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地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良市・浅野善一
ジャーナリスト浅野詠子

奈良県)県域水道一体化策 市町村の地下水利用廃止相次ぐ 巨大ダム依存に課題

県営水道の主要水源、大滝ダム=2017年6月、川上村

県営水道の主要水源、大滝ダム=2017年6月、川上村

 【視点】大滝ダム(川上村)など県内であり余る貯水を主な水源として、奈良県が打ち出す県域水道一体化策に呼応し、地下水を利用(深井戸掘削)した自前の水道を廃止して、県営水道100%に切り替える県内市町村が相次いでいる。地下水をくみ上げ、既存の浄水場を維持する経費より、県営水道の水を買って賄う方が安上がりという試算に基づく。一方、地下水や河川の水など、多様な水源を確保することが自治体の危機管理につながるという考え方は古くからある。県内の水道事情は大きな転換期を迎えている。

 長年にわたり市町村が地下水など独自に開発してきた水源の利用を断念させ、県営水道の利用を促進する県域水道一体化の動きは2012年ごろから本格化。すでに橿原市や王寺町、川西町などが県営水道に100%を頼る上水道に移行している。一体化の動きが出るかなり以前から、上水道の自己水源を廃し、県営水道に切り替えている香芝市、大和高田市などを合わせると、県内39市町村のうち10市町村が100%県営水道に依存することになった。今後さらに加速する。

 これまで上水道の約6割を地下水で賄ってきた川西町は今年度、県営水道に切り替え、初めての厳冬期を迎えている。「蛇口をひねってあまりの冷たさに驚きました」と町内の主婦(70歳代)は話す。地下水を利用した水道に比べ、河川の水を利用した水道の水の冷たさを実感している。県水道局によると「10度ぐらい温度差があるかもしれません」。

 県内各地の浄水場を3カ所に集約し、市町村直営の浄水場はすべて廃止する県域水道一体化の方向について村田崇・県地域振興部長が説明したのは昨年10月2日、桜井市内で開かれた行事(第3回県・市町村サミット)の席上だった。

 今後、県営水道100%受水に移行していくとみられるのは、御所市や三宅町、田原本町、三郷町、安堵町など。三宅町は上水道の7割近くを地下水で賄い、いわば水資源の自治を貫いてきた。県が指摘するように、小規模自治体が施設更新や耐震化をするだけの十分な財政力を持たず、職員の技術力を向上させることも難しくなってきた。県水道局は水道料金の単価を下げて、県営水道の売り込みに余念がない。

 強気の商売の背景には2013年、川上村の吉野川(紀の川水系)に50年の歳月をかけて完成した国土交通省の大滝ダム(有効貯水量7600万トン)の利水容量が使いきれないほど大きいという事情がある。県営水道は毎秒3.3トンを取水できるが、これは高度経済成長期終盤の1972年に決めたもので、当時は県人口が160万人になることが想定されていた。現在はおよそ135万人。大滝ダムに加え、県営水道は農水省の津風呂ダム(吉野町)と大迫ダム(川上村)、水資源機構の室生ダム(宇陀市)も水源としており、かなりの余裕がある。

 「大滝ダムが完成して以来、渇水という言葉を聞いたことがない。大きな効果を実感している」と県水道局業務課の浅田宏行課長は話す。県域水道一体化の窓口となる県地域政策課がはじいた2040年度までの24年間の経費削減額はざっと800億円である。市町村の浄水場がなくなり、送配水施設の縮減や人員の削減などで、このような試算になるという。

 果たして、いいことずくめなのだろうか。大滝ダムの事業費は3640億円に膨れ上がり、県が支払った負担金は606億円(治水分236億円、利水分370億円)に達している。小さな県の負担は巨額だ。うち利水分は県民の水道に使われることから厚労省が2分の1を補助し、新規に利水ダムを造るよりは安いという見方ができる。一方、これとは別にダム本体の維持管理費の10%ほどは県がずっと負担していく。

 ダム湖の水は余っていても、堆砂や河川環境の悪化など、ダム特有の問題はついて回る。会計検査院は2014年、大滝ダムの堆砂量が多く、治水容量に影響するとして国交大臣に改善を勧告した。完成したばかりの翌年に早くも指摘されたのだ。背景には特異な事情がある。ダム本体は10年以上前の2003年に出来上がり、試験湛水中に地滑りが発生して対策工事に時間を要していた。その間、紀伊半島大水害などによる大量の土砂を飲み込んでいた。

 1959年の伊勢湾台風をきっかけに、大滝ダムは地元の反対を押し切り計画が進んだ。すぐ上流の大迫ダム、そして同じ吉野川水系の津風呂ダムも反対運動があった。「300年の悲願」と、吉野川分水のこれらダムを行政が礼賛する傍ら、奈良盆地の原風景ともいえ、治水機能を持つため池が激減した。

 巨大ダムに依存した水資源開発は、仮に、今使うダムの機能が低下したなら、別の村の集落をつぶしてダムにすればよいという山村軽視の発想を招きかねない。住民参加と環境保全を盛り込んだ改正・河川法の精神から、水道行政が懸け離れてよいものか。

 県内上水道使用量の4割を占める水の一大消費地、奈良市は、県水の受水率は約1割で、県内市町村の中で最も依存率が低い。水道開発は大正時代にさかのぼり、県営水道より40年余りも早く創業した。現在は、布目ダム(奈良市、山添村)や比奈知ダム(三重県名張市)など4カ所を水源としている。

 記者は以前、奈良市の水道局に対し「遠隔地にある御所浄水場から県営水道を受水するのは不経済ではないか」と質問したことがある。そのとき担当者は「複数の水源があることで災害や渇水のときに互いの能力を補完し合うことができる。大きな意味で災害対策につながる」と答えた。小さい市町村にも当てはまる視点だろう。

 県内を見渡すと、水源は多様だ。桜井市の水道水源の一つである倉橋ため池は、堰堤(えんてい)の高さが基礎地盤から15メートルを超え、行政上はダムに該当するが、河川を横断するコンクリートの構造物を持たない。土で堤を築いたアースダムである。葛城市は葛城山系の谷水を生かしているほか、余剰の農業用水を受け止めるため池は浄水場につながっている。

 以前から県政は、奈良盆地の地下水を過小評価している。「県営水道のあゆみ」という刊行資料には「地下水の水質に恵まれず、かなけみずと称されるように鉄・マンガンの含有量が多い」と書いてある。しかし、地下水を利用している大和郡山市や生駒市などの水道水は「おいしい」という評価もある。奈良市内に「井」の付く町名が多いのは良質の井戸に恵まれていた名残ともいわれ、清水通りと呼ばれた土地もある。元奈良市長、鍵田忠三郎(1922~94年)は「足もとに大地下湖あり」として、奈良盆地の地下水開発に大きな意欲を持っていたことが市の水道史に現われる。

 加速する県域水道一体化の動き。「県内水道事業全般のコストダウンが主眼であり、県営水道をたくさん買ってもらうことが目的ではない」と県の担当者は話す。県民の間では話題にならず、県議会の論議もあまり聞こえてこない。399世帯が水没し、関連工事を含めると500世帯余りが立ち退きとなった大滝ダムは、奈良盆地からは遠い吉野川源流村の話である。地元川上村の青年団が1980年代の半ば、「のぞいてみませんか、コップ1杯の水のふるさとを」というメッセージを発信したことがあった。多くの県民がその声を受け止める状況になってきた。

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