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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

視点)奈良県、審査会の答申受け不開示を取り消し 水道一体化シミュレーションを考える

県が不開示にした一体化の関係文書(左)と県情報公開審査会の「開示妥当」の答申を受けて開示した文書

市町村作成の単独経営想定財務シミュレーションの不開示当時の黒塗り文書(左)とあらためて開示された文書(右)

 奈良県域水道一体化を進める基礎的な資料の一つとなった財政シミュレーション(2021年12月時点)の不開示部分について、「開示すべき」とした県情報公開審査会(会長、野田崇・関西学院大学教授)の答申を受け、県はこれを取り消し10月11日、全面開示した。山下真知事は、従前の県試算に微修正を加えたとみられる新たなシミュレーション(非公開)を作成した。戦後初となる水道事業の大きな変更を巡り、県民が容易に近づくことができない料金試算の周辺を検証した。

 県が不開示を取り消したのは、25市町村(現在の参加予定は26市町村)が算出した単独経営想定のデータのうち33年間の水道管更新額や浄水場の経費、自己水の将来比率、人口の推移などの予測値。「奈良の声」記者が不開示部分の開示を求めて審査請求していた。

 県は関係市町村の要請を受けて不開示にしていた。背景には、低料金で事業開始することへの期待感を起こさせようとする意図がどこかにあり、市町村議会の了解を早めに取りつけようとする一体化推進の勢力が2022年6月3日の「不開示」という行政処分の権限を行使させたと記者は考える。

 仮に答申が出なかったとしたら、一体化政策過程の重要情報の一部詳細を巡り、県民の誰にも知られることない状態で2025年、水道企業団が事業開始(予定)する方向だった。

料金試算の背景

 第3回県域水道一体化検討会が開かれた2019年8月にさかのぼる。事業開始段階での水道料金を巡り、奈良市企業局から関係団体に対し重要な提案があった。

 「(低廉な)奈良市の水道料金と同等とし、同市より料金が安いところ(大淀町と後に協議から離脱する葛城市)は個別の料金制度を認めよう」という内容。さらに奈良市企業局担当者は「企業団を設立して速やかに水道事業認可を受け、早期に国交付金事業を開始する」と提案していた。現在、進む一体化計画と共通する骨格がある。

 県水道局は当時「奈良市からいただいた提案は、水道料金を仮に決めることで、どの程度の更新投資ができるかというシミュレーションの一つのパターンかと思う」と好意的に受け止めていた。

 この時点で奈良市は水道広域派と目されることがあった。一方、市議会では県主導による一体化の矛盾点、疑問点が次々と指摘されるようになる。現在、賛否が拮抗する大和郡山市議会の議論を深めるための参考になり得る視点だ。

 例えば公明の市議は「一体化による10年間の国および県からの交付金が担保されているとはいえ、財源の確保が途切れた以降の経営見通しが不透明ではないか」と長期的な経営の見通しに疑問を投げ掛けた。「県主導の一体化シミュレーションは、メリット感を演出しているのでは」という厳しい言葉も出た。

 共産の市議は、一体化参加予定市町村間で2倍の水道料金格差があることに着目し「いきなりの事業統合、統一料金によるスタートは、すべての市町村がメリットを平等に受けることはあり得ない」と追及。また上下水道一体のメリットが出始めた折「水道は企業団に、下水は奈良市に残ればメリットが消えてしまうので」と投げ掛けた。

 仲川げん市長は昨年10月、一体化への不参加を表明した。中核市としての自負もある。また、市議会各派の意見、第三者委員会(奈良市県域水道一体化取組事業懇談会)などの論議も市長の判断に影響したとみられる。

また非公開か、山下知事の新財政シミュレーション

 県営水道と垂直統合する県内市町村の構図は、奈良市と葛城市が協議から離脱し、代わって大和郡山市が参加を表明。料金試算は2021年の数値(初年度1立方メートル当たり178円)などを土台に修正され、今年2月1日の基本協定締結時は、183円の引き続き低廉な料金でスタートすることで合意した。

 累積赤字団体を一気に解消できる全国でも珍しい大型統合。料金面で将来にわたり非常に大きな得をする自治体は、上から順に吉野町、下市町、明日香村、宇陀市、上牧町、高取町、御所市。

 山下知事は今年7月開催の第1回法定協議会で抜本的な見直しも辞さない考えを示した。しかし、10月5日の第2回協議会で一転。荒井正吾前知事が敷いた基本路線(統一料金、事業統合、2025年の事業開始)を継承することが有利と表明した。

 山下知事は第1回協議会で財務シミュレーションの見直しに意欲を示し、標準的なもの、やや厳しいもの、厳しいものの3パターンを作成した。その結果について「やや厳しく見積もっても従前の料金水準と変わらず、標準的なものを採用した場合は1円下がり、厳しく見積もっても、やや高くなるだけ」と第2回協議会の会議終了後に報道陣の取材に応じ話した。

 これに呼応するなら、参加予定の市町村側も少なくとも3つのパターンで単独経営を続けた場合の試算に取り組まない限り、県民への誠実な答えにはならないだろう。

 第2回協議会は前回から一転して報道陣に非公開。参加市町村のある首長に随行した水道担当者によると、知事作成のシミュレーションは、スクリーンの映像に写し出されたが、紙の資料は配付されなかった。

 この担当者は話す。

 「山下知事のシミュレーションはたかが1円、2円の値上げという単純な話とは受け止めることはできない。例えば、給水人口が比較的多く、早くから浄水場を廃止した市町村は、2021年12月のシミュレーションに基づけば一体化してもそれほど大きな料金メリットはなかった。よって1円でも2円でも値上がることに対し、会議では首長の警戒感がうかがえた」

 新しいシミュレーションの「公開は未定」と知事は報道陣に語った。非公開の理由を尋ねられると「公開されると議会対応がやりにくくなると訴える市町村長がいて、その意見を無視して公開できない。全市町村の了解が要る」と答えた。

 そうすると、県情報公開審査会が県の不開示判断を覆し「開示妥当」と答申した状況と似てきた。県は2021年の財政シミュレーションの細部を不開示妥当とした根拠の一つとして「公開すると単独経営を想定した投資の見込み額が、他の市町村の額と比較されて困る」などの要望があるとし「開示すれば信頼関係が損なわる恐れがある」と主張していた。

 ならば、新しいシミュレーションについても、市町村への配慮を理由に非公開が繰り返される恐れがある。論議は振り出しに戻った感がある。 関連記事へ

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