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発行者/奈良市・浅野善一
浅野善一

奈良県)奈良公園に誘致の高級宿泊施設の客室料金など不開示 公園開放性への影響検証できず 県、記者の請求に

県が開示した吉城園周辺地区事業の宿泊施設の事業収支計画(左)と高畑町裁判所跡地事業の宿泊施設の事業収支計画(右)。平均客室料金など金額を記載する欄はすべて黒く塗りつぶされていた

県が開示した吉城園周辺地区事業の宿泊施設の事業収支計画(左)と高畑町裁判所跡地事業の宿泊施設の事業収支計画(右)。平均客室料金など金額を記載する欄はすべて黒く塗りつぶされていた

 【視点】奈良県が県立都市公園「奈良公園」に誘致する二つの高級宿泊施設について、記者は県情報公開条例に基づき、県に対し、それぞれの宿泊施設の優先交渉権者が県に提出した事業収支計画の開示を請求した。目的は、高額になるとみられる客室料金を確認するため。同計画には平均客室料金が記載されている。

 これに対し県は、同計画の情報のほとんどを不開示とする一部開示を決定、平均客室料金も開示されなかった。不開示の理由については、条例で不開示が認められる「法人(この場合は宿泊施設の優先交渉権者)の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当するなどとした。

 宿泊施設は公園施設として設けられる。高額な利用料金は、都市公園の自由な利用に影響を及ぼす恐れがある。客室料金が明らかにされなければ、公園本来の開放性が守られるのかどうかについて、県民は検証できない。

不開示理由「事業者の交渉に影響する」

 開示請求は2017年4月26日付、県の一部開示決定通知書は2カ月後の6月23日付。条例では、開示・不開示の決定は通常、請求日から15日以内に行わなければならないが、最大45日間の延長が認められている。県は延長の理由について、文書の審査に時間を要するためと説明した。記者は県に対し9月7日付で、行政不服審査法に基づきこの一部開示決定の取り消しを求める審査請求を行った。現在、県から諮問を受けた県情報公開審査会が審査している。

 宿泊施設が誘致されるのは「高畑町裁判所跡地」と「吉城園周辺地区」。県は宿泊事業を行う民間事業者を公募型プロポーザル方式で募った。開示請求した文書は、高畑町裁判所跡地事業で優先交渉権者に決定したヒューリックが応募の際に提出した提案関係書類のうちの宿泊施設事業収支計画と、同じく吉城園周辺地区事業の優先交渉権者、森トラストが提出した宿泊施設等事業収支計画。

 開示された文書は、両事業どちらもA3判の表1枚。売上高合計とその内訳、営業総利益、支出合計とその内訳、運営純収入などの項目が並んでいて、各項目について将来20年間にわたって年度ごとの計画額を記載するようになっている。平均客室料金は項目の一つで、売上高のうちの宿泊部門売上は「客室稼働率×平均客室料金×客室数×営業日数」の計算式で算出されることが示されている。しかし、平均客室料金を含め、金額を記載する欄はすべて黒く塗りつぶされていた。

 唯一開示されたのは売上高の内訳を示す比率。高畑町裁判所跡地事業は宿泊部門売上が売上高のすべてであるため、すべての年度にわたって、宿泊部門売上の構成比の欄に100%という数字が並んでいた。吉城園周辺地区事業は宿泊、料飲、その他の3部門があるが、すべての年度にわたって構成比は変わらず、その比率は順に70.7%、13.9%、15.4%となっていた。

 県の一部開示決定通知書は、不開示とした部分について、県情報公開条例で不開示が認められる条例第7条第3号「法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」と、同条第6号「県の機関が行う事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」に該当するとした。

 県奈良公園室は記者への文書開示の席で、「各優先交渉権者は誘致する宿泊施設業者と交渉中であり、客室料金が公表されると交渉相手に足元を見られ、優先交渉権者の正当な利益を損ねる恐れがある」と説明した。また、「優先交渉権者と宿泊施設業者が正式契約に至った後に開示請求があれば開示する」とも述べた。

開示求め審査請求 「事業者の利益超える公益性」

 記者は、県の一部開示決定の取り消しを求める審査請求書で次のように指摘した。

 ①都市公園は一般公衆が利用する公共の開放空間であり、宿泊施設はその公園施設という位置付けにある。外形的には民間事業者による事業であっても、性質は県が直接行う公共事業に等しく、当該文書の情報は、条例で保護される法人の利益を超える高い公益性を有している。とりわけ客室料金は、県が「上質な宿泊施設」の誘致を表明していることから、公園の開放性が守られるかどうかを県民が知るのに欠かせない。条例には「実施機関(この場合は県)は、不開示情報が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し、当該行政文書を開示することができる」との規定もある。

 ②国土交通省都市局の都市公園法運用指針は、公園管理者以外の者の公園施設の設置について「一般公衆の自由な利用に供されるべき公共施設たる都市公園の本来の使命に影響を及ぼすことのないよう、入場料その他の料金の価格や販売する物品の種類及び価格等が社会通念上適正なものかどうか確認するとともに、必要に応じ指導等を行うことが望ましい」と求めている。公園管理者の県が「上質な宿泊施設」誘致の積極的な推進者であれば、代わって監視役を果たせるのは、県民、一般公園利用者しかおらず、開示は不可避である。

交渉相手は事業者と一体の会社

 ③高畑町裁判所跡地の事業で、優先交渉権者のヒューリックが誘致しようとしている宿泊施設の運営会社(KHリゾートマネジメント)は、ヒューリックがレジャー事業開発会社(カトープレジャーグループ)との合弁で自ら設立した会社である。ヒューリックが自らの意向を反映できる、ヒューリックと一体の会社であり、交渉に影響するとの理由は成り立たない。

 ④各事業は日々進捗(しんちょく)しており、平均客室料金などは速やかに開示されないと、県民は効果的に意見を表明したり、是正を求めたりする機会を失う。

 県は記者の審査請求に対し、行政不服審査法に基づき弁明を行った。10月20日付の弁明書(記事の末尾に全文)で次のように主張した。

 ①本件不開示情報を開示すれば、優先交渉権者の正当な利益を損なう恐れがある。当該事業の主目的は宿泊施設の整備ではなく、庭園など国指定名勝にふさわしい環境と宿泊施設を一体的に整備すること。宿泊施設は敷地の一部に設置するもので、敷地全体としてはさまざまな部分を一般公開するので、不開示とした客室料金の多寡によって公園の便益性が損なわれることはない。本件不開示情報の開示に、優先交渉権者の正当な利益を上回る公益性は認められない。

 ②本件不開示情報を開示すれば、優先交渉権者が宿泊施設等運営事業者との交渉で不利な立場になり、契約が不調に終わることになる。その結果、宿泊施設不足の解消を目的とした県の事業の遂行に支障を来す恐れがある。

 記者は11月19日付で弁明書に対する反論書(記事の末尾に全文)を県に提出した。併せて、県情報公開審査会に対し、口頭による意見陳述を申し立てた。

【記者の審査請求に対する県の弁明書】(県の文書を記者が文字入力した)

弁明書
奈公第166号
平成29年10月20日
奈良県知事荒井正吾

 浅野善一氏(以下「審査請求人」という。)が平成29年9月7日に提起した奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号。以下「条例」という。)第11条第1項の規定による行政文書の一部開示決定処分に対する審査請求につき、次のとおり弁明を行います。

第1 本件の経過

1 平成29年4月27日、審査請求人は奈良県知事(以下「実施機関」という。)に対し、条例第6条第1項の規定により「・奈良県が吉城園周辺地区保存管理・活用事業の事業者募集で優先交渉権着に決定した森トラスト株式会社が県に提出した提案関係書類のうちの宿泊施設等事業収支計画、・奈良県が高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業の事業者募集で優先交渉権者に決定したヒューリック株式会社が県に提出した提案関係書類のうちの宿泊施設事業収支計画」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行った。

2 平成29年6月23日、実施機関は、本件開示請求のうち「・奈良県が吉城園周辺地区保存管理・活用事業の事業者募集で使先交渉権者に決定した森トラスト株式会社が県に提出した提案関係書額のうちの宿泊施設等事業収支計画、・奈良県が高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業の事業者募集で優先交渉権者に決定したヒューリック株式会社が県に提出した提案関係書類のうちの宿泊施設事業収支計画」に対応する行政文書として、次の(1)開示する行政文書のとおり特定した上で、(2)開示しない部分(以下「本件不開示情報」という。)を除いて開示する旨の行政文書の一部開示決定(以下「本件決定」という。)を行い、(3)開示しない理由を付して、審査請求人に通知した。

(1)開示する行政文書

 ・森トラスト株式会社から奈良県知事宛てに提出された「吉城園周辺地区保存管理・活用事業」に係る公募型プロポーザル方式による募集に対する提出書類のうち、様式17-2 宿泊施設等事業収支計画(応募者記号A)

 ・ヒューリック株式会社から奈良県知事宛てに提出された「高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業」に係る公募型プロポーザル方式による募集に対する提出書類のうち、様式17-2 宿泊施設事業収支計画(応募者記号D)

(2)開示しない部分

  宿泊施設等事業収支計画及び宿泊施設事業計画に記載された客室稼働率、金額及び金額に関する記述の一部

(3)開示しない理由

  条例第7条第3号に該当

  法人に関する情報であって、公にすることにより、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため。

  条例第7条第6号に該当

  県の機関が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの

3 審査請求人は、平成29年9月7日、本件決定を不服として、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第2条の規定に基づき、実施機関に対し、本件決定の取り消しを求める審査請求を行った。

第2 処分の理由

1 本件行政文書について

 本件開示請求は、次の2つに分けられる。

 ・奈良県が吉城園周辺地区保存管理・活用事業の事業者募集で優先交渉権者に決定した森トラスト株式会社が県に提出した提案関係書類のうちの宿泊施設等事業収支計画(以下「請求1」という。)

 ・奈良県が高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業の事業者募集で優先交渉権者に決定したヒューリック株式会社が県に提出した提案関係書類のうちの宿泊施設事業収支計画(以下「請求2」という。)

ア 請求1について

 実施機関では、奈良公園基本戦略(平成24年2月策定)(以下「基本戦略」という。)に基づき、“世界に誇る奈良公園”の一画として、国指定名勝にふさわしい環境の維持・利活用を図るため、江戸末期から昭和初期の「和を基調とした風情の中に洋を感じる近代建築物」と庭が織りなす空間のありかたと、往時を偲ばせる邸宅の雰囲気を醸し出す空間美の保存を目的として、吉城園周辺地区保存管理・活用事業(以下「吉城園事業」という。)を実施している。

 吉城園事業は、平成28年12月から民間活力の導入を前提として国指定名勝奈良公園の保存管理・活用に資する事業として実施するため、事業を実施する民間事業者を公募型プロポーザル方式により募集及び選定(以下「公募」という。)する手続を開始し、平成29年3月に優先交渉権者が森トラスト抹式会社に決定した。

 吉城園事業については、優先交渉権者が自ら宿泊施設等に係る事業を行うのではなく、別の事業者と契約を締結し、当該契約の相手方の事業者(契約の締結について交渉中の者を含む。以下「宿泊施設等運営事業者」という。)に宿泊施設等に係る事業の運営をさせることが予定されている。

 請求1について、実施機関は、平成28年12月14日に開始した吉城園事業に係る公募手続に対して森トラスト株式会社から県に提出された書類のうち、様式17-2 宿泊施設等事業収支計画(応募者記号A)(以下「本件開示文書1」という。)を特定し、その一部を開示した。

イ 請求2について

 実施機関では、基本戦略に基づき、“世界に誇る奈良公園”の一画として、国指定名勝にふさわしい環境の維持・利活用を図るため、奈良公園にふさわしい歴史と文化の香りが漂う「大正期作庭の庭園を復元し、一般の方々に開放する」とともに、「敷地内の一部に興福寺子院があった往時を偲ばせる宿泊施設の整備」に取り組むことを目的として、高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業(以下「高畑事業」という。)を実施している。

 高畑事業は、平成28年12月から民間活力の導入を前提として国指定名勝奈良公園の保存管理・活用に資する事業として実施するため、事業を実施する民間事業者を公募型プロポーザル方式により公募する手続を開始し、平成29年3月に優先交渉権者がヒューリック株式会社に決定した。

 高畑事業についても、吉城園事業と同様に、優先交渉権者が自ら宿泊施設等に係る事業を行うのではなく、宿泊施設等運営事業者に宿泊施設等に係る事業の運営をさせることが予定されている。

 実施機関は、平成28年12月26日に開始した高畑事業に係る公募手続に対してヒューリック株式会社から県に提出された書類のうち、様式17-2 宿泊施設事業収支計画(応募者記号D)(以下「本件開示文書2」という。)を特定し、その一部を開示した。

2 不開示の理由

 本件開示文書1には、森トラスト株式会社が計画した、事業開始から20年間の当該事業に係る売上高合計、宿泊施設売上、宿泊部門売上の売上全体に占める割合(以下「売上構成比」という。)客室稼働率、平均客室料金(以下「ADR」という。)、料飲部門売上及びその売上構成比、その他売上及びその売上構成比、宿泊施設等運営の営業総利益率(以下「GOP」という。)及び宿泊施設等運営の営業総利益の金額、支出合計、建物コスト、その他GOP外支出、委託料他、家具什器備品等積立金(以下「FFEリザーブ」という。)、運営純収入、再投資及びその内訳に係る金額が表形式で記載されているほか、欄外にはそれらの注釈が付されている。

 本件開示文書2には、ヒューリック株式会社が計画した、平成29年度から平成48年度までの当該事業に係る売上高合計、宿泊部門売上及びその売上構成比、客室稼働率、ADR、GOP、支出合計、建設コスト、その他GOP外支出、開業準備費、FF&Eリース料、業務委託費、運営純収入並びに再投資及びその内訳に係る金額が表形式で記載されており、欄外にはそれらの注釈が付されている。

 これらのうち、売上構成比並びに本件開示文書1に係る欄外の注釈に記載された売上の変動及びFFEリザーブに関する記述を除いて不開示(以下「本件不開示情報」という。)としている。

 なお、優先交渉権者が、実施機関と事業実施に関する基本協定書を締結し、宿泊施設等運営事業者との契約内容に関する交渉が完了した後に、客施設稼働率及びADRについては開示できる旨、開示の際に審査請求人に説明したところである。

(1)条例第7条第3号該当性について

 条例第7条第3号本文は、「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」を原則として不開示情報とする旨規定している。

 また同号ただし書は、同号本文に該当する情報であっても、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要と認められる情報」については、同号の不開示情報から除外することとしている。

 本件不開示情報は、森トラスト株式会社及びヒューリック株式会社(以下「優先交渉権者」という。以下同じ。)の内部管理情報であるとともに宿泊施設等運営事業者との交渉の前提となる情報である。

 本件不開示情報を開示することは、宿泊施設等に係る不動産投資、宿泊施設等運営事業者との賃貸借契約、公募型プロポーザル等の企画競争等、様々な実績により培われた独自ノウハウを有している優先交渉権者だからこそ可能となる事業収支計画を開示することとなる。

 このことは、結果として、宿泊施設等事業の運営に係る市場において優先交渉権者が営業上の秘密としている事項を同業他社に知られることに繋がる。国内外を問わず大型物件であればあるほどコンペティションにより優先交渉権者の地位を獲得する方式が主流となりつつある昨今、コンペティションに多く参加する優先交渉権者にとって、特に事業収支計画に係る競争において不利な状況に立たされることとなり、優先交渉権者の正当な利益が損なわれるおそれがある。

 また、宿泊施設等に係る不動産投資に基づき、宿泊施設等運営事業者と賃貸借契約内容の交渉を行う際にも、特に費用に係る交渉において不利な状況に立たされ、優先交渉権者の正当な利益が損なわれるおそれがある。

 審査請求人は、吉城園事業及び高畑事業(以下「両事業」という。)は奈良公園内で行われることから、県が誘致する各宿泊施設は公園施設と位置付けられる、県が直接行う公共事業に等しい性質を有するものであることから、本件開示文書1及び本件開示文書2の情報は条例第7条第3号の規定を超える高い公益性を有するとみるべきであるとし、客室料金がどのような設定になっているかは、公園の開放性が守られるかどうかを県民が知るのに欠かせない情報である旨主張している。

 第2の1のア及びイのとおり、両事業は“世界に誇る奈良公園”の一画として、国指定名勝にふさわしい環境の維持・利活用を図ることを目的としている。また、両事業の主目的は宿泊施設の整備ではなく、庭園など、国指定名勝にふさわしい環境と宿泊施設を一体的に整備することである。このことは、報道発表、奈良公園地区整備検討委貞会、地元説明会等の機会を通じて県民に説明しているとおり、両事業では、庭園、交流・飲食施設、アーカイブ施設、宿泊施設の中庭など、敷地内の様々な部分を一般公開することから、公益性の高い事業であり、具体的な整備内容として公園利用者が自由に利用できる空間を設けていることを公表している。そして、両事業は公園利用者が自由に利用できる空間を設けて、敷地全体として都市公園本来の使命に影響のない、むしろ高める整備内容であり、一部に設置する宿泊施設に係る客室料金の多寡等によって公園の便益性が損なわれるものではない。

 また、審査請求人は、「平均客室料金などの本件不開示情報が速やかに開示されなければ県民が効果的に意見を表明したり、是正を求めたりする機会を失い、高額な客室料金は公園の自由な利用を妨げる」とも主張しているが、客室料金の多寡が公園の便益性を損なうものではない以上、本件不開示情報を開示しないことによって、両事業について、県民の効果的な意見表明や是正を求める機会が失われているものではなく、また、両事業の公益性を鑑みて積極的な情報開示を行うべきであるという立場に立ったとしても、本件不開示情報を開示することで害される優先交渉権者の正当な利益を上回る公益上の必要性は認められない。

 これらのことから、本件不開示情報は、条例第7条第3号本文に該当する。

 また、同号ただし書に該当しないことは明らかである。

 以上のことから、本件不開示情報は、条例第7条第3号に該当する。

(2)条例第7条第6号該当性について

 条例第7条第6号本文は、「県の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報とする旨規定している。

 本件不開示情報を開示することは、優先交渉権者が交渉中の宿泊施設等運営事業者との関係において不利な状況に立ち、その結果として契約が不調に終わることとなる。

 両事業は、本県の宿泊施設不足を解消する方法の一つとして実施しているところであり、契約が不調となることにより、実施機関が目標としている宿泊施設不足の解消を目的とした事業の遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、条例第7条第6号に該当する。

 したがって、本件不開示情報は、条例第7条第6号に該当する。

第3 結語

 以上のことから、実施機関が行った本件決定は妥当なものであり、原処分維持が適当と考える。

【県の弁明書に対する記者の反論書】

反論書
2017(平成29)年11月19日
奈良県知事 様
審査請求人
浅野善一

 奈良県知事の2017年6月23日付行政文書一部開示決定処分(奈公第84号)に対し、審査請求人が提起した2017年9月5日付審査請求について、知事から2017年10月20日付で弁明書(奈公第166号)の提出がありましたので、次の通り反論します。

1.本件審査請求の趣旨

 当該宿泊施設は、県が設置・管理する県立都市公園「奈良公園」に公園施設として設置されるものであり、民間事業者による事業であっても、性質は県が直接行う公共事業に等しい。故に、本件不開示情報は条例第7条第3号、同第6号の規定を超える高い公益性を有すると見るべきである。

 中でも、優先交渉権者が想定する平均客室料金は、一般公衆の自由な利用に供されるべき公共施設たる都市公園の本来の使命に影響を及ぼすことのないよう、適正なものとなっているかどうか、県民が確かめる上で欠かせない情報である。とりわけ、県が当該事業において「上質な宿泊施設」の誘致を表明し、客室料金が高額になると見込まれている点を考慮すると、公益性、その開示の必要性はますます高いと考えるべきである。県は条例第9条の規定に従って、本件不開示情報を開示することが可能であり、審査請求人は本件一部開示決定処分の取り消しを求めるものである。

2.弁明書による県の主張

 審査請求人は、弁明書による県の主張についておおむね次の通りと考える。

 条例第7条第3号の該当性については、本件不開示情報を開示すれば、優先交渉権者の正当な利益を損なう恐れがある。当該事業の主目的は宿泊施設の整備ではなく、庭園など国指定名勝にふさわしい環境と宿泊施設を一体的に整備すること。宿泊施設は敷地の一部に設置するもので、敷地全体としてはさまざまな部分を一般公開するので、不開示とした客室料金の多寡によって公園の便益性が損なわれることはない。本件不開示情報の開示に、優先交渉権者の正当な利益を上回る公益性は認められない。

 条例第7条第6号の該当性については、本件不開示情報を開示すれば、優先交渉権者が宿泊施設等運営事業者との交渉で不利な立場になり、契約が不調に終わることになる。その結果、宿泊施設不足の解消を目的とした県の事業の遂行に支障を来す恐れがある。

3.県の主張に対する反論

 県が当該事業において「上質な宿泊施設」と表現する宿泊施設は、いわゆる高級宿泊施設のことである。

 県がこれまでに公表した資料によると、高畑町裁判所跡地の宿泊施設は客室数30室、全室がスイート仕様で、1室当たりの面積は71~122平方メートルと広く、温泉露天風呂が全室に備わっている。一般にスイートは、応接間などが付いている上級の客室で料金も高い。

 優先交渉権者のヒューリックは、高畑町の宿泊施設について独自に公表した広報資料で、同施設を「奈良ふふ」として運営することを明らかにしている。同じ系列の高級旅館に「熱海ふふ」(静岡県熱海市)があり、同旅館のホームページによると、客室は「奈良ふふ」と同様にすべてスイート仕様、客室料金は「奈良ふふ」より狭い60平方メートルの部屋で4万500円(1人当たり)以上となっている。

 吉城園周辺地区の宿泊施設も、客室数は明らかにされていないが、1室当たりの面積は50~70平方メートルが中心と広い。優先交渉権者の森トラストは、最高級インターナショナルブランドのホテル誘致をうたっていることから、客室料金は高額になるとみられる。

 高額な客室料金は、都市公園の設置・管理基準を定めた都市公園法の目的「公共の福祉の増進」に反する。「公共の福祉」とは、社会的、経済的弱者にも公平に自由と権利を保障することと考えられている。この都市公園法の目的を踏まえた、国土交通省都市局作成の都市公園法運用指針は、公園管理者以外の者の公園施設の設置の在り方について考え方を示している。

 指針は「一般公衆の自由な利用に供されるべき公共施設たる都市公園の本来の使命に影響を及ぼすことのないよう、入場料その他の料金の価格や販売する物品の種類及び価格等が社会通念上適正なものかどうか確認するとともに、必要に応じ指導等を行うことが望ましい」と、公園を設置・管理する地方公共団体に求めている。

 日本政策金融公庫の「国内宿泊施設の利用に関する消費者意識と旅館業の経営実態調査」(2013年2月12日)によると、5000人を対象にしたインターネットによるアンケート調査では、国内旅行の1泊当たりの平均宿泊料金は、1万円~1万2000円未満が19.7%で最も多く、次いで、さらに低額の8000円~1万円未満が18.1%、6000円~8000円未満が15.5%だった。

 当該事業の宿泊施設の客室料金は、同調査結果から推定される「一般公衆」の宿泊料と大きな開きがあると考えることができる。そうすると、客室料金を開示すれば、優先交渉権者の正当な利益が損なわれる恐れがあるとする県の主張の一方で、県民、公園利用者が本来、公園から享受できるはずの正当な利益が損なわれる恐れが浮上してくる。

 よって、平均客室料金が明らかにされなければ、条例第1条「目的」にある「県政に対する県民の理解と信頼を深め、県民の県政への参加を促進し、もって県民の知る権利への理解を深めつつ、県の有するその諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、公正で開かれた県民本位の県政を一層推進すること」を阻害することになる。

 当該宿泊施設は、公表されている計画概要から見て、高畑町裁判所跡地、吉城園周辺地区のいずれの事業においても主要施設である。

 高畑町裁判所跡地について、県が明らかにしている敷地の施設配置図では、庭園ゾーン、宿泊ゾーン、交流・飲食ゾーン、緩衝緑地ゾーンの4つの区域のうち、宿泊ゾーンと宿泊者や来訪者に飲食を提供する交流・飲食ゾーンは敷地全体の半分を占める。宿泊ゾーンは、敷地の重要な場所の一つである高台の松林院跡に設けられる。

 吉城園周辺地区においても、知事公舎など保存して活用する建物を含め、全施設の建築面積は5800平方メートルになるが、このうち主に宿泊施設の客室になる新築建物の建築面積は3900平方メートルを占める。

 宿泊施設を事業敷地における主要施設と見れば、「客室料金の多寡」は当然、「公園の便益性」を左右する。誰もが自由に利用できる開放空間として設置される都市公園の公共性が守られるかどうかという問題と、強く結び付いている。

 加えて、宿泊施設が公園施設である以上、「敷地の一部」か「敷地全体」かに関わらず、都市公園法に拘束され、同法運用指針に沿うよう求められることに変わりはない。

 ここまで述べてきたように、高級宿泊施設として設置される当該事業の宿泊施設は、都市公園の公共性を失わせる恐れがある。県は県内の宿泊施設不足解消を目的に挙げるが、都市公園の公共性の点で事業そのものが妥当性を欠けば、その遂行に支障を来すという、県の主張は認めにくい。

 また、審査請求人は審査請求書において、高畑町裁判所跡地の事業で、優先交渉権者のヒューリックが誘致しようとしている宿泊施設の運営会社は、ヒューリックがレジャー事業開発会社との合弁で自ら設立した会社である、と指摘した。ヒューリックが自らの意向を反映できる、ヒューリックと一体の会社である。

 弁明書はこの点への言及がなかったため、再度、述べるが、客室料金を開示すれば、優先交渉権者が宿泊施設等運営事業者との交渉で不利な立場になるとの県の主張は説得力を欠く。吉城園周辺地区とひとくくりに扱って、高畑町裁判所跡地の宿泊施設の客室料金を開示しないのは誤りである。

 奈良少年刑務所を宿泊施設として活用する法務省は、事業を行う優先交渉権者決定を発表した際、「宿泊料金は1万2000円から2万円台までを想定」(2017年5月27日付奈良新聞)と明らかにしている。文書開示の日、審査請求人が開示の例としてこれを挙げると、県奈良公園室は、奈良少年刑務所について、優先交渉権者が直接、宿泊施設を運営するケースであり、事情が異なると述べたが、まさに、高畑町裁判所跡地は優先交渉権者が直接、宿泊施設を運営するに等しい。

 県は、優先交渉権者が県と事業実施に関する基本協定書を締結し、宿泊施設等運営事業者との契約内容に関する交渉が完了した後に、客施設稼働率と平均客室料金は開示できる旨、審査請求人に説明したとしている。開示が後になればなるほど、県民の意見表明の効果は低くなり、是正を求めるのは難しくなる。速やかに開示すべきである。

4.結論

 本件一部開示決定処分は妥当性を欠くものであり、取り消すのが適当と考えるが、中でも平均客室料金の不開示は著しく妥当性を欠く。また、優先交渉権者と宿泊施設等運営事業が実体として一体である高畑町裁判所跡地の客室料金を、交渉で不利な立場になるとの理由で、吉城園周辺地区と同列に扱うことも著しく妥当性を欠く。

5.証拠

ア)第13回奈良公園地区整備検討委員会会議資料
・高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業「宿泊ゾーン及び交流・飲食ゾーンの整備内容」
・吉城園地区保存管理・活用事業の整備内容
イ)熱海ふふホームページ画面を印刷したもの「お部屋/料金」
ウ)日本政策金融公庫「国内宿泊施設の利用に関する消費者意識と旅館業の経営実態調査」(抜粋)


読者の声

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