずれも、記者が取材し、「奈良の声」で明らかにした事実を基に行った。

 同住民訴訟は、退職手当基金の運用で投機性が指摘されている仕組債を購入、20億6590万円の損失が生じたことに対し、組合が当時の管理者らへの損害賠償請求を怠っていることは違法との確認を求めたもの。

 着手金は、一般的に依頼者が確保しようとする経済的利益の額に一定の利率を掛けるなどして算定した額を基準に、事案の難易や時間、労力を考慮して決定される。組合の弁護士は、損害賠償請求の額を経済的利益として、20億6590万円×2%+369万=4500万8000円と算定した額を基準に、その約20%に当たる900万円を提示した。最終的に735万円で合意し、組合は14年3月に支払った。

 住民監査請求は、同訴訟の経済的利益は算定不能と考えるべきと主張した。民事訴訟費用法では、提訴の手数料は訴えで主張する利益の額に応じて増えていくが、財産権上の請求ではない訴えの場合は、同利益の額を一律に160万円とみなして算定する。住民訴訟の手数料は通常、160万円とみなして算定されており、今回の訴訟の手数料も同様に算定されていた。

 弁護士が作成している報酬基準の多くは、算定ができないときの経済的利益を800万円と定めている。その場合の着手金を一般的な同基準で算定すると、800万円×5%+9万円=49万円となる。

 実際、奈良市では、市土地開発公社に不必要な土地を高額で先行取得させたのは違法として、市に対し、当時の市長らに土地の取得費など21億5503万円について損害賠償請求するよう求めた住民訴訟で、市の弁護士は経済的利益の額を800万円として算定、着手金を94万5000円とした。

 両者の損害賠償請求額は同規模だが、組合の着手金は奈良市の8倍に近い。

 監査請求では、着手金のうち不当な支出分について弁護士に返還を求めるとともに、支出した東川管理者に対し損害賠償請求するなど必要な措置を講じるよう、組合に勧告することを求めた。

 監査結果は棄却の理由について、仕組債の内容や当時の経済情勢など複雑な問題の解明を必要とする訴訟審理が予定され、弁護士の労力も多大なものになると想定されていた、とした。

 一方、付記した意見では、監査請求が指摘した「訴訟審理は期間にして約1年、弁護士の出廷回数は8回、提出した主張書面は答弁書と準備書面3通に過ぎなかった」との点に触れて、「結果としてかなり高額との印象は否定できない」と述べ、「勝訴しても組合に何ら利益をもたらさない。弁護士との成功報酬支払いの協議では、組合に過大な負担が生じないよう慎重な交渉を行うべき」と求めた。

 成功報酬は一般的に、経済的利益の額に掛ける利率が着手金のときの倍に設定されている。【続報へ】

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