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〈検証〉奈良県市町村総合事務組合 仕組債20億円損失問題 (上)地方自治法「元本保証」の制限、機能せず地方公共団体の一つである奈良県市町村総合事務組合(管理者、小城利重・斑鳩町長)が、退職手当基金で高い金利をうたう仕組債を買い、2010、11年度に20億円に上る損失を出した問題。地方自治法などは、地方公共団体の基金について元本保証のない運用を認めていないが、こうした制限は機能しなかった。 同問題は、簡単に言えば、利息が良いと評判の銀行に金を預けたものの、この預金には投機性があり、当初の当てが外れて元金の相当額が返ってこなかった、という話だ。しかも、預けた金の原資は組合関係市町村の住民が負担したもの。 同組合は、県内の市町村と一部事務組合合わせて50団体の職員の退職手当支給事務を共同で行うためなどに設立された一部事務組合。都道府県・市町村などの普通地方公共団体に対し、特別地方公共団体という。 退職手当の資金は各市町村・組合が毎年支出する負担金で、退職手当基金は負担金収入が支給額が上回ったときの剰余金を積み立てたものだ。資金が不足したときにこれを充てている。 仕組債を買ったのは基金を有利に運用するためだった。保有額は約68億円に上った。ところが、退職手当の資金不足から換金が必要になった。約55億円分を売却したが、価格は約34億円3000万円、元金の6割ちょっとにしかならなかった。約20億6000万円値下がりした。一方の利息は約5億5000万円にとどまった。 「住民から預かっている大切なお金を一円たりとも減らすことがあってはならない」。関連取材の過程で、県内のある市の監査委員事務局職員はそう言い切った。 地方公共団体の現金や基金については、地方自治法235、241条や地方財政法4条が確実な保管や運用を求めており、それは、支払いに支障が生じない▽元本が保証されている▽換金容易な方法である―ことと解釈されている。銀行預金や国債、地方債、政府保証債権の買い入れは良いが、株券の取得などは認められていない。同組合も基金条例で同様の規定をしている。 運用の結果を見れば、仕組債がこうした条件を満たしていたとは、とても言えない。仕組債の元本が保証されるのは、満期まで保有した場合か、売った金融機関側の都合による解約で早期償還となった場合であって、買った側が満期前に売却すれば大きく元本割れすることが予想されていた。仕組債は流動性が低く、組合事務局によると、金融機関も「売却はできるが市場は狭い」と説明していた。 それだけではない。組合は元本保証の前提である満期保有を想定していなかった。大半の仕組債は満期が20―30年と長かったが、組合事務局は「導入当時、早期償還ありきで運用していた」と認めている。 早期償還は、運用が金融機関側にとって不利になったとき、金融機関側から一方的に契約を打ち切ることができる仕組み。組合の買った仕組債の利息は為替相場や長短金利の差に連動していて、利息が良かったころは早いもので3カ月から2年で償還になった。しかし、この傾向は2008年のリーマン・ショックで終わった。組合の当ては外れ、保有は長期化、折からの退職手当の資金不足が重なった。元本割れ覚悟で売却せざるを得なくなった。 総務省財務調査課に対し、元本割れに至るような運用は地方自治法に違反しないか聞いた。同課は「途中売却をもって一概に違反するとはいえない。買った時点では法に則った運用がなされていたといえる」とした。満期保有で元本保証という体裁が整っていれば良いという見解にとどまる。 売った金融機関の責任はそもそも、仕組債のような金融商品は地方公共団体の基金運用に向かないのではないか。売った金融機関の責任も問いたい。組合に仕組債を売った3社に次の点について尋ねた。 ①組合は早期償還を前提に仕組債を購入していたと考えられるが、保有が長期化し、基金の取り崩しで売却が必要になった場合、元本割れにより基金に大きな損失が生じる可能性があることを、組合の担当者に説明したか②組合の担当者は、それを理解していたか③地方公共団体である組合の基金運用を対象に販売する有価証券として、仕組債はふさわしくなかったのではないか。 みずほ証券のコーポレート・コミュニケーション部は、①と②について「通常の販売時と同様に商品のリスク等に関する説明については十分に実施している」とし、③について「お客さまのニーズに応じ、商品のリスク等に関する説明を十分に実施し、販売している」と回答した。 損失が生じたことへの責任に言及する社はなかった。 |
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