奈良県)永久に封印か 大滝ダム地滑り裁判の上告断念理由 開示請求に国、不開示 保存年限迫る
安全対策に問題はなかったとし、原告住民と全面的に争ってきた国家のダム事業がなぜ上告を断念したのか、秘密にされている黒塗りの「上訴求指示」に関する文書
奈良県川上村で、国土交通省が大滝ダムを建設中の2003年、試験貯水中に発生した地滑りを巡り、立ち退きを余儀なくされた同村白屋の旧住民が、国を相手取って起こした損害賠償請求訴訟で、住民の訴えを認めた大阪高裁の判決に対し、国が最高裁への上告を断念した理由を記した文書を、記者が開示請求したところ、記述のほとんどが不開示となった。文書は5年後に廃棄の保存年限を迎える。
地滑りの予見可能性や安全対策について、国と旧住民側は全面的に争い、奈良地裁は2010年、大滝ダムの設置・管理に瑕疵(かし)があったことを認め、地滑りは予見できたのに安全対策が不十分とした。国は控訴したが、大阪高裁は一審判決を支持し、さらに旧住民が受けた苦痛に対する国家の賠償計約1200万円を認める判決を翌年言い渡した。
同省近畿地方整備局は高裁判決を不服とする談話を報道機関に出していたが一転し、国は最高裁への上告を断念した。その理由について現在、検証可能な公文書が唯一、法務省内のやり取りなどを記録した「上訴求指示」に関する文書だ。記者は本年5月、法務省に対し情報公開法に基づく開示請求をした。
法務省訴務局が管理する「上訴求指示」はA4判37枚で、「上訴検討メモ」など主要な文書が不開示だった。さらに大阪法務局長が同省大臣官房訴務総括審議官あてに提出した意見や選任弁護士の意見のほか、裁判の当事者で、工事の責任者でもある上総周平・近畿地方整備局長が法務省に対し上告について提出した意見書も不開示だった。
治水を主目的とする巨大な公共施設、大滝ダムの地滑り裁判について、国はなぜ公開に後ろ向きなのか。山下貴司法務相名の不開示理由は「国の内部における検討または協議に関する情報が記録されており、公にすることにより、率直な意見交換、意志決定の中立性が不当に損われる恐れがある」などとしている。
近畿地方整備局水政課に対しても改めて上告断念の理由を尋ねたが、「対応は法務省である」として回答しなかった。法務省に提出した意見書などの原文は保管していないとした。
同じ、国が被告となった裁判のうち、最高裁への上告断念について説明したケースとしては、本年7月、ハンセン病家族訴訟で安倍晋三首相が説明、2010年には諫早湾干拓訴訟で当時の菅直人首相が上告断念理由を明らかにした。これらは「上訴求指示」などの公文書を公開したわけではないが、対する大滝ダムの地滑り裁判では、上告断念の理由について国民は何の情報も得られない。国は求められる説明責任に関し、姿勢に一貫性がないことになる。
近年の河川整備は、住民参加が大きな課題になっている。しかし、「知る権利」が遠ざけられ、保存年限が迫る。大阪法務局が保管する関連文書は、高裁敗訴の翌年から10年間で、2022年。法務省保管の「上訴求指示」の文書は、記者が開示請求したことにより、公文書管理規定によって保存期間が延長され、開示に関する決定を国が決定した時点から5年後の2024年まで保管される。【関連記事へ】