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第4回「奈良の声」読者会の報告

浅野善一

奈良の全寮制サッカー学校、2026年度末で終了 通学先の県立高校の部活動に位置付けも 継続性、運営者の事情に左右され

廃校になった小学校を利用したサッカー学校の選手寮=2026年7月27日、奈良市藺生町、浅野善一撮影

廃校になった小学校を利用したサッカー学校の選手寮=2026年7月27日、奈良市藺生町、浅野善一撮影

 奈良市東部の山あいにあって、プロのサッカー選手を目指す高校生が学ぶ民間の全寮制サッカー学校が2026年度末、開設から10年で活動を終了する。この学校の特徴は活動形態。サッカー学校のチームは、選手が通学する近くの県立高校のサッカー部として、インターハイなどの公式試合に出場する。県教育委員会は、サッカー学校をこの高校の部活動に位置付けることを承認してきた。部活動が学校教育の一環とすれば、継続性という点で唐突さがある。

 同市針町の宿泊施設「大和高原ボスコヴィラ」を運営する天平フーズ(同市今小路町)は、宿泊施設敷地内のサッカー場を生かした事業として、2017年、「ボスコヴィラサッカーアカデミー」を開設した。指導陣には元プロの選手ら実績のある人材をそろえた。

 アカデミーは中学3年生を対象に県内外から入校生を募集、選考を通過した入校生は県立山辺高校(同市都祁友田町)の入学試験に合格した上で、選手寮で生活しながら同校に通学する。練習はアカデミー生として宿泊施設のサッカー場で行い、全国高校総体(インターハイ)や全国高校サッカー選手権に同校サッカー部として出場、全国大会制覇を目指す。

 天平フーズの祖川智子代表取締役はアカデミーを終了する理由について、「奈良の声」に次のように説明した。「大和高原ボスコヴィラ」の建物、敷地は県から借りているもので、10年の賃貸借契約期間が2028年8月に終了することが「大きな理由」とした。契約を継続できなければ、練習場所を確保できず、アカデミーは運営できなくなるとした。同賃貸借契約の事業者の選定方法はプロポーザル方式による公募だった。

 祖川代表の説明では、当初は建物と敷地の購入を目標に県に希望を伝えてきたが、かなわなかったという。(会社として)サッカー場整備に投資をしており、次期の賃貸借契約においても宿泊施設の運営を継続したいと県に伝えたが、これも確証が持てる返事を得られなかったとした。終了を決めた祖川代表は2025年2月、サッカー事業を進めてきた前代表の死去を受けて代表に就任した。

 一方、県側の県人材・雇用政策課は取材に対し、契約期間終了後の施設の活用方法については、引き続き賃貸借契約の公募を行うかどうかも含め未定で検討中と述べた。

 アカデミーはすでに新規募集を停止している。このため部員は現在、アカデミー9期生となる2年生3人と8期生の3年生15人で1年生はいない。山辺高校によると、サッカー部の活動もアカデミーが終了する2027年3月末でいったん閉じることになる。9期生が3年生になったときには公式試合への出場はできなくなる。9期生は賃貸借契約期間終了前の2028年3月に卒業することになる。

県教委の関与

 部活動としては特殊な形態となるため、運営に当たっては県教委も関与してきた。アカデミーが同校サッカー部として公式試合や練習試合に出場することを確認する「基本合意書」を、当事者のアカデミー、山辺高校に県教委を加えた3者で交わしている。合意書では、生徒の指導に関しそれぞれの役割、責任も明確にした。

 県教委による承認手続きを経る必要もある。県内スポーツ団体が県外居住の県立高校入学志願者を受け入れるときの承認基準などを定めた県教委の「県外居住者の県立高校への入学志願許可申請に係るスポーツ団体の承認に関する要綱」があり、天平フーズは毎年、承認申請を行ってきた。

 要綱が承認の要件として示しているのは、中長期ビジョンや前年度の公式戦への出場実績、翌年度の活動予定の提示、寄宿舎の確保などで、スポーツ団体の活動を県立高校の部活動に位置付けるときは、前述の「基本合意書」の締結も必要。

 県教委体育健康課によると、当初、スポーツ庁からも「部活動の地域展開の先進的な例」として問い合わせがあったという。同課は「その上で(同庁から)大丈夫というお許しをいただいて(山辺高校の部活動として)行ってきた」と「奈良の声」に語った。

 寄宿舎の確保に当たっては、高校近くにある廃校になった奈良市藺生町の市立並松小学校を改修して「並松寮」として利用。天平フーズは市と賃貸借契約を結んだ。市への借用依頼では地域も協力した。地元自治会は廃校の活用策として、市に選手寮を提案した。決定した折には、市も廃校の活用事例として記者発表を行った。

宿泊施設運営者の選定は常に公募

 ただ、同社がアカデミー終了の理由に挙げる事情は開設当初に想定できるものでもあった。県が宿泊施設(当初は「いこいの村大和高原」)を民間事業者に貸し付けて運営させるようになったのは2005年で、過去3回の事業者選定はいずれもプロポーザル方式による公募だった。契約の継続が確実なときはなかった。

 2005年の公募では4者の応募があった。同社は続く2008年の公募で応募し、運営者に選定された。応募は同社1者だけだった。契約期間は2018年までの10年間。自然に囲まれた環境を生かした事業としてサッカー場の整備に投資した。人工芝のサッカー場2面と天然芝の多目的グラウンド1面が完成した。サッカー場を生かす事業として、アカデミーの開設が計画された。

 同社は、定員割れが続く山辺高校にその解消策としてアカデミーとの提携を提案した。「雇用の創出など近隣地域の活性化」「サッカー選手の県外流出防止と県内への呼び込み」も期待できるとして、これらをアカデミー事業の目的に掲げた。アカデミー創設時の元総監督は取材に「準備に2年かかった」と語った。

 こうして2017年にアカデミーの1期生を迎えたが、そのときも施設の賃貸借契約期間の終了が翌年に迫っていた。当時、同社が宿泊施設を引き続き運営できるかどうかについて、どのような見通しを持っていたかがうかがえる資料が、奈良市資産管理課に残っていた。

 2016年11月、同社の担当者が並松小学校を選手寮として借りるため、奈良市に依頼に訪れた。このときの担当者の説明内容を市側がメモに残していた。それによると、担当者は、県との宿泊施設の賃貸借契約期間は2018年までだが「それ以降は県は売却の意向」との認識を開陳していた。

 また、アカデミーの将来についても「地域や山辺高校の活性化に寄与したいので永続的に行っていくつもり」と説明していた。

 しかし、実際には売却はなくプロポーザル方式による公募だった。元総監督は「県へのプレゼンテーションの際、借りられなければ(アカデミーの)生徒が路頭に迷うと訴えた」と「奈良の声」に語った。ただ、応募は同社1社だけだった。元総監督は、アカデミーの事業を成功させ流れができれば、次期の公募でも他の事業者は参入してこないだろうと考えた、と当時を振り返った。

実績と問題

 同社が掲げた山辺高校の定員割れの解消。アカデミーの定員は1学年で25人、3学年合わせて75人でスタートした。定員割れ自体は続いたが、一定数のアカデミー生の入学はあった。アカデミーによると、アカデミー生の人数は3学年合わせて30人から54人ぐらいで推移したという。

 アカデミー1期生が入学した2017年度の同校の1年生の定員は117人。これに対し実際の生徒数は87人(同年5月1日時点)。このうちアカデミー生は20人だった。現在の同校の定員は1学年80人、3学年合わせて240人。これに対し、実際の生徒数は3学年で107人(今年8月5日時点)。このうちアカデミー生は18人となっている。

 アカデミーの開設前、同校にサッカー部はなかった。同校サッカー部として出場したアカデミー生チームは公式試合での実績として、開設4年目の2020年度に全国高校サッカー選手権奈良大会で優勝、2021年度に全国高校総体奈良大会で優勝。昨年度は全国高校サッカー選手権奈良大会で決勝まで進んだ。

 一方で前例のない形態の部活動の運営を巡っては、問題が起こったときに後を追って制度が整備される展開となった。

 2020年と2021年に選手寮でのアカデミー生の飲酒などが発覚した。「基本合意書」が見直され、締結当事者をアカデミーと山辺高校の2者から県教委を含めた3者にしたのはこのとき。アカデミーと山辺高校で連絡協議会を設置し、定期的に開催するとともに県教委に内容を報告するよう義務付けた。

 県教委の「スポーツ団体の承認に関する要綱」が設けられたのも2021年11月で、この中で県内スポーツ団体が県外居住の県立高校入学志願者を受け入れるときの承認基準が明確にされ、スポーツ団体の活動を県立高校の部活動に位置付けるときは県教委、県立高校、スポーツ団体の3者による基本合意書の締結が要件とされた。

 ただ、要綱の承認基準に練習施設の確保についての言及はない。寄宿舎については賃借であれば賃貸借契約書の提出を求めている。

 アカデミーの監督の指導時の言動を巡って、アカデミー生がパワーハラスメントを受けたとして損害賠償を求めて提訴する問題も起こった。2020年にあった提訴では、パワハラそのものは認められなかったものの、訴えの一部を認める判決が確定した。2023年にあった提訴では、言動の一部についてパワハラに当たるとする判決が確定した。

 高校の部活動であれば、アカデミー生以外の生徒が参加できるかどうかが問題となるが、この点も明確になっていない。アカデミーや高校によると、これまで参加の申し込みはなかったとみられるが、アカデミー、高校、県教委の3者による「基本合意書」の合意内容にも県教委の「スポーツ団体の承認に関する要綱」の承認基準にも、この点への言及はない。

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 天平フーズから山辺高校にアカデミー終了の予定が伝えられたのは、開設から9年目となる昨年の9月。同年6月の段階では、同社は2026年度入校生の新規募集に向けて、例年通り県教委に対し「県立高校入学志願許可申請に係るスポーツ団体承認申請書」を提出、翌7月、承認通知書の交付を受けていた。

 アカデミー生や保護者に対しては昨年夏以降に説明してきた。アカデミーの監督は「(最後の卒業生となる)現2年生からも了承を得た。なぜなくすのか、といった質問はなかった」と「奈良の声」に語った。

 同社は奈良市に対しても、選手寮に利用している並松小学校の賃貸借契約を、アカデミーの終了と同じ2026年度末で終了したいと伝えている。来年度、現2年生が3年生に進級したときの寄宿先については、同社の祖川代表は「会社として面倒を見る」とし、近辺で寮費と同等の負担で住む所と食事を保証したいとした。

 髙木一矢校長は学校としての対応について「アカデミーに対し、すでに入学している生徒(アカデミー生)には責任を持って指導してほしいと要請している。アカデミーも対応してくれている。われわれも全力でサポートする。生徒には学校の思い出を持って卒業させてあげたい」と述べた。髙木校長は今年4月に同校に赴任した。

 一つの企業に依存した部活動運営に難しさはなかったか。「(終了には)企業の方針がある。残念だが仕方がない。それぞれの評価はあるが、サッカー部は(実績として)全国大会にも出場している」と述べた。

 アカデミーによると、本年度のサッカー部の活動はこれまで通りで、10、11月には全国高校サッカー選手権奈良大会に出場する。

筆者情報

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