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「奈良の声」が日隅基金・情報流通促進賞で特別賞

浅野善一

アスベストセンター文芸賞に奈良市の玉田さん「風呂の守り」 共同浴場守る母と子描く

アスベストセンター賞文芸賞を受賞した玉田崇二さん=2025年8月12日、奈良市、浅野善一撮影

アスベストセンター賞文芸賞を受賞した玉田崇二さん=2025年8月12日、奈良市、浅野善一撮影

 アスベスト(石綿)による健康被害に関心を持ってもらうことを目的にしたアスベストセンター賞の文芸賞に奈良市の会社員玉田崇二さん(47)の小説「風呂の守(も)り」が選ばれた。アスベストの危険性を感じつつも地域のために共同浴場を守ろうとする母とそれを支える子の姿を描いた。

 同賞は、アスベスト関連疾病の相談窓口や調査・研究団体として活動するNPO法人「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」(東京都江東区)が2023年に創設。部門は文芸賞のほかにフォト賞、エッセー賞、研究奨励賞がある。表彰は今回が2回目。

 文芸賞の対象は雑誌、書籍、同人誌などの媒体に掲載された小説、シナリオ、ノンフィクションなどで、玉田さんの作品は文芸誌「革(KAKU)」の2024年秋号に掲載された。玉田さんは2011年から同誌に参加している。

 「風呂の守り」は、中学生雄一の目を通して物語が進む。雄一が住む地域の人たちは自分たちの地域のことを「ムラ」と呼んでいて、ムラには行政の生活改善事業の一環で設けられた共同浴場があった。そのボイラー室で風呂をたく仕事に携わる人の後任が見つからず、休業が続いていた。雄一の母が地域のため後任に就く決意をしたが、この仕事を巡っては、従事した人たちが肺を悪くしたといううわさもあった。雄一は、母の健康を案じながら自らも仕事を手伝う。

 選評では「共同風呂のボイラー室に吹き付けられたアスベストが今にも飛散してくるような緊張感が見事に表現されていた。母子の将来にアスベスト禍が待ち受けていないように、と祈る思いになる」などと評価された。

 作品には玉田さんの経験が反映されている。母親が同じように共同浴場の仕事をしていたことがあり、自身も掃除などを手伝っていたという。当時、アスベストに関する知識はなかったという。玉田さんは作品に込めた思いについて「アスベストは自分には関係ないと思っている人が大半だが、つながっている可能性があるかもしれない。自身の体験から感じた。人ごとではないということを多くの人に伝えたい」と述べた。

 作品を掲載した文芸誌「革」についての問い合わせは「革の会」善野烺方、Eメールzebura.007.noveler@gmail.com

 文芸賞以外の受賞者は、エッセー賞・西村英紀さん(福岡県宮若市)▽フォト賞・堂薗えり子さん(大阪府堺市)▽研究奨励賞(該当なし)。

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