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地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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思いやり?)求愛給餌で取った一瞬の行動/連載 野鳥~自然を生きる知恵・与名正三…2

オスからメスに魚を渡すコアジサシ

オスからメスに魚を渡すコアジサシ

交尾直前のサシバ

交尾直前のサシバ

オスからメスに魚を渡すカイツブリ

オスからメスに魚を渡すカイツブリ

仲良く餌をはむセイタカシギ(奥)とアカアシシギ(手前)

仲良く餌をはむセイタカシギ(奥)とアカアシシギ(手前)

 野鳥たちは日々の生活の中で、さまざまな相手と対峙(たいじ)しながら生きている。あるときはヒナを守るため、天敵のカラスやヘビ、イタチなどと、激しいバトルを展開したり、縄張り内に侵入した仲間の野鳥を、激しく攻撃して追い払ったりと、厳しい自然を生き抜くために日々身体を張って生活しているのだ。そのような野鳥たちの暮らしを長年観察してきた私にとって、心が揺さぶられる場面がこれまで何度かあった。

 幾つかの例を挙げてみよう。例えば、飛ぶ宝石と呼ばれ、野鳥の好きな人なら誰でも知っている鳥「カワセミ」が、求愛給餌のときに取った一瞬の行動。通常、カワセミは繁殖の時期になると、オスがメスの関心を引こうと、捕らえた小魚をプレゼントするのだが、その際、オスは小魚の頭の部分をメスの方に向け渡していた。これは、メスがのみ込んだとき小魚のえらが喉に引っ掛からないように配慮して、渡しているのではないかと思われる。

 このように相手を思いやるような行動は、他の野鳥でも見られる。

 浜辺の砂地などで繁殖する「コアジサシ」のオスがメスに魚を渡す場合に、滑らないように横向きで渡したり、大きな河川やため池などに生息する「カイツブリ」のオスがメスや幼鳥に捕らえた小魚を渡す場合に、小魚を何度か水面にたたきつけ、弱らせてから渡すなどの例がある。

 求愛給餌以外でも、相手に配慮した行動を見ることがあった。タカの仲間(クマタカ、サシバ、ハヤブサなど)の交尾は、木の横枝や岩に止まって待っているメスに対し、オスが背後から飛来し背中に乗って行うが、その直前オスは足のかぎ爪部分を拳を握るようにして丸め、メスの背中に乗っているのだ。オスにとって羽ばたきながらの交尾は不安定で大変だが、メスが傷付かないようにと配慮しているのだろう。

 また、野鳥たちの繁殖期における抱卵は、通常ほとんどメスが行うが、ワシやタカの中にはオス、メス交代で抱卵をする個体もいる。このような行動も、メスが長時間の抱卵で疲れや大きなストレスを抱えないようにとの、オスのメスに対する一つの思いやりかもしれない。

 以上、幾つかの感動例を挙げたが、このような行動は全て、野鳥たちの本能からくる行動であって、そもそも野鳥には思いやりや配慮、優しさなどの感情は無いと主張する研究者も多い。しかし、その行動を目の当たりにした私には、全てが「相手を思いやる感情からくる行動」としか思えないのだが、この記事を読んだ読者の皆さんは、どのように感じられただろうか。(よな・しょうぞう=野鳥写真家、月1回更新予定)