天理ダム、想定超える堆砂量 洪水調節機能への影響懸念 奈良県が除去検討へ
堆砂量が想定を超えて増加している天理ダム=2023年12月28日、奈良県天理市長滝町付近
治水を主目的とする奈良県営の天理ダム(布留川、天理市長滝町など)の堆砂量が、想定を超えて増え続けていることが、国土交通省の全国調査から分かった。このまま推移すると、洪水調節機能への影響が懸念され、県は、ダム湖の底をさらって土砂を取り除く浚渫(しゅんせつ)などの抜本的な対策を2024年度以降に実施する検討をしている。
ダムは1979年に完成。県は100年後の計画堆砂量を総貯水量の10分の1に当たる25万立方メートルと想定していた。国交省がこのほど公表した「全国のダムの堆砂状況」(2022年度末)によると、天理ダムの堆砂量は33万9000立方メートルに達している。45年間で想定を大きく超えた。
県奈良土木事務所ダム管理課によると、土砂の流入を抑制するため、ダム上流の布留川と藤井川の2カ所に「貯砂ダム」と呼ばれるコンクリート擁壁を設け、年間約1500立方メートルの土砂を搬出し、ダム湖へ流入を食い止めている。
しかし、ダム湖への土砂流入量は増加傾向にあり、同課と県河川整備課は浚渫船などを使っての初の本格的な堆砂除去を検討している。費用は数億円から10億円前後かかる見通し。
貯砂ダムの整備は2010年から16年にかけて行われ、当時から土砂流入量増加の認識があったと見られる。日本ダム協会がホームページで公開している「ダム便覧」によると2009年度末、天理ダムの堆砂は計画堆砂量を超えた。同協会は湖畔の土砂崩れなど複数要因を指摘している。
日本ダム協会は2013年、貯水を抜いた同ダムの珍しい写真を紹介している。奈良土木事務所ダム管理課によると、ダムの洪水調節機能が堆砂で妨げられることを防止するために、排水設備などの土砂を除去したらしい。2018年には、堆砂の影響を抑制するため堤体中腹部に放流設備を新たに設けている。
布留川の下流域は天理市役所などがある中心市街地。ダム放流による河川水位の上昇を知らせる警報施設は市役所前など15カ所にある。堆砂量の増加について県河川整備課は「県管理ダムとしては一番古い。また、ダム上流域に植林後の手入れが放置された人工林があり、それも土砂流入の一因とみられる」と話す。
堆砂は全国の相当数のダムで共通する課題。今回の国交省調査によると、県域水道一体化の主水源に予定されている同省の大滝ダム(川上村)は、完成後わずか10年で堆砂量が615万5000立方メートルに達し、早くも100年後の計画堆砂量800万立方メートルに近づく勢い。水道一体化で水源の一部に予定されている農林水産省の大迫ダム(同村)の堆砂量は302万7000立方メートルで、計画堆砂量105万立方メートルを大幅に超過している。
天理ダムは、水道一体化に伴う天理市営浄水場廃止で水道水源としての役割を終える。機能が縮小する一方、堆砂対策などの経年費用が増加することになる。