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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

視点)医療観察法、空白の14日間を考える 奈良県が措置入院記録を開示

 精神病を理由に刑事責任を問わない被告に対し、脱法的な身柄拘束が疑われる事例が山口県で指摘されていたことを、「奈良の声」は2020年5月28日付で報じた。こうしたことは、他県でも起きうるのか。記者は、地元の奈良県情報公開条例に基づき、関係する文書を県に開示請求してみた。

 山口県で指摘されたのは、医療観察法(法務省、厚生労働省共管)の収容手続きを進めるために、自傷他害の恐れのない3人を精神保健福祉法の措置入院(知事の行政処分)扱いとしていた問題。いずれも刑の執行が猶予された人たちで、健常者であれば即時釈放となる。3人に対し、執行猶予判決が確定するまでの14日間は、医療観察法の申し立てが法律上できないことから、措置入院の形式をとって身柄を拘束した疑いがもたれている。

 記者がこのたび奈良県に開示請求したのは、執行猶予判決が言い渡された人の措置入院に関する記録。保存年限は5年間で、県は1日までに、2017年に作成した2件の保管文書を開示した。

 これら2件とも、措置入院の開始から15日目に検察官が医療観察法の申し立てを行い、措置入院が解除されていた。当事者の身柄は鑑定医療機関に送致され、その結果などをもとに奈良地裁が強制治療(専用病棟への入院または通院)か不処遇(釈放)かを決めた。

 県疾病予防課の精神保健福祉担当者は「判決が出てすぐに措置入院の要件である2医師(精神保健指定医)による診察体制を整えることは難しいので、判決の期日が決定すると地検から事前の相談がある」と話す。

 奈良県が開示した2件はいずれも、精神保健指定医の1次診察、2次診察の結果が自傷他害の恐れがあることなどで一致し、措置入院の要件を満たしていた。

 山口県のケースも、書面上は、精神保健福祉法が要請する措置入院の要件を整えていたとみられるが、同県医療観察法病棟に勤務する医師が6年前、論文の中で、3例の措置入院について「明らかに自傷他害の恐れが認められる事例はなく、つなぎ措置的な意味合いだった可能性もある」と言及していた。

 この事実だけをもって奈良県に対し同様な疑いをかけることはできない。

 2つの県の取材を通して、精神保健福祉法というものは、社会の理想を体現しそうな名前の割に、どこかに建て前があり、国家の社会防衛体制を補完する側面もあると感じられた。

 医療観察法の運用につなげるための、措置入院を利用した身柄確保は、司法精神医療の専門家などの間では「つなぎ措置」と呼ばれている。法務省刑事局は「そうした制度はない」としている。

 山口県医師の論文を、措置入院担当の奈良県職員に読んでもらった。「正直、当惑した」と言う。ただ措置入院は課題があるとし「法が要請する措置入院の1次、2次の診察のそれぞれにどこまで独立性を担保できるか、精神保健指定医の数が限られており、本県の課題である」と話す。

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