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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

塩漬け土地の借金返済が終了 大和郡山市など土地開発公社解散した奈良県内9市町村の一部

大和郡山市が福祉施設建設事業を名目に土地開発公社に買収させた後、36年間、活用されていない山林の付近=2023年5月11日、同市矢田町、城町の境界から写す

大和郡山市が福祉施設建設事業を名目に土地開発公社に買収させた後、36年間、活用されていない山林の付近=2023年5月11日、同市矢田町、城町の境界から写す

 奈良県内で、公共事業用地の塩漬け土地問題で借金が膨らんだ土地開発公社を解散するため2010年代前半に「第三セクター等改革推進債」を発行した9市町村の一部が、同債の返済を終えつつある。一方で、未利用の公共事業用地は残ったままで今後の課題だ。

 同問題では、自治体が設置する土地開発公社(特別法人)に公共事業用地を買収させたものの事業が実施に至らず、土地代の借入金利子などが累増し自治体の隠れた借金となっていた。国の改善措置で特別な起債「第三セクター等改革推進債」が認められた。10年返済を計画した3市のうち大和郡山市と天理市は2022年度に返済を終え、桜井市も今年10月に完済する。

 大和郡山市の返済額は元金と利子合わせて50億1084万3204円。昨年7月29日、金融機関への支払いを終えた。県内では奈良市の約175億円(20年返済)に次いで大きな金額だった。

 大和郡山市財政課は「利率の見直し交渉を金融機関と行い、また、繰り上げ償還によって1年3カ月早い完済となり、当初に想定した費用より1634万円の節約ができた」とする。

 市土地開発公社が買収し、現在まで36年間、未利用の山林が同市矢田町の市街化調整区域の丘陵の一角にある。1987年12月、吉田泰一郎市長の時代に心身障害者(児)の福祉施設建設事業を名目に、奈良市内の法人が所有していた6957平方メートルを2億5000万円で取得した。

 山林は道路が接続しておらず、利用の見通しのないまま市の買い戻しに至らず、金融機関から借りた取得資金の利子が累増。公社解散が決まった2012年の時点で、返済しなければならない土地代の借金は4億4800万円に膨らんでいた。これに対し時価はわずか300万円だった。

 市障害福祉課は「現地は県立大和民俗公園の遊歩道に隣接し、同公園の用地として活用してもらえないか2014年ごろ、県に打診したが、進展しなかった」と話す。

 全国では、都道府県、市町村が設立した133の土地開発公社が三セク債の対象になり、起債の総額は6220億円に上った。異常に膨らんだ数字は、地方公共団体(自治体)の先送り体質を反映し、公社が取得後10年以上放置された土地は珍しくない。ほとんどの地方議会がチェック機能を果たさなかった。

 地方債は原則、公共工事に限り発行し、世代間で負担の公平化を図る。しかし塩漬け状態の公社保有地を放置すれば、財政被害が拡大する懸念があるため、国が特例の返済策を講じ、時限立法の法改正が行われた。事業化のめどがなくても自治体が土地を買い戻し、借金返済の費用を三セク債で賄った。

 県内で、財政規模に対して三セク債の発行額が大きいのは上牧町(42億円、25年返済)、河合町(28億円、30年返済)など。発行した9市町村が当初、土地を買収する際の名目として掲げたのは、道路建設、工業団地造成、公園、福祉事業、体育施設、旧同和対策事業など。道路建設などに伴う立ち退きの代替地を巡っては、地権者の意向によらずに先行取得し、不良資産化したケースもある。

 土地開発公社の制度は、公有地拡大推進法に基づいている。戦後の地価上昇期は、公共事業用地を早期に有利に取得するのに役立った。しかし地価下落後も漫然と土地買収を繰り返す自治体が後を絶たず、甚大な含み損が発生した。

 制度を悪用した事例もある。生駒市では2007年、公社による土地取得が贈収賄事件に発展し元市長(公判中死去)と元議長(有罪確定)が摘発された。奈良市の第三者委員会「市土地開発公経営社検討委員会」は公社解散に向けた調査で、大川靖則市長時代に公社が障害者福祉などを名目に同市二名七丁目の山林を取得したことについて「高額な取得価格をもって、特定の個人の便宜を図る趣旨で取得したのではないか」と指摘した。

 荒井正吾前知事は2020年、特に財政が悪化した県内5市町村に対し「重症警報」を発令し、支援策を講じたが、うち奈良市、平群町、河合町の3市町の悪化の主要な要因は土地開発公社を介した無軌道な用地買いだった。

 県市町村振興課は「奈良市、五條市に対し、財政健全化のために無利子で貸し付けができる予算枠27億円が3月議会で議決された。(山下真新知事の下で)2022年度決算を基にした重症警報を今後発令するかどうかは未定」と話している。

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