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農業が衰退し廃田や休耕田が目立つ昨今、不要になったかんがい用のため池が、道路開発や宅地開発などによって次々と埋め立てられ姿を消しつつある。そのような状況の中、一年中ため池の周辺をすみかとして暮らす野鳥たちや、餌の少ない冬の間、同じため池で過ごす水鳥たちの存在をご存じだろうか。 ため池には小魚や水生昆虫など多くの生き物が生息しているほか、たくさんの水草などもあり、カイツブリやカルガモ、カワセミなどの野鳥が一年中暮らしている。また、冬になると水面に浮遊するコナラやミズナラなどのドングリを目当てにオシドリが、イネ科やタデ科の種子やマコモを餌とするヨシガモやヒドリガモなどがやって来る。 オシドリは日本全国に留鳥として生息し、体長約48センチ。雄のくちばしは紅色。全身が赤やオレンジのカラフルな色彩で、翼の先端にある三角帆状のイチョウ羽が特徴だ。仲の良い夫婦の代名詞として、おしどり夫婦という言葉がよく使われるが、実際のオシドリは抱卵、育雛(いくすう)は雌だけが行い、子育てに雄が関わることはない。 一方、ヨシガモは冬鳥として本州、四国、九州の河川や湖沼、ため池などに飛来するが、飛来地は局地的で北海道では少数が繁殖する。体長約48センチ。くちばしは黒く、顔面から頭部にかけ光沢のある紅紫色と緑色が混じった鮮やかな色をしている。頭部の形状が、まるでナポレオン帽を目深にかぶったようで、とてもユニークだ。背面は白く、腹部には細かいうろこ状の斑点がある。また、翼の先端が鎌のように垂れ下がっているのも大きな特徴だ。 ため池にはオシドリ以外にもマガモやオナガガモ、キンクロハジロなどのカモ類もやって来るが、オシドリとヨシガモは色彩が鮮やかでひときわ美しく、多くの人々から注目を浴びている。 「生き物の宝庫」ともいわれる日本のため池。田んぼが減少し、ため池や農業用の用水路が次々と埋め立てられている状況は決して良いものではない。ため池の消失によってどれだけ多くの生き物たちがすみかを追われいるのか実態を調査し、状況を把握した上で何らかの手立てを早急に講じなければ、里山の生態系に異変が生じるかもしれない。さらに、そのことが、私たち人間の生活環境に大きな影響が及ぼす事態に発展しないか、私は危惧するものである。 (よな・しょうぞう=野鳥写真家、生駒市在住)=毎月第2、4月曜に更新 ◇連載前へ >>第22回「冬鳥、寒さ避け集まる―環境多様な馬見丘陵公園」
◇連載次へ >>第24回「住居様式変わり巣作れず―減少するスズメ」
◇これまでの「やまと鳥事情」
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当局からの発表に依存しなくても伝えられるニュースがあります。そうした考えのもと当サイトを開設しました。(2010年5月12日)
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