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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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コラム)情報公開のルールを変える/政治と憲法の風景・川上文雄…20

筆者のアートコレクションから山野将志(やまの・まさし、1977年生まれ)「ホッキョクグマ」。作者は奈良県在住、たんぽぽの家アートセンターHANA所属。表情に動物埴輪(はにわ)をおもわせる作品

筆者のアートコレクションから山野将志(やまの・まさし、1977年生まれ)「ホッキョクグマ」。作者は奈良県在住、たんぽぽの家アートセンターHANA所属。表情に動物埴輪(はにわ)をおもわせる作品

 ルールの基本は公平であることです。たとえばスポーツの分野で順位を勝率によって決める場合。10試合やって、チームAは1勝0敗9引き分け、チームBは9勝1敗0引き分け、とします。1勝だけのAと9勝したBの優劣は明らかです。ところが、引き分けを除外して計算するとAは1勝0敗で10割、Bは9割。Aが上位になってしまいます。引き分けを計算に含める(引き分け1つ0.5勝0.5敗に換算する)のが公平なルールでしょう。ちなみに、日本のプロ野球は引き分けを計算に入れていません。

 卓球のように、ルールを変えておもしろくなったスポーツもあります(「追記」参照)。

 公平さとおもしろさ。2つを可能にするルールに変わればいいと思うことが、政治の分野にあります。情報公開の制度と法律です。

対等・公平なものに

 「知る権利ネットワーク関西」の会報に「情報公開法改正を求める市民立法運動を!」という見出しで、つぎのことが書かれていました。「情報公開法施行20周年、公文書管理法10年という節目にある今、制度を利用するだけでは、政治家や行政の不正の隠蔽(ぺい)に十分対抗できないのが現実である」(2021年7月号)。

 情報を開示しない。文書があるのに「存在しない」と言う。あるいは真剣に捜さない。開示しても「黒塗り」で、ほとんど情報としての価値がない。黒塗りの必要があるか、きわめて疑わしくても、それ以上追及できない。文書を破棄する、改ざんする。「政治家や行政の不正の隠ぺいに十分対抗できない」のですから、これでは「試合」にならない。

 「国民の知る権利」が有名無実になってはいけません。私たち主権者と政府(国、地方)のあいだの関係を律するルールを対等・公平なものに変えて、不正に対抗できるようにする。「知る権利」の実効性を高める必要があります。

ルールを変えれば市民団体の活動が活性化する。一般市民も「十分に対抗できている」活動を知って、今以上に活動に関心をもち、政策論争についても関心を向けるようになる。「試合」がおもしろくなるでしょう。

 どのような法改正が必要か。これまで法律制定と改正の議論に主導的役割を果たしてきた弁護士の三宅弘さんが具体的項目を書いています。たとえば、改ざん防止のために「電子決済のシステムを導入すべきである」という提言(「『情報公開法改正』『公文書管理』の論点整理ハンドブック」、2020年、シングルカット社、86ページ)。具体的な議論は適任者にお任せして、以下に具体的な内容を考えるときの導き・基礎について書きます。

情報は国民資産

 情報公開制度の基本の1つを定めたのが公文書管理法第1条。「国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等」は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものである」とあります。

 この条文について、筆者独自の解釈を含めながら補足します。情報は決して政府の所有物ではない。利用するとしても「政府の所有物」を利用させてもらうのではない。情報は、国民が政府に「預けたもの」で、「資源」というよりも「資産」と名づけたほうが適当である。いつでも手元にもどすことができる。

 当然、政府はこの資産について勝手なことをしてはいけません。政府による改ざん・不正な廃棄は、国民の資産に損害を与えるのですから、「背任」のようなものです。いや、政治(憲法)の根幹を破壊する行為と言うべきでしょう。

「憲法前文」に根拠

 以上の考えは「日本国憲法・前文」とつなげることによって補強できます。

 情報公開制度とは何か。そもそも情報公開請求が必要である根拠、すなわち国民の「知る権利」の根拠として、筆者は「憲法前文」に注目します。「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって…その権力は国民の代表者がこれを行使し」とあります。

 「国民の代表者」とは、まず国民の投票によって選ばれた議員のことです。この議員たちによって構成される国会が国民に代わって権力を行使します。その1つは、国会による内閣総理大臣の指名。この国会とのつながりで、内閣総理大臣も「国民の代表者」と言えるでしょう。その内閣総理大臣が行政府(各省庁の大臣と官僚)を統括する。

 ここで再び国民の出番。政府を変えたほうがいいかどうか(政権交代の可否について)国政選挙でその意思を表明する。そのためには、政府の活動について十分な情報を手に入れること、利用できること、つまり情報公開のための制度・法律が必要不可欠となります。

 「前文」を生かすも殺すも情報公開制度しだい。「前文」に「国政…の福利は国民が享受する」とあるのですから、私たちの生活も情報公開制度の質にかかっています。「前文」の趣旨にそった情報公開制度こそが、主権者と政府の関係についての公平で正しい制度です。それを実現するための法律改正の基本要件は何か。

 それは、三宅弘「前掲書」にあるように「情報公開法は、基本的に役所が説明責任を果たす法律」「情報公開の請求があったら、ちゃんと出さなければいけない」ということです(58ページ)。「情報は国民の資産」だから当然の義務です。義務をはたさなければ、組織ぐるみの隠れた不正、あるいは権力の私物化があると疑われます。

 情報公開法の改正は最重要の政治課題です。

【追記】

 2000年に採用された国際ルール「球の直径を2ミリ大きくする(その分だけ重くする)」により打球のスピードが1000分の数秒遅くなり、卓球の試合に変化が生じます。スピード感は保たれたまま、ラリー(サーブから得点まで球のやりとり)の回数が平均4回から7回に増加、会場が沸くようになったのです。ルール改正に尽力したのは国際卓球連盟の会長(当時)の荻村伊智朗さんと流体力学の専門家の辻裕さん。2012年7月5日放送のNHK「クローズアップ現代」(番組ホームページの文字情報)から詳細を知ることができます。

(おおむね月1回更新予定)

川上文雄

かわかみ・ふみお=客員コラムニスト、元奈良教育大学教員

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