【詳報】県域水道一体化構想 奈良市離脱で生駒市の地下水浄水場存続へ 試算料金は上昇 準備協議会で打ち出す
奈良市離脱後の一体化方針を審議した県広域水道企業団設立準備協議会=2022年10月13日夜、奈良市三条大路1丁目の県コンベンションセンター
奈良市が離脱を表明した県域水道一体化構想の行方を審議する県広域水道企業団設立準備協議会(会長・荒井正吾知事、県と26市町村)が13日夜、同市三条大路1丁目の県コンベンションセンターで開かれた。奈良市緑ケ丘浄水場から生駒市への送水を見送る分、廃止方針だった同市営真弓浄水場(水源・地下水)を企業団が受け継ぎ、市域のバックアップ機能を維持するために存続する方針を打ち出した。
これにより、一体化の企業団が残す方針の浄水場は用水供給の県営2施設、県北部に生駒市内の1、吉野川水系の小規模4施設(五條市、大淀町、吉野町、下市町)の計7カ所。生駒市の真弓浄水場は2041年に廃止される予定だった。企業団設立予定の2025年度に即時廃止でなく「耐用年数が来るまで企業団は利用すべき」と同市などが主張していた。
一体化の覚書を交わさなかった大和郡山市、一体化への参加を明言していない葛城市が企業団入りを選択しなかった場合、両市の自己水源浄水場計5カ所が残る。県内でも珍しい地下水100%の大和郡山市営北郡山浄水場は2026年、葛城市営の江戸期築造ため池を生かした同市営3浄水場は2030年に廃止する方針が一体化の協議の中で出ている。
香芝市長、用水供給単価の値上げを提案 葛城市長は反対
県は13日の協議会において、奈良市が抜けた企業団(県営水道と26市町村水道の統合)の水道料金試算を示した。料金は上がるが、葛城市と大淀町を除く市町村にとり、単独経営より料金上昇を抑制する効果が出たという。
試算した県水道局によると、2025年度の企業団開始時は1立方メートル当たり6円値上げの181円。30年後は18円上昇の253円となる。人口の多い奈良市内からの料金が入らず、供給単価は上がるが、投資の規模は年間161億円から127億円とスリムになる。奈良市内で予定されていた多額の投資を企業団が行わないことを勘案すると、更新のペースはやや速くなる見通し。
協議会の席上、香芝市の福岡憲宏市長は、一体化に参加しない市町村が今後、企業団から受水する用水の価格を値上げすべきであると提案した。
これに対し、葛城市の阿古和彦市長は、企業団の主水源となる大滝ダム(総事業費3640億円)のうち支払われた県の負担金606億円は、県営水道を受水してきたすべての市町村、県民が負担したものであり「値上げは容認できない」と反対した。
県営水道は、水源と配送先までの導水距離が長くコストを押し上げ、1立方メートル当たり130円の供給単価は「高い」と、包括外部監査人から指摘されたこともある。現在は、たくさん購入すれば値下げをし、2021年度の用水供給事業の売り値は過去最低の119.26円にまで下げたが、全国平均の81.54円(2020年度、県水道局調べ)と比べ、まだ水を開けられている。
加えて、主水源の大滝ダムが試験貯水中に地滑りを起こして完成が10年遅れた。このことも、奈良盆地の市町村が独自の水源を開発し、堅持してきたことの一つの背景となっている。
内部留保資金「囲い込み」の行方
協議会では、大和郡山市、葛城市の2市の参加を促す意見が出た。荒井知事は「参加・不参加の最終判断は年内に」と期限を指定した。すでに県は葛城、大淀の2団体に対し、別料金制(セグメント方式)を提案したが阿古葛城市長は「今も具体的な提示がない。今の態度は白紙」と述べた。
大和郡山市は、県が一体化構想を表明した2年8カ月後の2020年6月、水道会計の内部留保資金81億円のうち28億円を一般会計に移転。一体化参加を前提とした市の囲い込みを荒井知事は「みんなで持ち寄るはずの資産を隠した」と非難。市は議決を経た正当な行為として広報紙で反論し、昨年1月の一体化覚書を交わさなかった。
荒井知事はこの日、改めて「水道で発生したものは水道で使うことが原則」と指摘し、市が移転した28億円を企業団に繰り入れる方向を決めてから一体化に参加するよう求めた。知事は「国、県の財政支援が活用できる最初の10年間に水道管の老朽化対策を集中して行いたい」と強調した。
協議会で県は、水道管の法定耐用年数40年を超えた県内団体の比率を公表。30%を超えている団体は、高い順に県営水道、五條市、大淀町、奈良市、生駒市、大和郡山市、香芝市。
うち地震に最も弱いとされる石綿セメント管が67キロ(「奈良の声」調べ、2021年7月4日現在)。他の水道管と比べ破損率が高く、漏水防止のための解消が急がれる。企業団の最初の10年間は国、県の手厚い補助の下、1270億円の工事(広域化の設備、管路更新事業など)を発注する。工事の優先箇所はどう決定するのか、契約の競争性と透明性をいかに確保するのか注目される。 関連記事へ