奈良県)県立奈良公園2カ所に高級宿泊施設 公共空間の利用、経済力の有無が左右 県が富裕層狙い誘致
▽高畑町裁判所跡地の宿泊施設計画
【優先交渉権者】ヒューリック
【客室形態】全室スイート仕様温泉露天風呂付き
【客室面積】71~122平方メートル
【客室料金】系列の類似旅館は4万500円以上
高畑町裁判所跡地の宿泊施設建設予定地(塀の左側)。現在は樹木が生い茂っている=2017年11月8日、奈良市高畑町
▽吉城園周辺地区の宿泊施設計画
【優先交渉権者】森トラスト
【整備の考え方】最高級インターナショナルブランドのホテル
【客室面積】50~70平方メートルが中心
知事公舎などがある吉城園周辺地区。左奥に奈良県庁の塔屋が見える=2017年11月8日、奈良市登大路町
図はいずれも県の公表資料を基に「奈良の声」が作成
都市公園法【目的】 | 公共の福祉の増進に資する |
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都市公園法運用指針【公園管理者以外の者の公園施設設置の在り方】 | 公園施設が都市公園の自由な利用に影響を及ぼすことのないよう、入場料その他の料金や販売する物品の種類・価格が社会通念上適正なものかどうか、公園管理者は確認するとともに、必要に応じ指導を行うことが望ましい |
都市公園法施行令【宿泊施設の制限】 | 宿泊施設は、都市公園の効用を全うするため特に必要があると認められる場合のほかは設けてはならない |
都市公園法解説【宿泊施設が特に必要があると認められる場合の例】 | 市街地から相当の距離のある大面積の都市公園で、観光地としての価値が高いものの、周辺に宿泊施設がなく公園を利用しにくい場合に設ける旅館やホテル |
【視点】奈良県が奈良市の県立都市公園「奈良公園」内2カ所に、その立地を利用して、富裕層を狙った高級宿泊施設を誘致する。公園施設という位置付けだが、客室料金は高額になるとみられ、利用できるかどうかは経済力があるかどうかに左右されることになる。都市公園の設置・管理基準を定めた都市公園法の目的「公共の福祉の増進」に反する。誰もが自由に利用できる開放空間として設置される都市公園の公共性が、観光振興の名の下に失われようとしている。
荒井正吾知事は誘致の狙いについて「奈良にはこれまで上質な宿泊施設がなかった。上質な宿泊施設が来れば観光地奈良のブランド力が向上する」と、定例記者会見などで語っている。県の計画では開業は2020年春。
都市公園と名勝、二つの性格
奈良公園には、都市公園と名勝の二つの性格がある。県立都市公園「奈良公園」(約5平方キロ)は、都市計画法に基づいて県が設置する都市計画施設。その設置・管理基準を定めたものとして都市公園法がある。これに対し、名勝奈良公園は文化財保護法に基づく国指定の文化財を指す。
県の奈良公園地区整備検討委員会(増井正哉・京都大学大学院人間・環境学研究科教授)で、県がこれまでに配布した資料などによると、奈良公園は1880(明治13)年、明治初めの廃仏毀釈(きしゃく)で官有地となっていた興福寺境内を園地として開設された。周辺山野や官が没収していた東大寺境内に範囲を広げ(興福寺・東大寺境内は昭和に指定範囲から外れた)、1922(大正11)年、名勝に指定された。名勝奈良公園には、県立都市公園「奈良公園」区域(山林部の一部は除く)のほか、東大寺境内や興福寺境内などが含まれる。
訪れる観光客は年間約1300万人に上る。
全室スイート・露天風呂付き、最高級インターナショナルブランドホテル
宿泊施設が誘致されるのは、1カ所が浮見堂がある鷺池の南側に隣接する同市高畑町の県有地1万3000平方メートル、もう1カ所が日本庭園の吉城園や知事公舎などがある同市登大路町の県有地3万平方メートル。
都市公園法によると、地方公共団体などの公園管理者ではなく、それ以外の者が公園施設を設けることが認められるのは、①公園管理者が自ら設け、または管理することが不適当または困難な場合②公園管理者以外の者が設け、または管理することが都市公園の機能の増進に資する場合。許可は公園管理者がする。
県は2カ所についてそれぞれ、「高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業」「吉城園周辺地区保存管理・活用事業」として、宿泊事業を行う民間業者を公募型プロポーザル方式で募った。目標とする「上質な宿泊施設」の条件として、客室1室当たりの平均面積が50平方メートル以上▽県が求めるサービス水準を満足していること―などを提示した。
結果はことし3月に発表された。高畑町裁判所跡地では不動産会社のヒューリック(東京都中央区)、吉城園周辺地区では不動産開発などの森トラスト(東京都港区)が優先交渉権者に選ばれた。高畑町裁判所跡地のヒューリックは、全室がスイート仕様で露天風呂付きという宿泊施設を提案、吉城園周辺地区の森トラストは、最高級インターナショナルブランドのホテル誘致を提案した。
系列の類似旅館は4万円以上
高畑町裁判所跡地の計画では、明治から大正にかけて同所に別邸を構えていた大阪の財閥、山口家の日本庭園の遺構があることから、県がこれを復元、一般公開するとともに、庭園と一体の施設として、宿泊施設と飲食施設をヒューリックが整備する。
宿泊施設は、鉄骨鉄筋コンクリート造り2階建て、建築面積2087平方メートルで、外観は和風。客室数は30室で、1室当たりの面積は71~122平方メートルと広い。一般にスイートは、応接間などが付いている上級の客室で料金も高い。
吉城園周辺地区の計画では、知事公舎や塔頭寺院の旧世尊院、吉城園主棟など既存の歴史的建築物を保存し、レストランやアーカイブ施設、展示会などが開催できる多目的空間、パーティー・会食会場に利用しながら、新しく宿泊施設などを建設する。客室などになる新築建物は2階建てで、建築面積3900平方メートル。
客室数は明らかにされていないが、1室当たりの面積は50~70平方メートルが中心。最高級インターナショナルブランドのホテル誘致をうたっていることから、客室料金は高額になるとみられる。
いずれの宿泊施設も客室料金は明らかになっていないが、ヒューリックは、高畑町の宿泊施設について独自に公表した広報資料で、同施設を「奈良ふふ」として運営することを明らかにしている。同じ系列の高級旅館に「熱海ふふ」(静岡県熱海市)があり、同旅館のホームページによると、客室は「奈良ふふ」と同様にすべてスイート仕様、露天風呂付きで、客室料金は「奈良ふふ」より狭い60平方メートルの部屋で4万500円(1人当たり)以上となっている。
法の運用指針、公園の自由な利用に影響しない料金求める
都市公園法の第1条は同法の目的について「都市公園の設置および管理に関する基準を定めて、都市公園の健全な発達を図り、もって公共の福祉の増進に資する」と規程している。「公共の福祉」とは、社会的、経済的弱者にも公平に自由と権利を保障することと考えられている。この目的を踏まえた、国土交通省都市局作成の都市公園法運用指針は、公園管理者以外の者の公園施設の設置の在り方について考え方を示している。
指針は「一般公衆の自由な利用に供されるべき公共施設たる都市公園の本来の使命に影響を及ぼすことのないよう、入場料その他の料金の価格や販売する物品の種類及び価格等が社会通念上適正なものかどうか確認するとともに、必要に応じ指導等を行うことが望ましい」と、公園を設置・管理する地方公共団体などに求めている。
指針に沿って見ると、高級宿泊施設やその高額な客室料金は、公園施設として「社会通念上適正なものかどうか」という点で疑問が浮上する。
日本政策金融公庫の「国内宿泊施設の利用に関する消費者意識と旅館業の経営実態調査」(2013年2月12日)によると、5000人を対象にしたインターネットによるアンケート調査では、国内旅行の1泊当たりの平均宿泊料金(食事代を含む)は、1万円~1万2000円未満が19.7%で最も多く、これに続いたのは、さらに低額の8000円~1万円未満の18.1%、6000円~8000円未満の15.5%だった。宿泊料金が6000円以上~1万2000円未満という人が53.3%を占める。
県が誘致しようとしている宿泊施設の客室料金は、この調査結果から推察される「一般公衆」の平均的な宿泊料金を相当上回るものとみることができる。
都市公園の宿泊施設設置は制限あり
客室料金以前に、奈良公園への高級宿泊施設設置が都市公園法上、認められるかどうかという基本的な問題もある。
都市公園法で、公園施設とは都市公園の効用を全うするために設けられる施設のことであり、園路や植栽、休憩所、便益施設などを指す。宿泊施設については、同法の細部について規定した同法施行令の中で、売店、飲食店などと共に便益施設の一つとして認めているものの、設置に当たっては「都市公園の効用を全うするため特に必要があると認められる場合のほかこれを設けてはならない」との制限がある。
制限の理由について、都市公園行政関係者らを対象にした国交省公園緑地・景観課監修の解説書「都市公園法解説」は、宿泊施設のような施設は「公園施設としての目的を逸脱して、公園地内という地の利を利用し、一般の宿泊者を対象として、もっぱら営利本位に運営されるおそれがある」と説明。
「特に必要があると認められる場合」の例として、海岸、林間などの都市公園に、小、中学生を研修のため宿泊させるための施設▽市街地から相当へだたった大面積の都市公園に設けるヒュッテ、バンガロー、青少年用の林間宿舎など▽市街地から相当の距離のある大面積の都市公園で、観光地としての価値が高いものの、周辺に宿泊施設がなく公園を利用しにくい場合に設ける旅館やホテル―を挙げている。
制限に対し、例外が認められるのは、公園を利用するのに物理的障害がある場合といえる。奈良公園に高級宿泊施設が「特に必要と認められる」理由は何か、が問われる。奈良公園は、すでに公園内や周辺に宿泊施設があって、利用しにくいという状況はない。
荒井知事「上質な客、口コミ発信力ある」「富裕層にお金使ってもらう」
荒井知事は、誘致の狙いが富裕層の呼び込みと観光地奈良のブランド力向上にあることを表明している。県がホームページで公開している知事の定例記者会見記録によると、ことし4月12日の会見で、「上質のホテルというのは本当に奈良でなかったわけでありますので、そういうホテルがあるということは、(観光地奈良の)ブランド化のプロセスですけれども、上質な客が来られますと、その人の発信力、口コミ発信力というのはすごいんです」と述べている。
また、昨年6月の県議会定例会一般質問で、県が奈良市の県営プール跡地に国際ブランドホテルを誘致することに対し、「税金を投入して富裕層を呼び込もうという手法に県民合意はない」との批判があった際、荒井知事は次のように答えている。「ホテル自身は民間の投資家がされるわけでございますけれども、(中略)富裕層のためというよりも、富裕層を呼び込み地域でお金を使ってもらい、県内の消費を拡大し、新たな観光産業や雇用の創出につなげるという目的がございまして(後略)」(県がホームページで公開している県議会会議録から)。
形の上では民間業者が公園管理者の県に対し、宿泊施設建設の許可申請をするが、県は「上質な宿泊施設」を計画した当事者。都市公園法解説は「結局は公園管理者の良識ある判断を待つことになろう。公園管理者は、この(特に必要と認められる場合の)判断に当たっては、公園審議会の意見を聞くなど、慎重な手続きによって決することが必要である」と注意を喚起している。
外部委員で構成される県の奈良公園地区整備検討委員会のことし4月12日の会議では、「高級宿泊施設の建設で県有地の公共性が失われることに懸念が示され、県民も気軽に立ち入れる施設の運営を求める意見も多く上がった」(翌13日付奈良新聞記事)とされる。
ただ、検討委員会は、裁判のように対立する両者の主張を聞いて可否を決する機関ではない。計画を進めたい県から提供される情報に基づいて意見を述べる。
宿泊者以外もロビーや庭に入れる、と排他性否定
県奈良公園室に対し、宿泊施設誘致について考えを聞いた。質問は、①経済力の有無で利用できるかどうかが決まってしまう排他性のある施設は、都市公園法の目的「公共の福祉の増進」と相いれないのではないか②公共施設である公園は誰もが利用できる開放空間でなければならないにもかかわらず、利用者が高額の宿泊料を負担できる人に制限されることをどう考えているか③県が誘致しようとしている宿泊施設の宿泊料は、都市公園法運用指針が求める「社会通念上適正なもの」とはいえないのではないか―の3点。
8月28日、県奈良公園室の竹田博康主幹が取材に対応した(竹田主幹はこの日、改めて文書でも回答すると述べ、10月20日付で回答があった【記事の末尾に回答】)。
1点目に対しては、高畑町裁判所跡地に関し「現状では使い切れていない空間を改善して使っていただけるようにすることは、公共の福祉の増進に資することにほかならない。ここでやりたいのは、名勝奈良公園の価値を高め、それを利用者に享受していただくこと。一番の主人公である庭園を再生して、皆さんに入っていただき活用していただくことになる。主役は庭でそこに入ることを妨げるものは何もない。その中に休憩したり、宿泊したりする施設もある」とした。
県の公表資料などによると、高畑町裁判所跡地の歴史は、江戸期まで興福寺子院の松林院が立地▽明治期から大正期にかけては大阪の財閥、山口家が所有、別邸を構える▽1927(昭和2)年、名勝奈良公園に追加▽1951(昭和26)年に最高裁判所が所有▽1995年まで奈良家庭裁判所分室と官舎として利用▽2005年、県が財務省から購入▽2016年12月、県立都市公園「奈良公園」に編入―というもの。
県が購入後は未利用の状態が続いた。塀で囲まれ、出入り口が閉じられているため立ち入ることはできなかった。塀越しに見えるのは、うっそうと生い茂る樹木や竹だった。
2014年の発掘調査で、敷地の南半分から室町時代に建立された松林院の当時の遺構が見つかり、北半分では大正期に山口家がつくった日本庭園が、荒れているものの残っていることが確認された。
県が明らかにしている整備計画の施設配置図では、庭園ゾーン、宿泊ゾーン、交流・飲食ゾーン、緩衝緑地ゾーンの4つの区域のうち、宿泊ゾーンと宿泊者や来訪者に飲食を提供する交流・飲食ゾーンの二つを合わせた区域は、敷地全体の半分を占める。宿泊ゾーンは、敷地の重要な場所の一つである高台の松林院跡に設けられる。庭園が主役と、県が説明しても、宿泊施設は「高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業」において主要な施設である。
吉城園周辺地区は、中世から近世にかけて興福寺境内として関係諸院・諸坊などが立地。廃仏毀釈によって一部は奈良公園に、そのほかは別邸邸宅地などになった。奈良公園の名勝指定時に、同地区も名勝の一部になった。一方、県立都市公園「奈良公園」に含まれる区域は吉城園など地区の一部に限られていたが、今回の事業実施に伴って、ことし4月、知事公舎敷地などすべてが編入された。
「吉城園周辺地区保存管理・活用事業」でも宿泊施設は主要な施設。事業者を募る募集要項で「宿泊事業を中心としてゆったりとくつろげる魅力的な空間を構築する」とうたっていた。知事公舎など保存して活用する建物を含め、全施設の建築面積は5800平方メートルになるが、このうち約3分の2の3900平方メートルは、主に宿泊施設の客室になる新築建物である。
主役であってもなくても、宿泊施設が公園施設であることに変わりはなく、都市公園法の制約を受け、運用指針に沿うよう求められる。
2点目に対しては「宿泊施設、飲食施設は閉ざされた空間ではなく、料金の高い安いに関係なく誰でも立ち入ることができる。見ることができる。セキュリティーの関係もあって入れない所もあるが、基本的には開放空間。排他性はない。オープンな空間はいっぱいある。高畑町裁判所跡地の宿泊施設は中庭を一般公開する。利用者が限定されるものではない」とした。
荒井知事もことし3月22日の定例記者会見で、同様のことを吉城園周辺地区に関して述べている。「ホテルのロビーはパブリックスペースであり、ご案内のように、金持ち以外は入ってはいけないというホテルはどこもないわけです。だから公園も含めて、パブリックスペース、ホテルの庭園は散策場所になります」。
県は、宿泊施設のロビーや庭への立ち入りを拒まないことをもって、経済力がなく宿泊できない人も排除していないことの証しとする。
事業収支計画の客室料金開示せず
3点目に対しては「客室料金はまだ設定されていない。都市公園法も運用指針も宿泊施設を認めている。どういう宿泊施設かは規定していない。上質な宿泊施設は何も問題ない」とした。
客室料金については、ヒューリックと森トラストがそれぞれ応募の際、県に提出した提案関係書類のうち、平均客室料金などが示されている事業収支計画が存在する。
「奈良の声」はことし4月、県に事業収支計画の開示を請求したが、具体的な金額はすべて不開示だった。県が「上質な宿泊施設は問題はない」と述べても、想定される客室料金がいくらであるか明らかにされなければ、公園の公共性、開放性が守られるのかどうかについて、県民は検証できない。不開示の理由は、事業者の競争上の地位などを害する恐れがあるというものだった。
都市公園への宿泊施設設置が制限されていることについても質問した。都市公園法解説が「特に必要と認められる場合」として例に挙げているものの中に、県が奈良公園に誘致しようとしている高級宿泊施設に類似するものはない。しかし、奈良公園室は、同解説が挙げているのは「例示である」と述べ、拘束されるものではないとの認識を示した。
事業者「宿泊しなくても利用できる整備を予定」
ヒューリックと森トラストに対してもことし9月、次の3点を質問した。①宿泊施設の客室料金はどれくらいの金額を想定しているのか②奈良県から客室料金設定について何か要請はあるか③客室料金が高額になれば、一般公衆が利用する公園施設という目的から遠ざかるように思うが、どのように考えるか―。
ヒューリック広報・IR部は「計画に関するお問い合わせについては、県で対応していただくことになっている」として、それぞれの質問には答えなかった。
一方、森トラスト広報部は次のように回答した。
1点目に対しては「ホテルのブランドが決まって、それから決定していく。基本的には県への提案と同じ内容で進めさせていただくが、提案段階のものと、最終的に決定するものはイコールではなく、変わる可能性もある」。2点目は「奈良公園のホスピタリティーを高めるという、県からの募集要項に沿った形で提案させていただいた。客室の広さ、宿泊施設のホスピタリティーは県の要件に従った」。3点目は「文化発信や交流など、宿泊をせずとも、うまく施設を利用していただけるような整備を予定している」とした。
建設反対の住民、国・奈良市の許可取り消し求め審査請求
高畑町裁判所跡地の宿泊施設建設に対しては、反対運動が起きている。周辺住民らが「リゾートホテル建設反対」を掲げて、「奈良公園の環境を守る会・高畑町住民有志の会」(呼びかけ人代表・辰野勇モンベル会長)を発足させた。署名活動を展開したり、訴訟に向けた取り組みを進めるなどしている。
会のホームページによると、訴訟に向けては、ことし9月から10月にかけ、2件の審査請求を行った。1件は、県が文化財保護法に基づいて行った名勝の現状変更許可申請について、許可した文化庁にその取り消しを求めるもの。もう1件は、県が古都保存法に基づいて行った歴史的風土特別地区内行為許可申請について、許可した奈良市にその取り消しを求めるもの。
両計画地は、古都保存法の歴史的風土特別保存地区(春日山地区)や奈良市風致地区条例の春日山風致地区第一種風致地区に指定されており、これらによっても建築行為などが厳しく制限されている。
審査請求はそれぞれ、宿泊施設建設は許可基準に反している、許可の手続きが正当でない、などと指摘し、申請を許可したことは違法であると訴えている。
公園管理者の裁量超えていないか
スイート仕様の温泉露天風呂付き客室に泊まったり、最高級インターナショナルブランドのホテルに泊まったりできる人は限られる。都市公園の利用者として想定されている「一般公衆」の多くには手が届かない。高級宿泊施設誘致は、奈良公園が県民、利用者皆の都市公園であることの意味を無くしてしまう。公園管理者の県が裁量で実施できる施策の範囲を超えているのではないか。【関連記事へ】
質問に対する県奈良公園室からの文書による回答(2017年10月20日付)
【質問①】経済力の有無で利用できるかどうかが決まってしまう排他性のある施設は、都市公園法の目的「公共の福祉の増進」と相いれないのではないか。
〈回答〉都市公園法逐条解説(都市公園法解説)では、「法第1条で『本法の直接目的とするところは、都市公園の設置及び管理に関する基準等を定めて、都市公園の健全な発達を図るところにあるのであるが、その究極の目的は、公共の福祉の増進に資するところにある』と規定している」ことを解説しています。
ご指摘の両事業は、都市公園奈良公園の設置及び管理に関する基準等に基づき、都市公園奈良公園の健全な発達を図るために実施している事業です。
また、宿泊施設は、法第2条で規定しているとおり公園の便益施設として設置及び管理できます。
【質問②】公共施設である公園は誰もが利用できる開放空間でなければならないにもかかわらず、利用者が高額の宿泊料を負担できる人に制限されることをどう考えているか。
〈回答〉高畑町裁判所跡地の事業は、「歴史的・文化的に価値の高い庭園を主役に、その両脇へ宿泊施設と交流・飲食施設を一体的に整備する」ことを目的としています。
また、吉城園周辺地区の事業は、「江戸末期から昭和初期にかけての吉城園周辺の独特な邸宅の佇(たたず)まいや、和を基調とした風情の中に洋を感じる空間美を維持し、後世に伝えていくために、ゆったりとくつろげることができ、また宿泊することができる空間として整備する」ことを目的としています。
このように、両事業の主目的は、宿泊施設の整備ではなく、庭園など、名勝奈良公園の指定を受けている環境と宿泊施設等を一体的に整備して、両地区の価値を高めることです。
ご指摘のとおり、敷地内では庭園、交流・飲食施設、アーカイブ施設、宿泊施設の中庭など、様々な部分を一般公開とすることから、多くの方に両地区の価値を享受していただける場となります。
【質問③】県が誘致しようとしている宿泊施設の宿泊料は、都市公園法運用指針が求める「社会通念上適正なもの」とはいえないのではないか。
〈回答〉質問2で回答したとおり、両事業の主目的は、宿泊施設の整備ではなく、庭園など、名勝奈良公園の指定を受けている環境と宿泊施設等を一体的に整備して、両地区の価値を高めることです。また、このことは質問1で回答したとおり、都市公園法の目的である都市公園の健全な発展に資するものであり、本来の使命を妨げるものでないことは明白です。
なお、両地区の優先交渉権者が提供する宿泊やその他サービスに対する対価やその内容については、両地区の設置及び管理に関する基準等を定めた基本協定書に基づき、本県が必要に応じて指導等を行います。