「奈良の声」が受賞 ジャーナリズム支援市民基金のXアワード 2021年、数々の独自ニュース報道で
ニュース「奈良の声」のウェブサイト画面
ジャーナリズム支援市民基金(星川淳代表幹事)は11月2日、第3回ジャーナリズムX(エックス)アワードの受賞者を発表した。「県政、市政記者クラブ経由の話題が多い地方において、ニュース『奈良の声』が小さな独立メディアの自由度を生かした探究的取材により伝えた、2021年の独自ニュースの数々」が、ジャーナリズムY賞(賞金30万円)に選ばれた。Y賞は大賞の同X賞に次ぐもの。
受賞を伝える第3回ジャーナリズムXアワードのウェブサイトのアドレスはhttps://jxaward.com/news/1269/
同基金は、「日本におけるジャーナリズムが本来の力を発揮するためのプロジェクト助成と組織基盤強化支援を目的」として、2019年3月に設立された。ジャーナリズムXアワードは、「自由で公正な社会を創るジャーナリズムを市民が選び、顕彰する」もので、今回は2021年に発表された活動成果や取り組みを対象とした。選考には、著述家の師岡カリーマ・エルサムニーさんら3人の外部選考委員と同基金の運営幹事が当たった。
審査の対象となった「奈良の声」の2021年1年間の掲載記事は約80本。代表的な独自ニュースは次の通り。
奈良県の県域水道一体化を考えるニュース 記事へ▽県域水道一体化 水源ダムの将来コスト 水道料金試算への反映乏しく 記事へ▽奈良公園に県誘致の高級宿泊施設「公益上必要な建築物」か 開発許可の適用除外、客室料金の高さ制度の想定外? 問う機会なく 記事へ▽生活保護制度の案内、未掲載解消 県内全12市のHP 「奈良の声」取材きっかけ 記事へ▽大和郡山市 缶・瓶リサイクル作業委託業者の器材費用負担、廃止 契約書との整合性なく 「奈良の声」が指摘 記事へ
これらのニュースでは次のようなことを伝えた。
奈良県が進める県域水道一体化。地下水やため池など身近で多様な水源を利用した市町村営水道を廃止して、遠隔地の巨大ダムへの依存度を高める。2021年も検証を続け、想定する水道料金に、水源となるダムの老朽化に伴う将来の維持管理負担金や、ダム湖で増え続ける堆砂対策の自治体負担金上昇予測が、ほとんど反映されていないことを明らかにするなどした。この問題を追っている記者は、市民有志が主催する一体化の勉強会に講師として招かれた。
県による県立都市公園「奈良公園」への高級宿泊施設誘致。公園の便益施設を掲げれば、公園の目的と矛盾する排他的な高級宿泊施設も「公益上必要な建築物」として建築が認められてしまう。想定を超えた県の行為に対し、法律が無力だったことを明らかにした。
市のホームページに生活保護制度の情報が乏しい。保護を必要とする人の支援に取り組む人の声をきっかけに県内12市のHPを確認したところ、3市は制度の情報が全くなかった。報道を機に情報未掲載の市はなくなった。県内の生活保護を巡る問題の取材を続けている記者は、全国生活保護裁判連絡会が奈良市で開いた総会の分科会で報告者の一人になった。
大和郡山市の缶・瓶のリサイクル業務の委託を巡る問題は、それまでの調査報道の実績に期待して寄せられた情報がきっかけ。随意契約による長年にわたる同一業者への委託で、契約内容の点検がおろそかになっていた。契約書と矛盾する委託料が存在することを市の開示文書から指摘した。市はこの委託料を廃止した。
選考委員は授賞理由で「地域に根ざすローカルメディアに何ができるかを、地方紙記者出身の夫妻がみごとに体現した模範例のひとつ。『全国紙に先駆けて問題を取り上げるプロの嗅覚と、市民の生活に関わる報道を展開するローカル性の融合、さらに読者とのインタラクティブ性』(選考評より)は、より開かれた地域づくりに役立つだけでなく、各地の独立系メディアにとっても参考になるだろう。細部にこだわった年間80本の健筆ぶりを含め、ローカルメディアへの応援と、活動基盤強化への期待を込めた授賞」と評価した。
その他の受賞は次の通り(敬称略)。
【ジャーナリズムX賞(大賞)賞金100万円】シリーズ「双葉病院 置き去り事件」(受賞者:中川七海/Tansa)【ジャーナリズムZ賞(選考委員奨励賞)3件賞金各5万円】「障害者と生きる」(受賞者:北井寛人/静岡新聞)▽全国郵便局長会による会社経費政治流用のスクープと関連報道(受賞者:宮崎拓朗/西日本新聞「あなたの特命取材班」)▽「辺野古に陸自」合同取材(沖縄タイムス/共同通信)(受賞者:阿部岳〈沖縄タイムス〉+石井暁〈共同通信〉)