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発行者/奈良市・浅野善一
浅野善一

天皇皇后来県で発表の知事談話に「神武東遷の地、奈良」 史実として述べたのか、県に聞く

 【視点】神武天皇没後2600年の式年祭に合わせた天皇皇后のこの4月初めの奈良県訪問で、県が発表した荒井正吾知事の歓迎の談話(記事の最後に全文)の中に、「神武東遷の地ここ奈良に両陛下のご来県を仰ぎ」とのくだりがあった。「神武東遷(神武天皇による大和平定)の地、奈良」との部分は、史実として述べたのか、史実としてならその根拠は何か、県に尋ねた。県は「日本書紀、古事記に基づいている」と答えたが、史実かどうかは明言しなかった。

 「神武東遷」は、学校で学ぶ日本史にはない出来事だ。戦前への反省から、戦後、憲法は天皇の系譜について物語と史実を区別した。大日本国帝国憲法は、万世一系の天皇が国を統治するとし、天皇は神聖にして侵すべからずとしたが、日本国憲法は、天皇の地位は主権者である国民の総意に基づくとした。しかし、談話は注釈なしに県民に向け発せられた。

 談話は先月9日、宮内庁が来県の日程を発表したのに合わせて発表され、県のホームページにも掲載された。県の発表によると、天皇皇后は橿原市の神武天皇陵で営まれる神武天皇2600年式年祭の儀山稜の儀に臨むため、また、併せて地方事情視察のため、4月2日から2泊3日の日程で来県した。記紀(古事記と日本書紀)では、神武は初代天皇で、ことしはその没年から2600年に当たる。

 記者は今月11日、県秘書課に質問、15日に回答があった。質問したのは、談話の「神武東遷の地ここ奈良に両陛下のご来県を仰ぎ、100年に一度の大祭が行われますことを、意義深く存じております」との部分で、「神武東遷」のほか、式年祭についても今回が何度目であるか尋ねた。

 同課は史実かどうかについて、「確たることは申し上げられない。そのように考えられている。日本書紀は日本の歴史上、重要な文書である」と述べた。式年祭については「100年前の大正5(1916)年に2500年祭が行われたことは確認できている。それ以前については県では確認できない」と述べた。「100年に一度の大祭」は、近代以降しか確認されていなかった。

 県だけではない。新聞の伝え方もあいまいだった。宮内庁発表の翌10日、新聞各紙は天皇皇后の奈良県訪問を報じた。神武天皇に関する部分では、「今年は初代・神武天皇の没2600年に当たるとされ」(奈良新聞)、「今年は初代天皇である神武天皇の没後2600年とされており」(産経新聞)、「初代天皇とされる神武天皇の没後2600年にあたり」(朝日新聞)、「同庁によると、今年は神武天皇が亡くなってから2600年に当たるとされ」(毎日新聞)などと記述した。いずれも、断定を避ける言い回しにとどまっていた。

 記者は2014年4月から1年間、社会人を対象にした県実施の県立大学シニアカレッジの日本史を受講した。講師は現役の県立郡山高校の日本史の教師で、講師によると、使った教科書、副教材は郡山高校の日本史の授業で使っているものと同じとのことだった。受けた授業では、2600年前の日本は縄文時代だった。教科書は、神武東遷について、記紀の中の神話の一つとして触れ、「そのまま史実とはいえない」としていた。副教材は、歴代天皇について、第9代とされる開化以前は「実在の可能性がうすい」と記述していた。

 県内では、談話を載せた新聞は、奈良新聞以外に見受けられなかった。奈良新聞にも「神武東遷」の部分はなかった。県は、歓迎の意を表すための装飾的な表現を意図していたのかもしれない。しかし、戦前、国家主義と結び付いて国民を抑圧する道具となった、天皇の万世一系につながる物語と、史実を区別して述べる責任はある。

県が発表した知事謹話

 天皇皇后両陛下におかれましては、来る4月2日(土)から4日(月)までの3日間、奈良県に行幸啓になります。本日、宮内庁からそのご日程の発表がありました。

 このたびの行幸啓は、神武天皇二千六百年式年祭の儀山陵の儀につき、併せて本県の事情をご視察いただくものであります。

 本県へのお出ましは、平成26年11月の第34回全国豊かな海づくり大会にご臨席いただいて以来1年5ヶ月ぶりとなり、大変光栄なことと深く感謝いたしますとともに、神武東遷の地ここ奈良に両陛下のご来県を仰ぎ、100年に一度の大祭が行われますことを、意義深く存じております。

 我が国の国家の黎明とともに古事記・日本書紀が成立し、多くの万葉歌が詠われた奈良県では、いにしえより、盛んな国際交流のもと外国文明を受け入れることによって、多彩な文化が育まれてきました。

 3日間のご滞在中、両陛下は、県立橿原考古学研究所や高松塚古墳、高松塚壁画館、なら食と農の魅力創造国際大学校などをご訪問くださいます。

 このことは、豊かな歴史的文化資源の保存・継承に努めるとともに、その資源を効果的に活用した奈良の魅力の発信に取り組む本県にとりまして、この上ない励みになるものでございます。

 天皇皇后両陛下におかれましては、このたびの行幸啓が思い出深いものとなりますよう祈念し、県民こぞってご来県の日をお待ち申し上げ、心をこめてお迎えいたします。

平成28年3月9日

奈良県知事荒井正吾

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