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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

生駒市が女性の生活保護判断一転 申請2度却下も裁判所への申し立て機に開始決定

生駒市役所=2021年12月15日、同市東新町生駒市役所=2021年12月15日、同市東新町

 奈良県生駒市が、生活に困窮した50代の1人暮らしの女性が今年7月までに行った2度の生活保護申請に対し、母親から扶養の意思を確認できたとしていずれも却下したのに、女性が奈良地裁に申し立てたのを機に11月、一転して保護の開始を決定した。この間、市はどのような対応をしてきたのか。

 申し立ては、仮に女性の保護を開始するよう市に義務付けることを求めた緊急的なもので10月18日付。また、女性は申し立てと同時に、今年4月の1度目の申請却下について「違法」として、市を相手取り、却下処分の取り消しなどを求める訴えを同地裁に起こしており、今月2日、1回目の口頭弁論があった。

 女性側が提出した訴状などによると、女性に対する生活保護は2016年1月から開始されたが、市は昨年10月、女性が求職活動などの指導に従わなかったことを理由に停止。同12月には「親類・縁者等の引き取り」を理由に廃止した。

 しかし、女性は実家には戻らず、生活に困窮。今年4月、あらためて保護を申請したが、市は廃止時と同様の理由で却下。女性は7月に再度、申請したが、市は8月、同様の理由で却下した。

 4月の1度目の申請時の女性の月収は3万9000円。家賃は保証人の妹が支払っていたが、電気、ガスは料金未納で止められていた。その後、仕事の1つを失って、10月以降の月収は約1万円となり、食料はフードバンクにも頼るなどしたが、十分ではなかった。女性は保護廃止後、精神障害者保健福祉手帳2級の交付を受けている。

 女性側は提訴の理由について、「保護停止以降、健康で文化的な最低限度の生活に至らない状況だった」とし、「保護の要件を満たしていた」とする。

 市が「親類・縁者等の引き取り」を理由したことに対しては、生活保護法が「扶養は保護に優先して行われる」としているのは「扶養援助があった場合にその額が保護費から差し引かれることを意味するにすぎない」として、「扶養は保護の要件ではない」とする。

 「親類・縁者等の引き取り」を巡っては、女性側は「市の聴取に対し、実家に戻るつもりがないことを再三伝えてきた」としている。また、女性の母親が77歳で認知症を患う要介護2の状態で年金生活であることを挙げ、「母親の引き取りの意思は合理的な扶養の意思として取り扱えるものではない」としている。

 一方、市側は1回目の口頭弁論で女性側の請求の棄却を求めて争う姿勢を示した。答弁書によると、市は昨年12月の保護廃止の理由について、女性から「実家に戻る。保護を廃止してもらって構わないとの申し出があった」とする。4月と7月の申請を却下したことについても、実家に戻るとの女性の意思、母親の扶養の意思が確認されたとする。

 また、母親の判断能力については「4月に職員3人が自宅で聞き取りを行った際、受け答えははっきりしており、不十分とはうかがえなかった」と反論している。

 市側は、国の考え方を示した生活保護手帳別冊問答集の記載を挙げて、「扶養義務者である母親に扶養の意思がある以上、女性が扶養を拒む意思を有していたとしても保護の要件を欠く」と述べ、女性の保護申請を却下したことに違法な点はなかったとする。

 精神障害者の生活保護申請の支援にも携わる精神保健福祉士で県精神科ソーシャルワーカー協会事務局の永石淳哉さんは「保護申請があった場合、行政は本人の希望だけで保護を開始できない。いろいろチェックして決定する。廃止の申し出があった場合も、本人がやっていけるかどうか行政はチェックしないといけない」と話す。

 生駒市に取材した(12月15日、市役所で市生活支援課に聞いた)。以下に質問と回答。

1)女性側によると、今年11月の保護開始時には、それまでのように母親に扶養の意思があるかどうか、原告に実家に戻る意思があるかどうかの調査は行われなかったとのことだが、なぜか。

回答)裁判所に理由を提出する。

2)市側の答弁書によると、生活保護の開始が決定された2016年1月から2020年9月の就労指導まで4年半あるが、この間に就労指導はなかったのか。

回答)個人情報に関わるので答えられない。

3)答弁書によると、市は2020年12月、女性が「実家に戻る。保護を廃止してもらって構わない」と申し出たその日に廃止を決定したことになっている。それで生活していけるかどうかの裏付け調査は必要だったのではないか。

回答)弁護士に任せているので答えにくい。本件から離れて、生活保護を毛嫌いする人もいる。生活保護から抜けたい、やっていけると本人が述べても、仕事や生活をどうするか、成り立つかどうか検討する。本人の希望だけで廃止するようなことはしない。

4)市は、女性から「実家に戻る」と申し出があったというが、保護廃止後も実家には戻らず、電気、ガスが止まり、食料も十分にない困窮生活を続けていた。今年4月か7月の申請のときに保護開始へと方針を変えても良かったのではないか。

回答)裁判に関わるので答えられない。

5)認知症を患い要介護2の認定を受け、年金生活を送る77歳の母親による扶養の意思表明をもって、市は申請却下の根拠としている。今年2月26日付の厚労省事務連絡「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」には、「期待できない」例として「70歳以上の高齢者」が示されているが、その点はどうか。

回答)裁判に関わるので答えられない。 続報へ

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