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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
浅野善一

奈良県)旅館・飲食店で働く人の受動喫煙防止、国助成金の利用事業者、県内はゼロ

厚労省の受動喫煙防止対策助成金、都道府県別利用状況(2011、12年度)
都道府県 旅館 飲食店 支給額(円)
北海道 2 0 220万7000
青森県 0 0 0
岩手県 0 0 0
宮城県 4 0 356万9000
秋田県 0 0 0
山形県 6 0 275万
福島県 2 0 50万7000
茨城県 5 0 792万3000
栃木県 2 0 170万3000
群馬県 1 0 26万8000
埼玉県 0 1 39万3000
千葉県 1 2 355万
東京都 3 7 739万8000
神奈川県 1 1 65万1000
新潟県 2 0 131万1000
富山県 0 0 0
石川県 0 1 17万3000
福井県 1 0 52万3000
山梨県 1 1 240万
長野県 5 0 298万1000
岐阜県 0 1 66万2000
静岡県 0 0 0
愛知県 0 1 22万8000
三重県 1 1 53万7000
滋賀県 1 0 57万
京都府 1 0 74万7000
大阪府 1 2 313万7000
兵庫県 11 21 2376万
奈良県 0 0 0
和歌山県 0 0 0
鳥取県 0 0 0
島根県 2 0 250万
岡山県 0 0 0
広島県 0 1 58万3000
山口県 0 0 0
徳島県 0 0 0
香川県 0 0 0
愛媛県 1 0 91万8000
高知県 0 0 0
福岡県 0 3 168万7000
佐賀県 0 0 0
長崎県 0 0 0
熊本県 1 2 112万2000
大分県 0 0 0
宮崎県 0 0 0
鹿児島県 0 0 0
沖縄県 0 0 0
合計 55 45 7475万8000

 旅館、飲食店で接客に当たる従業員の受動喫煙防止を目的に、厚生労働省が2011、12年度、中小の事業者を対象に実施した、喫煙室の設置費用などを助成する制度の都道府県別利用状況が、同省への取材で分かった。助成金の利用は兵庫など26都道府県であったが、奈良など19県ではゼロだった。

喫煙室設置など対象

 同省労働衛生課によると、旅館、飲食店では従業員の受動喫煙防止対策が遅れているという。同省諮問機関の労働政策審議会は2010年12月、「今後の職場における安全衛生対策について」とする建議の中で、客が喫煙できることをサービスに含めて提供しているこうした業種についても、喫煙室設置などに取り組む事業者に財政的支援を行い、対策を促進するよう求めた。

 制度は11年10月に創設された。11、12年度、労働者災害補償保険に加入する旅館、飲食店の中小企業事業主を対象に、たばこの煙が外に漏れないようにした喫煙専用の部屋の設置、または喫煙席の粉じん濃度を一定の基準以下に抑える換気設備の設置に対し、200万円を上限に費用の4分の1を助成した。各都道府県労働局が申請の窓口となった。

 全都道府県を合わせた利用件数は旅館が55件、飲食店が45件。支給総額は7475万8000円だった。設備別では喫煙室の設置が約60件、換気設備の設置が約40件だった。

最多の兵庫、受動喫煙防止条例を施行

 都道府県別で最も多かったのは兵庫。旅館が11件、飲食店が21件で、支給総額は2376万円だった。一方、このほかの利用があった都道府県では旅館、飲食店いずれも一桁台だった。東日本の利用が多く、利用ゼロは西日本で目立った。東高西低の傾向が見られた。近畿6府県では奈良のほか、和歌山でも利用がなかった。

 同省の担当者は、利用がなかったり少なかったりした地域について、「すでに取り組みが進んでいることが理由として考えられる場合と、意識が低いことが理由として考えられる場合の二通りがあるのではないか」と推測、また地域差があったことについては、「制度の周知、啓発が各労働局単位だったため、取り組み方の違いが差につながったのではないか」と推測した。

 兵庫はことし4月、不特定多数の人が利用する施設での喫煙を原則禁止する県受動喫煙防止条例を施行した。12年3月の条例策定に伴い、中小企業の飲食店、宿泊施設を対象に喫煙室設置費用の半分を助成する制度を設けた。厚労省の助成金と併せて利用することも可能だった。同省や同県受動喫煙対策室は、県のこうした動きと重なったことが、利用件数を伸ばすことにつながったのではないかとした。

 全国で同様の条例はこのほか神奈川にある。兵庫より早い10年4月の施行で、商業、サービス業、医業の小規模事業者を対象に分煙設備などの整備に対し、融資、利子補給制度を実施しているが、厚労省の助成金の利用は旅館、飲食店各1件にとどまった。

 これに対し、奈良は「公的機関の受動喫煙防止が目標の段階で、民間施設は今後の検討課題」(県健康づくり推進課)という状況。識者らで構成される県たばこ対策推進委員会は同課に対し、兵庫や神奈川の条例の研究や、宿泊施設や娯楽施設での受動喫煙の実態の把握を求めている。「健康なら協力店」を募集して、禁煙を実施している店舗を県のホームページなどで紹介する取り組みは行われている。

 飲食店業界で分煙対策を取らない理由として挙げられるのは、「店の構造やスペースの都合」「客を失う懸念」など。全国飲食業生活衛生同業組合連合会は、05年3月に発行した「飲食店の分煙対策ポケットブック」で、「お客様ばかりでなくお店で働く人の受動喫煙を防止も大事。空間分煙対策をしても、喫煙室や喫煙フロアで働くお店の従業員の受動喫煙を防ぐことはできない」と指摘している。

 受動喫煙の防止については、健康増進法25条が「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」と定めているが、施設管理者の努力義務にとどまっている。

 厚労省は今年度、受動喫煙防止対策助成金制度の対象を全業種に拡大した。助成額も費用の2分の1に引き上げた。助成の対象は喫煙室の設置に限定した。

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