奈良県市町村総合事務組合(管理者、小城利重・斑鳩町長)の仕組債20億円損失問題で、変だと感じたのは、投機性の指摘されている債券を購入したり、それを元本割れ承知で売却したりするのに、組合議会の議決が要らなかったということ。地方自治法96条が議決を必要としている「重要な財産の取得、処分」には当たらないとされるためだ。これでは議会による点検の機会はないことになる。
片や奈良市は、多数の塩漬け土地を抱えた市土地開発公社の解散に向け、公社の借入金を肩代わりしたのと引き換えに保有土地で弁済を受けるが、土地取得時からの地価下落分に対する債権を放棄するに当たっては、市議会の議決を経なければならない。
元本割れと債権放棄では性格は異なるが、住民の財産が影響を受けることに変わりはない。この違いはどこから来るのか。
組合の仕組債購入は退職手当基金の運用の中で行われた。地方自治法170条は、地方公共団体の現金や有価証券の出納や保管を、会計管理者の職務権限としている。また、同法などは地方公共団体の現金について、確実・有利な方法を前提として預金のほか、有価証券に代えて保管することを認めている。つまり、基金運用に伴う債券の購入や売却はこの出納や保管の範囲であり、組合事務局の判断で行えるということだ。
組合事務局は取材に対し、「基金の運用は事務局に任されていた。運用方法は事務局長、会計管理者、担当課長の3者で検討し決めていた」と認めている。議会に対する説明は、組合の歳入歳出決算書で果たしているとする。「地方自治法上、決算書の説明で良いとされている」という。しかし、決算書には「有価証券の年度末残高」として、その総額が記されているだけ。仕組債の文字も数字もない。
仕組債購入は誰が決めたのか。売却の際に管理者の判断はあったのか。組合議会や組合構成市町村に仕組債のリスクや元本割れの発生は伝えたのか。組合事務局は次のように答えた。
「仕組債購入は、導入当時の事務局の収入役職務執行者(現在の会計管理者)が決めたのだろう。導入後、決算監査のときに、事務局から当時の組合長(現在の組合管理者)に説明した。売却の際も事務局から管理者に説明した」
仕組債売却前の2005~09年の4年間、管理者を務めた岡井康徳・河合町長は取材に対し、「(取材を受けるまで)仕組債という言葉すら知らなかった」と答えている。基金の運用方法について、組合事務局から決裁や指示を求められることはなかった、ともした。
基金の原資である退職手当負担金を支出している市町村が組織する一部事務組合の最高責任者に認識がなかったという。基金運用や仕組債の詳細を把握していたのは組合事務局だけだった。これで手続き上は問題がなかったというのなら、法や制度に欠陥があると言わざるを得ない。
検証の中編でも触れたが、仕組債には、定期預金や国債など従来の基金の運用方法にはなかった特質がある。会計管理者の権限で運用方法を決めることができるという法の規定は、こうした新しい金融商品を想定していないからだろう。
ただ、組合行政を点検する立場にある組合議会自体にも課題がある。
今年7月、組合の定例議会を傍聴した。仕組債が売却され、巨額の元本割れが発生した2011年度歳入歳出決算が認定されたが、質疑や討論はゼロだった。会議は20分で終了した。同様の元本割れが発生した10年度決算が認定された昨年度の定例議会も、議事録を見る限り同じだった。公開の議会が形式的で、実質的な審議がなかったら、住民は問題の存在をどうやって知ったらいいのか。
組合の執行機関である管理者、もう一方の議会(定数12人)の議員はともに県内の市町村長や町村議会議長が就任している。一部事務組合は固有の住民を持たないため、都道府県や市町村と違って、管理者、議員いずれも直接、選挙で選ばれるわけではない。いわばあて職。組合事務局によると、傍聴者も記者が組合始まって以来、初めてだった。こうした議会の姿は、さまざまな一部事務組合に大なり小なり共通するものでもあろう。
全国には仕組債の塩漬け問題などに取り組む議会もある。福岡県苅田町は17億円分の仕組債保有が批判を浴びた。町議会は2010年4月、基金運用調査特別委員会を設置、論議を続けている。
組合は仕組債の損失問題を検証し、その結果を公表すべきではないか。しかし、組合は20億円の損失について、過去の基金運用で得た利息の範囲内にとどまっていて損失はない、として説明責任を果たす気がない。住民が監視、点検できる仕組みを組合に求めて、住民は声を上げる必要がある。