奈良県市町村総合事務組合(管理者、小城利重・斑鳩町長)の仕組債20億円損失問題は、「奈良の声」の調べによる報道がなければ、表面化することはなかったかもしれない。というのも組合には、仕組債を保有している退職手当基金がどのような方法で運用されているのか、公表する仕組みがないからだ。住民の負担が原資になっているにもかかわらずである。
退職手当基金の運用に関する情報は、地方自治法が地方公共団体に公表を義務づけた歳入歳出決算書の「財産に関する調書」の欄で唯一、年度末残高のほか、そうちの預金と有価証券の各総額が明らかにされるのみ。有価証券の内訳はなく、住民は組合が仕組債を保有していることすら知ることができない。
仮に住民が仕組債の保有を何かのきっかけで知ったとしても、組合には情報公開制度がなく、仕組債の取得、運用実績、売却などに関係する文書を開示請求することは不可能だ。記者が組合の仕組債保有を知って取材した際も、組合事務局は仕組債を売却したことは明らかにしたものの、肝心の売却額については「有価証券の情報開示は情報公開条例整備が前提」として答えなかった。
全国的に地方公共団体が保有する仕組債の塩漬け(利息がない状態での長期保有)が問題になり、国会で取り上げられたとき、国は次のような見解を述べた。2009年6月11日の参議院財政金融委員会で、政府参考人の望月達史・総務大臣官房審議官は「そういった恐れのある商品については運用を決定する段階、運用の過程についてきちんと市民に情報を公開し、説明責任を果たす必要がある」とした。当然のことながら、これが共通認識であるべきだ。
福岡県飯塚市はホームページで、仕組債の契約内容や運用状況を自主的に公開している。新聞などで仕組債の問題が報じられ、市議会でも質問が出たことを受けて、2010年度に始めた。こうした例に対し、組合事務局は「公開のために(現在はない)組合のホームページを作るのか」と言うが、これは方法の一つ。基金運用の詳細を組合の構成市町村に提供して、住民が開示請求できるようにすることだって考えられる。
仕組債には、定期預金や国債など従来の基金の運用方法にはなかった特質がある。為替相場などに連動して利息が変動し、早期償還になったり、長期の塩漬けなったりする。市場での流動性が低く、満期前に売却すると大きく元本割れする恐れもある。これに、地方公共団体の基金運用を規定している法や制度が追い付いていない。新しい状況に対応して、運用の詳細の公開を課すような仕組みを作ることが必要だ。