|
仕組債、売却で19億円元本割れか市町村職員の退職手当基金、財源不足し取り崩し奈良県市町村総合事務組合、68億円を投入
奈良県内市町村職員などの退職手当支給事務を行っている県市町村総合事務組合(管理者、小城利重・斑鳩町長)が、退職手当基金の運用目的で購入した仕組債を2010、11年度に売却した際、19億円に上るとみられる元本割れが発生していたことが、「奈良の声」の調べで分かった。いずれの年度も市町村の負担金だけでは支給額を賄いきれず、基金を取り崩すために有価証券を売却せざるを得なくなった。仕組債には68億円を投入していたが、大半を売却した。 高い金利、リスクも大仕組債は高い金利が期待できる一方、為替などの相場に左右される上、市場性が低く、満期前に売却すると大きく元本を割り込む恐れがある。全国的にも自治体やその外郭団体などが購入して、時価が元本を大きく下回る評価損が顕在化する問題が起きている。 「奈良の声」は、退職手当負担金を支出するなどしている市町村に、同組合の決算書や退職手当基金の運用状況に関する文書を開示請求して入手、組合事務局に取材した。 同組合は、都道府県や市町村などの普通地方公共団体が事務の一部を共同処理するために設ける一部事務組合の一つで、特別地方公共団体と呼ばれる。退職手当支給事務は同組合の中心的な事務で、県内の2市と全27町村、21の一部事務組合が参加している。退職手当の財源は、これら市町村、組合が毎年納める負担金。額は各市町村、組合のその年度の職員の給与総額に一定の率を掛けて算出される。率は2011年度まで一般職が9%、特別職が25%だった。 2010年度に同組合が退職手当を支給したのは325人で、その総額は56億1773万円。これに対し、同年度の負担金収入は支給額を大きく下回る31億6494万円。不足分を補うため、現金にして24億8000万円を基金から取り崩した。11年度は、支給額46億2139万円(同年度予算書)に対し負担金収入28億5335万円(同)。退職者は予算編成時の見込みより少なかったが、現金にして10億円3200万円を取り崩した。 退職手当基金は、負担金収入が支給額を上回った際に黒字分を積み立て、財源が不足したときのために備えるためのもの。仕組債を売却する直前の09年度末の残高は75億926万円。預金と有価証券があり、68億100万円が仕組債16銘柄だった。1銘柄当たりの簿価(購入額)は最大が5億円、最小が1億100万円だった。 基金の取り崩しのため現金化した仕組債は、2010年度と11年度で15銘柄63億円分。組合事務局によると、うち2銘柄は金融機関側が満期前に運用を中止する早期償還で元本が戻ってきたが、売却となった13銘柄は元本割れしたという。しかし、これらがいずれの銘柄であるかや個別の元本割れの額、その総額については、運用に関わるものであることを理由に、また決算前であることを理由に明らかにしなかった。 市町村への開示請求で入手した2011年11月4日付文書「奈良県市町村総合事務組合の退職手当に係る負担金率引き上げについて」によると、10年度の売却による元本割れは10億7900万円、11年度の元本割れは文書作成時点が売却前だったため見込み額として8億8800万円、元本割れの総額はこうした見込み額を含んだものになるが19億6700万円となった。 一方、仕組債の利息は、購入を始めた2001年度末から現在までで計7億8541万円。これを加味しても、元本を10億円以上、割り込むことになった。 保有していた仕組債はいずれも、ヨーロッパの政府系機関などが発行した債券にさまざまな金融取引の手法を組み込んで高い金利を期待できるようにした円建て外債で、契約時の金利は高いもので8%、平均で3.6%となっていた。満期は20~30年。組合事務局によると、米ドルや豪ドルに対する円相場に連動したものは円安だと金利が高くなり、長期金利と短期金利の差に連動したものはその差が開くと金利が高くなる債券だったという。 ただ仕組債は、高い金利と引き換えに被る可能性のある不利益の大きさも、問題点として指摘されている。為替相場に連動したものは、円高になると金利がゼロのまま長期の塩漬け状態になる。組合保有の仕組債でも実際、債券によっては利息が得られない時期があったという。また、組合が購入した仕組債は、証券会社が客の希望に応じて条件を設定する一品注文の商品であるため市場性も低い。 退職手当基金は2001年度末で161億1500万円あった。しかし、翌02年度以降は毎年、支給額が負担金収入を上回ったため取り崩され、残高は減少を続けた。09年度までは預金など仕組債以外の取り崩しでしのぐことができたが、10、11年度は団塊の世代の退職などもあり、満期保有目的で購入した仕組債を売却せざるを得なくなった。この間、負担金の引き上げが検討されたこともあったが、市町村の財政状況を考慮して見送られてきた。負担金率は今年度、一般職が16%、特別職が30%に引き上げられた。 仕組債の売却は前管理者、吉田誠克・大和高田市長の時代にもまたがっている。 同組合の仕組債保有については2009年、これを知った奈良市在住の加門進二郞さん(67)が組合事務局に対し、「為替相場等の状況では大幅に時価が変動し、将来得られるべき金利が期待できなくなる」と問題点を指摘。「奈良の声」はこの指摘を知り、取材を始めた。 「奈良の声」は同組合管理者の小城利重・斑鳩町長に対し、町役場を通じて元本割れに関する取材を申し込んだが、回答は組合事務局を通じ文書であった。 「売却差損は運用益の範囲内」組合管理者、小城利重・斑鳩町長のコメント本組合の退職手当支給事務の運営については、旧退職手当組合発足以来、剰余金の効率的な資金運用等により、全国でも最も低い負担金率により運営されてきました。このことにより、組合市町村全体が相互に財政的な恩恵を受けていたところです。 しかしながら、ここ数年間の退職者の増加、並びに職員数の減少に伴う負担金収入の減少に伴い、支払い資金の不足に対しては、退職手当基金の取り崩しにより対応してきたところです。 平成22(2010)年度において、退職手当基金の資金運用の一部として保有していた有価証券について売却を行いましたが、これは退職手当支払い資金の確保のために売却したものです。これに伴い売却差損が一部発生しておりますが、これは、これまで資金運用してきた退職手当基金全体の収益の中でカバーできる範ちゅうで売却したものであります。管理者としては、退職手当支払い資金の確保のため止(や)むを得ない措置であったと考えています。
|
ご寄付のお願い
ニュース「奈良の声」は、市民の皆さんの目となり、身近な問題を掘り下げる取材に努めています。活動へのご支援をお願いいたします。
振込先は次の二つがあります。 ニュース「奈良の声」をフォロー
当サイトについて
当局からの発表に依存しなくても伝えられるニュースがあります。そうした考えのもと当サイトを開設しました。(2010年5月12日)
|
|