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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

傷害事件の発達障害男性「拘束は不当」の訴え、退ける 医療観察法・精神鑑定収容で最高裁が上告棄却

元被疑者の男性に対する医療観察法運用の経過

 医療観察法の運用により必要のない鑑定入院を強いられたとして、傷害事件の元被疑者の男性(40歳代)が国に慰謝料などの損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第三小法廷(戸倉三郎裁判長)は男性の訴えを棄却した。これにより鑑定収容を是認した東京高裁の判決が確定した。判決は10月20日付。

 男性は2011年11月、傷害の疑いで送検され、心神耗弱などを理由に不起訴となった。ところが、事件の発生から750日余りが過ぎた2013年、不起訴や無罪になった人々らを強制治療する医療観察法の申し立てを受けた。事件当時の精神症状などにさかのぼる鑑定のため、東京都三鷹市内の精神科病院に58日間収容された。精神鑑定の結果、同法の治療の対象とならない知的障害および発達障害と診断され、釈放(不処遇決定)された。

 医療観察法の鑑定入院中は、外出の自由は認められない。男性の鑑定に要した実際の日数は48日間で、残る10日間は、処遇を決める地裁審判の期日に備えて待機するための、法令によらない身柄拘束だった。

「提訴に意義あった」と弁護団

 男性の弁護団「医療扶助・人権ネットワーク」事務局長の内田明弁護士は「結果としては全面敗訴となったが、提訴したことで検察官に緊張感を与え、何でも精神障害があれば医療観察法の手続きに乗せるという安易な運用や事件放置を事実上抑止する効果はあったはずです。提訴に意義はあったと考えています」と話す。

 弁護団は一審から憲法違反の身柄拘束であると主張したが、退けられた。

 通常の刑事事件においては、無罪になった人に対し、収容日数に応じて補償する制度がある。一方、医療観察法の収容を巡っては、同法による強制治療が必要ではないと釈放された人に対し、鑑定により自由を剥奪された日数に応じた補償はない。男性は「必要のない収容だった」と一貫して訴えていた。

 法案段階の国会質疑で当時の法相は、社会復帰の促進を最終的な目標とする制度であるから、本人の利益となる面も有するとして「補償の適用はない」と答弁している。これに対し、中山研一京都大学名誉教授は論文の中で少年法の保護事件を引き合いに出し、たとえ少年本人の利益となる側面があっても、補償を拡大していると指摘した。

 これではバランスを欠いている。医療観察法がうたう対象者の社会復帰という言葉はきれいだが、記者が法務省に社会復帰の実績について開示請求したところ、文書不存在だった。

 3年8カ月にわたる審理はこれで集結した。高裁の傍聴席には、精神障害者の当事者運動の担い手、山本真理さんの姿もあった。男性の家族は「釈然としない結果に終わったが、弁護団はベストを尽くしてくれた。4年近くの長きに渡りご支援をいただき心より感謝申し上げます」と支援者に電子メールで発信した。

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