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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

廃止の西奈良県民センター周辺、公共集会施設の空白地域に 市公民館など、重複避け配置してきた結果か 跡地は売却予定

西奈良県民センター跡地周辺の奈良市公民館など

売却が予定されている西奈良県民センター跡地。センター廃止によって周辺は公共の集会施設の空白地域になっている=2021年8月16日、奈良市登美ケ丘2丁目

売却が予定されている西奈良県民センター跡地。センター廃止によって周辺は公共の集会施設の空白地域になっている=2021年8月16日、奈良市登美ケ丘2丁目

 住民の文化活動や地域活動に利用されてきた奈良市登美ケ丘2丁目の県施設、西奈良県民センターが2016年に廃止されてから5年余り。1970年代初め、大規模な宅地開発が進む奈良市学園前地域における集会施設の先駆けだった同センターの周辺は今、逆に公共の集会施設の空白地域になっている。

 センターに続く市の公民館などの整備が、付近での同種施設の重複を避けて進められた結果とみられる。

 センター跡地は今年度、一般競争入札による売却が予定されている。これに対し、住民でつくる「西奈良県民センター跡地利用を考える会」(川島信彦世話人代表)がことし1月、県に3000人の署名を提出、売却中止と防災を兼ねた公共施設の建設を求めているが、県の売却方針は変わっていない。

 一方、奈良市は昨年7月、県から跡地活用の意向について照会を受けたが、「利活用の意向無し」と回答。

 センターが開館したのは1971年9月。学園前地域における新旧住民の対話と交流の場の提供▽県政の広報、県民生活に関する相談業務▽住民の自主的レクリエーション、体育その他の文化活動についての指導―などを目的に設置された。建物は鉄筋コンクリート造り2階建て、延べ床面積約1066平方メートルで、ホールや集会室、和室などを備えていた。

 「跡地利用を考える会」は、県が利用団体にセンターの廃止方針を伝えるため作った説明資料や、廃止を巡る県と自治会関係者のやりとりを記録した県作成の会議録を入手した。それによると、「県民の集い」などセンターによる自主事業は1998年度で終了、併設の奈良保健所西奈良保健センターは2001年度をもって廃止された。一方、継続された貸館事業の稼働率は2012年ごろで70%に上っていた。

 センター周辺の公共の集会施設は、県がセンター廃止の方針を周辺自治会に通知した際に配布した「西奈良県民センター周辺の公民館等施設」などを参考にすると15施設。いずれも奈良市設置の施設で、内訳は公民館8施設、公民館分館5施設、地域ふれあい会館2施設。

 これら施設は東西4.6キロ、南北3.6キロの範囲にあり、分布状況を地図上で確かめると、センターから1キロ前後の範囲が施設の空白地域になっていることが分かる。周辺の施設はセンターを遠巻きにするように配置されている。

 それぞれの施設の開館日については、公民館は奈良市の「公民館要覧」(2021年度)で確認。公民館分館は市教育委員会地域教育課に、地域ふれあい会館は市地域づくり推進課に問い合わせた。

 それによると、15施設のうち、西部公民館と公民館分館3施設を除く11施設はいずれも、センター開館後に整備されたものだった。年代別では、50年代に1施設、60年代に2施設、70年代に6施設、80年代に4施設、90年代に1施設、2000年代に1施設が設置された。西部公民館はセンター開館2カ月前の1971年7月に開館した。

 県は2014年、周辺の自治会長宅を訪問してセンター廃止の方針を伝えた。南登美ケ丘第2自治会の会長は県協働推進課(当時)課長との面談で、「奈良市もセンター周辺を避けて、施設を配置している」と指摘、「県民センターがなくなると、この地域が集会所の空白の地域になる」との懸念を伝えていた。

 2015年の県から同自治会への通知「西奈良県民センターの廃止の方針について」は、「現在、西奈良県民センターは公民館的な利用となっているが、当時は少なかった奈良市の公民館、ふれあい会館などの生涯学習施設、文化施設も、現在では周辺に相当数が整備されている状況」と述べて、近隣の公民館などを案内しているが、自治会長の懸念に対する答えはない。

 「跡地利用を考える会」は奈良市に対しても、県と跡地活用の再協議を行うよう求める要望書を提出しており、今月3日の市都市整備部との面談では「市は西奈良県民センターに依存してきた」と指摘、センター周辺が集会施設の空白地域になっている点を市の問題としても捉えるよう訴えた。

 「奈良の声」は、公民館を担当する市教委地域教育課と地域ふれあい会館を担当する市地域づくり推進課に次の3点について見解を聞いた。

1)西奈良県民センターがなくなった後、跡地付近は住民が利用できる集会施設の空白地域になっているのではないか。

2)こうした状況の背景には、西奈良県民センターがあった当時は、市もこれに依存して、センター付近を避けて集会施設を配置してきたという事情もあるのではないか。

3)上記のような状況、事情を考えれば、市は跡地活用にもっと積極的に関わって、県との交渉を行うべきではないか。

 両課とも、センター周辺が集会施設の空白地域になっているのではないかという点、それはセンター付近を避けて施設を配置してきた結果ではないのかという点について、直接の回答はなかった。

 地域教育課は「公民館は市民にご利用いただきやすいよう中学校区ごとに1館、配置をしており、公民館分館と併せて、お住まいの近隣の施設をご利用していただいている。市の厳しい財政状況の中、限られた予算を活用して公民館の運営や管理を行っていく必要があり、公民館の新設を行う予定はない」などと回答した。

 一方、地域づくり推進課は「西奈良県民センター跡地付近には、とみの里地域ふれあい会館や青和地域ふれあい会館があり、ふれあい会館の利用をご希望であれば、そちらを利用いただくことを想定している」などと回答した。

 市は昨年11月、財政状況について県から「重症警報」を発令されるなど、財政上の課題を抱えている。

回答全文

【地域教育課】

 地域教育課では、社会教育施設として公民館(24館)・公民館分館(24館)の運営・管理を行っています。

 現状、本市の公民館施設につきましては、できるだけ市民の方々にご利用いただきやすいように、中学校区ごとに1館、配置をしており、公民館分館と併せて、お住まいの近隣の施設をご利用していただいているところです。

 そのような中、現状の公民館施設の利用状況を見ますと、担当課としましては、より多くの方々にご利用していただくよう努力しなければならないと考えております。

 加えまして、公民館施設につきましては、今後も施設の維持管理が必要であり、本市の厳しい財政状況の中、限られた予算を活用して運営や管理を行っていく必要があります。

 このようなことから、現在のところ、公民館施設の新設を行う予定はございません。

 今後におきましても、引き続き、現状を維持しながら、市民の皆様が利用しやすい公民館を目指し、努力してまいりますので、ご理解と、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

【地域づくり推進課】

 地域づくり推進課では、地域の交流活動および福祉活動の拠点として、地域ふれあい会館を設置しております。西奈良県民センター跡地付近には、地域ふれあい会館としては、とみの里地域ふれあい会館や青和地域ふれあい会館があり、公共施設の中でふれあい会館の利用をご希望であれば、そちらを利用いただくことを想定しております。ご理解、ご協力をよろしくお願いいたします。 続報へ

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