「連帯保証人要件、違法でない」 奈良県営住宅の入居承継巡り地裁 離婚後、元夫からの名義変更で見つけられなかった女性に明け渡し命ずる
奈良県営住宅の入居承継を巡って争われた県の住宅明け渡し請求訴訟で、奈良地裁(藤本ちあき裁判官)は18日、「連帯保証人要件は違法でない」として、離婚後に元夫から自身への名義変更で連帯保証人を見つけられなかった女性(60)に対し、住宅の明け渡しを命ずる判決を言い渡した。
また、県が賃貸契約を解除したときから明け渡しをするまでの期間の賃料相当損害金として、月当たり5万3400円を支払うよう命じた。
女性は奈良市内の県営住宅に居住、生活保護制度を利用している。ことし1月、県から住宅明け渡しを求める訴えを起こされた。女性側は「連帯保証人を入居承継の要件とすることは、住宅に困窮する低所得者の健康で文化的な生活の住居面での保護を目的とした公営住宅法の趣旨に反する」などとして、県の明け渡し請求の棄却を求めた。
地方公共団体の公営住宅の保証人または連帯保証人要件を巡っては、公営住宅の役割の観点から、免除などの救済策を講ずるところも少なくない。
判決文によると、県は2015年1月、元夫の男性に県営住宅を賃貸。女性は夫とともに入居したが、17年6月に離婚。元夫は転居し、県営住宅には女性が単独で居住することになった。女性は県に対し、名義変更を相談したが、担当職員は、入居承継には連帯保証人が必要と説明した。女性は、連帯保証人になってくれる人がいないと伝えた。
女性側は連帯保証人を見つけられなかったことについて「唯一の肉親である妹とは断絶状態で、ほかに親しい親族もいなかった」とした。
県は18年6月、元夫との賃貸契約を解除した。女性は同年9月、連帯保証人を用意できないまま入居承継承認申請を行ったが、県は受理しなかった。女性は同月以降、毎月、家賃分の2万700円を奈良地方法務局に供託してきた。
裁判で女性側は「公営住宅法が定めている入居者資格は、基準以下の収入であることや住宅に困窮していることで、連帯保証人という要件は特段考慮されていない」と主張した。
これに対し藤本裁判官は、同法が入居者資格について「少なくとも」と前置きして、収入や住宅困窮の条件を挙げていることに触れ、「地方公共団体がほかに合理的な要件を付加することは許容されていると解される」と指摘。さらに「居室の賃貸借における連帯保証人は慣行として定着している」などとし、連帯保証人要件は「公営住宅管理者の裁量権の逸脱・乱用とまではいえない」と述べた。
また、女性側は、入居承継を県に相談した当時、県営住宅条例には新規入居に対しては連帯保証人を求める規程があったが、入居承継に対しては連帯保証人の規程がなく、これを要件としたことは違法と主張した。
これに対し藤本裁判官は「公営住宅法は資格要件を条例事項とすることまでは求めていない。新規入居と入居承継で連帯保証人を求める必要性や合理性に特に差異はない」と述べた。
女性の代理人の吉田恒俊弁護士は判決に対し、「国民、市民を守るという観点がなく、行政側に立った内容」と批判した。女性は「行き場のない私にどこへ行けというのか」と話し、控訴の意向を示した。
県営住宅の連帯保証人要件を巡っては、県は18年3月、県営住宅条例を改正し、入居を希望する生活保護の利用者やDV(配偶者からの暴力)被害者、障害者、高齢者などを対象に、連帯保証人の免除を可能にした。しかし、「2親等内の親族がいない者」との条件を設けた。妹がいても連帯保証人を引き受けてもらえなかった、この女性のような例もあり、条例改正の趣旨が十分に生かされない事態が生ずる可能性は残った。
総務省が2018年1月に公表した「公的住宅の供給等に関する行政評価・監視 結果報告書」は、「公営住宅は、国土交通省において、住宅セーフティーネットの中核として位置づけられているものの」「民間賃貸住宅への入居に困難を伴うとされる高齢者や障害者、生活保護受給者等が保証人を確保できないことにより入居辞退した例がみられ、その機能を十分に発揮しているとは言い難い状況にある」と課題を指摘している。
全国の地方公共団体には、保証人または連帯保証人免除の対象者について、親族がいないことを条件にしていない、名古屋市や佐賀市のような例もある。【続報へ】