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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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コラム)「一番星」の旅/川上文雄のじんぐう便り…1

大角雅紘(おおすみ・まさひろ)「一番星」。奈良市内のほっとはーと共同作業所(名称は当時のもの)で描いた作品

大角雅紘(おおすみ・まさひろ)「一番星」。奈良市内のほっとはーと共同作業所(名称は当時のもの)で描いた作品

 障害のある人のアート作品を集めてきました。付き合いや義理で購入したことはありません。どこかいい!なぜかいい!と確信できるものだけを集めました。自宅の壁にはいつも何枚かの絵が掛けてあって、じっと見つめるたびに生き生きとした姿を現わし、それぞれの線・色・かたちで私を楽ませてくれます。しかし、コレクションのよろこびは、それだけではありません。

 よろこびの源泉は、家の外の世界にもある。作品を手に入れるまでの出来事、経験できたことからも得られる。これまでに何度もありました。「一番星」はそのひとつ。手にするまでの経緯に忘れられない思い出があります。

 たまたま購入した月めくりの卓上カレンダーでこの作品を見つけました。印刷とはいえ、清明な感じがほのぼのと伝わってきて、目にした瞬間、好きになりました。作者に関わる情報としては、大角雅紘(おおすみ・まさひろ)の名前と所属施設の名称が記されているだけでした。

 それからどれくらい過ぎたころでしょうか、施設に問い合わせました。「大角さんの作品、貸していただけますか」「大学の授業の一環として、障害のある人たちの作品展を計画しています」。願いは聞き入れられて、施設を訪問することになりました。

 大切な作品を傷つけないで持ち帰るにはどうしたらいいか。私の子どもが小学校の図画・工作で描いた絵を入れていた額を使うことにしました。アルミの枠と、ペラペラのアクリル板カバー。授業であてがわれた安手なつくりの額です。

 JR奈良駅付近にある小規模な福祉施設でした。作者は不在。じつは、大角さんは2か月ほど前に逝去していたのです。

 職員のお一人(以下Aさん)が大角さんの話をしてくれました。高齢になって身体に重度の障害をもつようになり、デイサービスに通うなかで「一番星」を描いた。絵を描くことは以前から好きだったのではなく、施設スタッフから促されて絵筆をとった。完成させた作品は2点。息子さんとの関係が良好でなく、断絶状態だった。遺族に作品を引き取ってもらえず施設に残っている(プライバシーへの配慮から、書けないことがあります)。私は計画中の作品展について説明しました。

 持参した額に作品を入れ終えて帰ろうとしていた時でした。Aさんは「一番星」を見つめながら「こんな立派な額に入れてもらえてよかったね」と言ったのです。故人に届けとばかりに心をこめた声でした。

 「立派な額」という言葉にとまどいました。安手なつくりの額を持っていったのですから。額という意識すらなかった。運搬用のただの入れ物です。でも、とまどいは長く続きませんでした。どんな額でも関係ないのだ。「一番星」が額に入れられて、作品展の会場に飾られるのを、Aさんはよろこんでくれている。施設を退出しながら、そのことを感じ始めたのでしょう。作品展の企画者として、うれしくなりました。

 思いをこめたAさんの言葉の力に押されて、思いに応えようとして、大胆になっていました。額に入った「一番星」を通行人にみえるようにしっかり持ちながら、大通りを歩きました。施設から最寄りのバス亭までの短い道のり。大角さんという人がこんなにすばらしい絵を描いたから見てくれます? 夕暮れが近づいていたけれど、まだ十分に明るい時刻でした。

 大角さんは2007年9月に逝去。作品展は翌年の1月、奈良市内のギャラリーで開催。展示用の額は、大角さんを追悼するにふさわしいものをと思い、重厚・厳粛な木枠にしました。

 できるだけ多くの人にこのすばらしい作品を見てほしい。そこで、福祉施設の了解を得て、私が預かることにさせてもらいました。その後5回ほど、私が企画する作品展で展示しました。2017年10月の第17回全国障害者芸術・文化祭なら大会「 “美しい”と“しあわせ”の在り処」(ありか)展はその1つです。

 「一番星」は預かったまま、いまも当時の額装のまま私のもとにあります。自宅に閉じ込めておきたくありません。これまでのように本格的なギャラリーでの展示はもう困難ですが、場所にこだわらない、ごく小規模の展覧会はできるかもしれません。あるいは、私の知人たちに自宅に飾って楽しんでもらうとか、何かのかたちで利用してもらうとか。これからも「一番星」の旅が続きますように。(おおむね月1度の更新予定)

追伸

 昨年の10月まで「政治と憲法の風景」を執筆していました。身辺雑事についても書きたいと思い、新連載を始めました。政治に関わることもひきつづき取りあげます。

川上文雄

 かわかみ・ふみお=奈良教育大学元教員、奈良市の神功(じんぐう)地区に1995年から在住

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