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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

奈良の特別養護老人ホームへの処分なし 市、虐待通報受け監査 「該当する事実認められず」と説明

特別養護老人ホームなどがある奈良市和楽園=2023年5月11日、同市古市町

特別養護老人ホームなどがある奈良市和楽園=2023年5月11日、同市古市町

 昨年12月に新聞報道で明るみになった奈良市古市町の特別養護老人ホーム和楽園での入所者への虐待問題で、奈良市は検討の結果、予定していた3カ月の新規利用者受け入れ停止の処分を行わないことを決め、6月20日付で同施設に伝えた。「奈良の声」の取材で分かった。市は「処分に該当するような事実が認められなかった」と説明している。ただ「何も問題がなかったわけではなく必要な指導は行う」とも話している。

 「奈良の声」が市への開示請求で得た関係文書や市介護福祉課の説明によると、市は同施設に対し虐待の疑いがあるとして、昨年10月26日、介護保険法に基づく監査の実施を通知した。最初に虐待の匿名通報があった2019年度から2022年9月までを対象に、入所者に対するサービス提供記録などの関係書類の提出を求めるとともに職員への聴取を行った。

 市はこれまでも匿名の通報を受けて高齢者虐待防止法による任意の調査を実施しており、2019年11月と昨年4月の2度、同施設に結果を通知、改善報告書を提出させていた。施設によると、1度目は入所者に対する「不適切な言動」などがあったといい、職員対象の研修や内部通報制度の創設などの対応策を講じた。

 開示文書などによると、2度目は入所者の排便を促す腹圧が過度であったことや介護職員には禁じられている医行為の摘便が行われていたこと、入所者に対する暴言があったことなどが問題とされた。施設は対応策として、施設長による巡回の数を増やしたり排便コントロールの研修を実施したりしたという。

 しかし、昨年5月16日の2度目の改善報告書提出後も8月と10月に虐待の通報があったため、介護保険法に基づく監査に至ったという。市は監査の結果に基づいて、施設に対し3カ月の新規利用者受け入れ停止を予定していることを通知するとともに弁明の機会を与えた。施設によると、市が指摘する虐待について事実ではないとする弁明書を今年3月末までに2度提出した。

 介護保険法は指定介護老人福祉施設に対し、要介護者の人格尊重義務を課しており、これに違反したと認められるときは、指定を取り消したり、期間を定めてその指定の全部もしくは一部の効力を停止することができる、と定めている。

 市介護福祉課長は取材に対し「相手方の弁明内容を踏まえ検討を重ねた結果、処分にまでは至らないと判断した」と述べた。一方で「指導すべきことはある」とも述べたが、「内容は明らかにできない」とした。

 和楽園施設長は取材に対し、通報に基づいて7つの点を問われたが、監査の結果では「事実はあったが虐待かどうか判断できない」が4つ、「事実がない」が3つだったと明らかにした。また、管理者の責務と事故発生の防止の2点について改善報告書の提出を求められていると述べた。

 施設長は「過去に虐待の事実はあったが、改善に取り組んできたことが認められて良かった。指摘された改善事項については真摯(しんし)に受け止め取り組んでいく」と述べた。

 施設は定員84人でホームページによると現在、満床。運営しているのは社会福祉法人「奈良市和楽園」で、同法人はほかにも養護老人ホームやケアハウス、ショートステイなどの事業を営んでいる。理事長は市社会福祉協議会長が務めており、現在は元副市長でもある福井重忠氏が就任している。

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