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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

視点)奈良県域水道一体化 民営化しない証文は 水道法2大改正から3年

県広域水道企業団設立準備会で奈良市離脱後の方針を述べる荒井正吾知事。「民営化は予定していない」とも語った=2022年10月13日、奈良市内

県広域水道企業団設立準備会で奈良市離脱後の方針を述べる荒井正吾知事。「民営化は予定していない」とも語った=2022年10月13日、奈良市内

 奈良県広域水道企業団設立準備協議会(会長・荒井正吾知事、県と26市町村)が13日、奈良市内で開催された。県主導で2025年度の事業開始を目指す県域水道一体化構想の受け皿となる企業団について、民営化はないのか質問があった。荒井知事は否定した。

 一方、設立時は民営化の形態は取らずとも、その後の10年、20年先はどうなるか。証文はあるのか。

 一体化の主水源、大滝ダム建設により500世帯が立ち退いた川上村は、激しい反対運動を経て現在は水源の村を標榜している。吉野川源流部の天然林がパルプ材の原料として伐採される危機に見舞われたときは、村費を惜しまずに買収した。

 巨大ダムを肯定して生きざるを得なかった水源地の努力を思えば、奈良盆地に運ばれる水道は常に健全でなければならない。

 協議会が開かれた13日、三宅町の森田浩司町長は「町議会で企業団は民営化しないか懸念する声が出ている」と述べた。荒井知事は直ちに否定した。

 三宅町を含む磯城郡3町の水道はすでに小規模な水平的統合を行っており、広域化はある程度、住民に受容されているが、民営化には不安な要素があるというのが人々の本音ではないか。

 企業団という名称そのものが、一般の県民にはなじみがなく、どこか民営化を連想させる法定の用語である。実態は一部事務組合であり、特別地方公共団体に当たる。

 水道の広域化を推進し、民営化に新たな道を開いた改正水道法が2019年10月に施行され、3年になる。官民連携を旗印に、広域化と民営化それぞれの改正が同時だったため、県民がこれを混同するのは無理もない。

 水道に詳しい大阪府内の自治体の公務員は次のように語る。

 「水道民営化の新たな仕組みづくりと広域化の推進は同時施行となったが、背景にある政治勢力は異なるはず。前者は外資、水メジャーとつながっている勢力、後者の水道広域化は、まず国内から経営難の弱小水道をなくし、施設の共同化を進めることなどによる地方の新たな工事発注に期待する勢力。両者はまるで違うと思います」

 「民営化の“み”の字も出ていません」。一体化構想を進める同協議会で熱心に活動し、県市長会長も務める天理市の並河健市長は先月9日、一体化に関する「奈良の声」の取材できっぱり言った。

 記者は一体化推進業務を司る県水道局に対し、水道民営化を研究したり検討したりした文書はないか、県情報公開条例に基づき開示請求したが存在しないとのことだった。

 ただし、広域化の企業団議会をどう充実していくか、などの議論が先送りになれば、民営化を懸念する声は解消されないのではないか。

 一部事務組合の身近な事例として、37市町村でつくる県広域消防組合がある。議員定数はわずか26。構成団体から市町村議員を送り出しているが、人口12万人の橿原市も、350人の野迫川村も1人しか議員を出せない仕組みに甘んじている。

 一票の格差は甚大だ。原則、水道料金で賄う企業団は、こういう前例を踏襲してよいのかどうか。議会を拡充すれば新たな経費が発生するものであり、奈良県の水道一体化の協議会は料金の試算に労力をかける分、住民参加の議論は後回しになった。

 先の改正水道法案の議論においては、パリやベルリンなどの水道が民営化した際、約束された投資が履行されなかった事案が注目された(2市ともに再公営化)。厚労省は、定期的な実地調査などで早期に問題を指摘し、改善を求めることは可能などと対応策を示した。県民が支払った水道料金から積み上がった内部留保資金の行方と大いに関係する話だ。いったん民営化した欧州の水道が再公営化される潮流は、東京都杉並区の岸本聡子区長の著書に詳しい。

 県の一体化構想が突然、料金統一の事業統合に改変されたのが2020年8月。それまでは、緩やかな経営統合が打ち出され、料金の統一はかなり先であることを県は表明していた。

 水道広域化における料金統一は多くの困難が伴うといわれる。裏返せば、料金統一を成し遂げた広域水道は、民営化への橋渡しがやりやすくなるという見方もある。

 一体化の協議から離脱した奈良市が一時、事業統合に乗り気だった話は、協議会の構成市町村の間でよく知られている。しかしある市町村の担当者は次のように話す。

 「厚生労働省の助言を得て経営統合の方針を捨てました。経営統合しても料金統一がいつになるのか不透明だし、事業統合の方が広域化のメリットを発揮できるといわれ、方針が変わりました」

 厚労省は今年3月、水道の担当者会議において、官民連携手法とそのメリットについて詳しく解説。資金調達や経営ノウハウの活用などを示したが、水道の主務官庁が国土交通省に移管されるという情報もある。

どうなる情報公開

 総務省の2018年調査では、奈良県には29の一部事務組合、広域連合があるが、情報公開制度があるのは13団体にとどまる。全国平均の制定率62.5%を下回っている。

 また、県域水道一体化を主導する奈良県は、一体化の料金試算の算定根拠を不開示にしており、こうした体質は、企業団に受け継がれるのかどうか。

 先月、御所市発注の公共事業を巡り、議長経験のある有力市議が収賄容疑で摘発された。事件の舞台はプロポーザルという企業提案型の契約。記者は以前、別の自治体が発注したプロポーザル契約で、落札しなかった企業の提案内容を開示請求したが、企業の競争上の地位を保全する目的が優越され、不開示だった。

 公正取引委員会は2020年12月、JR東海発注のリニア中央新幹線・品川駅名古屋駅新設工事の談合事件で関係企業に課徴金の納付を命じた。記者はそれより以前、監督官庁である国土交通省に対し、同品川駅工事の開札録を開示請求したが、文書はなかった。

 全国初の公共施設運営権方式(コンセッション方式)として今年4月、民営化した宮城県の水道(用水供給事業、上下水道一体)が話題をさらった。同県は情報公開の先進地として評判になったことがある。市民団体が実施した都道府県別の公開度ランキングでトップに躍り出た年度もあった。県営の時代と比べ、民営化した水道事業の情報公開は後退しないのか、同県に聞いた。

「民営化しても情報公開後退しない」

【宮城県企業局水道経営課水道経営管理班の話】

 本県が導入しているみやぎ型管理運営方式では、実施契約書の規定により、運営権者に対して本県の情報公開条例の趣旨に沿った情報公開取扱規程の作成及び公表を義務付けし、これに従い適時の情報公開を行うことを求めている。また、要求水準書の「 情報公開及び説明」において、運営権者に求める情報公開の範囲等を定めている。

 これらの規定に従い、運営権者である(株)みずむすびマネジメントみやぎでは、令和3(2021)年6月29日付で情報公開取扱規定を策定し、同社のホームページで公開しており、これまで積極的な情報公開に努めているものと認識している。

 本県では、みやぎ型管理運営方式の導入以前は委託等により事業を運営しており、職員直営で水道事業を行っていないが、「直営時代」を昨年度までの従前と読み替えてお答えすると、PFI事業(コンセッション方式)の導入により民の所掌や裁量を拡大したことから、県民への説明責任を果たす上で情報公開の水準を従前よりも高めなければならないと考え、前述のとおり契約制度において考慮している。 関連記事へ

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